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東への航路(1)

 魔王軍に見送られたスゴロクとロデルは、洋上の旅人となった。

 乗るのは魔法学園の理事長が個人的な報酬として用意してくれた、広くはないが頑丈きわまる小型船だ。

 カップルに人気だと言う理由を聞いてもニヤニヤするばかりだったくせに、出航直前になってから「魔力さえ食わせればあとは魔法人形が動かすから貴君きくんらは仲良くせいよ」などと老婆心と悪戯心を見せた獏の小憎らしさと言ったら。

 それはさておき――、奇異なる小型船で辿るのは、北大陸の港より東回りで南下、東方へと足を伸ばす遠洋コースである。

 これまでと違い、交通網にかっちりとした経路や交通時間が定められていることから見ても、北大陸の観光業が正確な地図に裏打ちされたものであることは明らかである。

 通常であれば『ワンダーダイス社』は調査するまでもないと判断するのみだが……。残念ながら――あるいは幸運にも、決してそうはならなかった。

「ミシェーラさんのお話……どう思われますか、スゴロクさま」

「一考の余地ありだろうな」

 船上の時間を活用し、壮麗そうれいなる海洋を眺めつつ、魔王と側近は思考と会話を重ねている。

 霧蝶族の新米『勇者』ミシェーラ=ロンドは、中央大陸を主に回ってきたと言う。ダイス社の地図をもとにして冒険と探索を楽しんだという嬉しい話と同時に、疑念を抱くような話も聞いた。地図に載っていない街や洞窟があったというのだ。

 二か月前と言えば、魔王はとっくに中央大陸を離れ、西大陸を闊歩かっぽしていた頃ではあるのだが。

「数カ月で地形が変わったり、洞窟が増えたりするものでしょうか?」

「少なくとも魔界ではそのような話、一度も聞いたことがない」

 知識と経験を疑わずに論を進めれば、通常は絶対にありえないことである。

「だが……『この人間界はあらゆる意味で未熟だ』と仰る方が居たのも事実である」

「あらゆる意味で未熟、ですか……」

 民族同士の対立のことであったろうと思うし、人間の魔族に対する考え方のことであったろうとも思う。アオイ刀自とじの言葉はしかし、それ以上のことを言っていたのではないのか。

 漠然とした自問自答をロデルに話せる形に出来ない自分が――今までにないことだが――少々もどかしくもある。

先達せんだつあることならば尋ねれば済むし、そんなことを気にせず旅を続ければ良いだけの話なのだが。

 即断即決できないことなど、なかったというのに……らしくもないことである。

「スゴロクさま?」

「! あ、あぁ……すまない。せっかくお前と一緒の船旅だと言うのにな」

「いいえ。スゴロクさまって、困った顔もされるんですね」

「余とて一個の人格である。どうにも、『世界』とか巨大なものに立ち向かっているような気がしてならんのだ」

「話を振っておいてアレなんですけど……そこら辺は徐々にで大丈夫だと思うんです。なんとなくですが」

「ロデルが言うならそうなのだろう。深くは考えないようにする。今は旅路を楽しもうぞ」

「はいっ、スゴロクさま!」

 魔法人形による操縦に任せてある船は安定し、地面のように海面を滑って行く。

2015年 11月26日 16時32分 公開

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