博士の小さな野望(1)
それから一週間が過ぎようとする頃。
第四の月のもとでは大概の生物が活動を制限されるため、その週の夜には無条件の休息を取らざるを得ない。
この夜は魔物を生み出すゆりかごである。故にこそ、この世界から『魔物』の存在が消え果てることはない。
魔族も人間も月光の力から抜け出すことはできないが、むろん中には例外もあって……。
「魔物どものための輝き、か……」
「訳知り顔だな、イズマ殿」
「ふふん、まぁねー」
遮光眼鏡の奥でみどり輝く瞳を細め、孤高の白紙が口角を上げた。着こんでいる白衣に特殊な仕掛けでもあるのか、つかつかとばかり地表を踏みしめて歩いている。
見上げれば仄明るい『ルミネイト鉱』で自ら光を発する空中要塞が確認できるが、彼女はあまり関心がないようだ。
『滅びの杖』の邪悪な魔力を相殺する鋼で固められた地表は月光に蒼く輝き、ある意味で幻想的な光景といえた。
「確かに色々と知ってるけど……聞く?」
「良いさ。この眼とこの足で確かめてみたいのだ」
「つくづく物好きな魔王だなぁ、アンタは」ひとしきり笑って、「着いたよ」
鋼材で覆われた広い街の一角で立ち止まる。短く詠唱すると、例のごとく会談が現れた。
「あたしの研究所にようこそ」
降りきった先は、巨大な建物だった。
「地下にどうやってこれを」
「へっへっへ。『物置』の術式をチョチョイと弄っただけさ。アンタやアンタの国なら簡単に分かるだろうぜ」
「むぅ」
時間や空間を歪められる魔導師は魔王軍――ワンダーダイス社でも一握りである。技術研究部の設置を本気で考えねばならない。
「今からだと、追いつくには随分かかりそうだ」
「まぁ……『数列の魔王』に力借りれたからな、あたしは。並じゃねぇ自信はある」
「カリキュレイトか。彼はこの世界にいるのか」
「どうだろ。眠いから寝るっつって、どっか行っちまったからなぁ……。その手で探してみる価値、あるかもよ?」
遮光眼鏡を胸ポケットにしまいこみ、指を鳴らす。眼前を照らすに過ぎなかった証明が一気に広がった。
2016年 02月10日 14時06分 公開




