東の辺境へ
ロデルとともに東国を出立した魔王は、辺境入口の国で一泊したのち、本格的な探索行に入った。
秘境発見の大スクープからずいぶんと経過していることもあり、鬱蒼たる土地のそこここに冒険者たちの足跡が見て取れた。
魔族ならではの鋭いアンテナとタフさを武器に、ふたりは未開の地を恐れず進んで行く。
「情報の湖はどのあたりであろうな」
「すぐには着かないとは思いますが、そう苦痛な路ともならぬものと」
見上げる空は麗しく晴れ、雨が降ったのだろう、木々は名残の雫を落としている。北方の『魔境』にも似た森には、所々に極彩色の花が狂い咲いている。
派手だが決して毒々しくない、魔族の持つ『美』と通ずるところのあるうつくしさであった。
「少し速度を落とすか」
「はい、せっかくの旅です」
今度はスゴロクから手を繋いだ。いつ繋いでも同じあたたかさがある。
ロデルは照れっぱなしで、帆帆を染めつつもゆっくりと歩む。ぎゃあぎゃあ喚く何かも気にならない。
「ロデル、上を見てみろ」
ぎゃあぎゃあの発信源が居た。空中で旋回しつつ喚き散らすくちばしは、下からでも巨大に見えた。
敵意もないようなので暫く眺めていると、飽きたのか南の方角へ飛び去ってしまった。
「何だったんでしょうね……」
「警笛鳥、またはホイッスルバード。そのままだが、古代の人々や魔王が使った番犬のようなものらしい」
見かけに反して利口であり未知の事物や魔物、人などを見つけ次第騒ぎながら飛び回るので、当時の人々に好んで用いられた――と、ものの本に書いてあった。
「南の方に飼い主がいると」
「そう考えるべきだな。楽しみが増えた」少年のように、魔王が笑む。世界に謎あれかしと望む冒険者の顔だ。
王が旅立つ日には正直ずいぶん迷ったし、寂しい日もあったが、やはり送り出してよかったとロデルは思った。追いかけてよかった、とも。
彼の望みをかなえる何かを探すべく、充満する匂いを分類してみた。半狼族や半犬族ほどではないけれど、わりかし鼻が利く。
むせ返るような緑の香り、湿った土、水とコケ。花の甘ったるい匂い。頭がくらくらしてきそうなほど多彩な匂いの中に、「煮炊きの匂いがします」
「このあたりの集落か」
勢力分布図みたいな古来の地図によれば、南大陸と東大陸を隔てる辺境には魔族のほかに、少数民族の集落もいくつか存在するらしい。
ぞんざいな記載しかないマップを出し抜き、ふたりは辺境の密林を進む。
やがて木の葉を敷き詰めた小道を抜けると、小さな村に入ることができた。
2016年 01月08日 11時40分 公開




