希望の都
第四の月は去り、完全なる新月の闇も無事に過ぎた。新たな一ヶ月を人々は喜び、昼の町さえ賑やかな一週間が始まる。
「地表の街の感想を聞きたいな、ロデル」
「正直、驚きました」
留守役に回っていた休眠期間を利用してイズマの書庫を6割ほど制覇したロデルは、南大陸でかつて放たれた『滅び』の兵器についても子細を把握している。
「邪悪な力による汚染は、通常の方法では何百年もかけねば取り除くことができないとされていましたので……」
「ふふふ、そうだな。人間も魔族も存外にたくましい――善哉」
わずか(と言ってもよかろう)二百年の時を経ただけだというのに、対汚染鋼材で覆われた街の賑々しさといったらない。
地表に住む人々は、南洋の遠方に出て難を逃れた海洋都市『海』の人々と交易を結び、順調に富を得ているという。
また、男女問わず特殊鋼で作った甲冑を着込み、三百年は歩くこともできないとされた土地を闊歩してもいた。
小さな商店街には『海』から持ち込んだらしい魚類や人工肉、野菜に混じって、見たこともない食用植物が売られている。
「すごい。イズマさんの試作品と同じのだ……」
種を分けてもらったと、青年が胸を張った。
いま魔王と側近が身につけている小型浄化装置の試作品が完成すれば、いずれ彼らの素顔を見ることもできるだろう。
「この地方は、歴史や過去に囚われているのだと思っていた。だが、例によってとんだ見当違いであったよ。
ここは『これから』の街なのだ。活気と期待と望みがあふれている」
「蒼く輝く希望の都――とても素敵ですね」
あとはイズマの野心が叶い、『結界』が取り払われてしまえば、もっと混沌としためまぐるしさがやってくるはずだ。
『上』との交渉次第だろうが、遠くないうちにそのテーブルが用意されそうな気配がしている。ダイス社から送った調査員によれば、マティルダ姫が協力者を集めて算段を始めているらしいのだ。
2016年 02月18日 12時03分 公開




