ちょっと休憩
新鮮な魚をたっぷり使った大夕食会を終えた夜。
「お陰様で最高の気分です、スゴロクさま!」
「であろう。よかったなぁ、ロデル」
新鮮な魚をこれでもかと言うほど食べた猫娘は、嬉しげに王を労う。どれが一番美味かったと問われると、「決められないですぅ……」甘えきって抱きついた。
旅先から戻った時はイチャイチャするのだと言わんばかりに距離を詰めてくるのを可愛らしいと思う。
「余は変わったと思うか? ロデルよ」
そんな自分がこそばゆくて、未だ指輪も贈っていない妻に問いかけた。
「いいえ、貴方様――スゴロク様はもともとこういうお方だったのだろうと、わたくしは思い始めています」
でなければ男性として好きになったりなど致しません。白いかんばせを目一杯赤らめ、ロデル=カッツェは王の耳に囁いた。
会わないうちに長く伸びた、枝毛ひとつ無い紅蓮の髪がスゴロクの肩をくすぐる。
「ねえ、魔王さま」ロデルは王の膝に乗ったまま話を続ける。「暫くご滞在でしょう?」
「うむ。家を空けてばかりではいかんのでな」
「でしたら、わたくしや軍の者が進めている計画もご覧になってくださいませ」
人間界に国を移す計画は、全段階として行っているよろず販売業も含めて軌道に乗りそうだという。「楽しみである――今度はお前の話を聞かせてくれ」
心地よい疲れに包まれた魔王は、夜更かしの好きな側近に許しを得てから、座っていた寝床に横たわった。
「承知いたしました、スゴロク様」器用に小さな体を滑り込ませると、わずかに全身を曲げて自分の手で枕を作った。
王の留守を守っている間も、ロデルは『扉』を通じて様々な人物と出会いを重ねている。
変化の速度はスゴロクを凌いでいるかもしれないが、殊更それを主張したりする娘ではなかった。
「人間の『魔王』に出会いました。ヒスイ色の瞳がとても美しい女性です」
「ほう? この魔界も広いな、そんな奴と一端の交流もないとは」
「遥か遠方の方なのですが、たまたま『扉』が繋がってしまったのだそうで――週に三回は来られています」
「余と主義主張が合うのだろうな、そなたが気に入ったのなら」
やさしくて強い人が好きだと公言するロデルは、種族を問わずそういう人物としか友人にならない。
「はい、『戦争なんか大嫌い!』って……うふふ、まるでスゴロクさまのようですわ」
「それは面白い。今度同盟でも結んでみるか」
「どうします、代わりに魔界の地図を作ってくれとか言われたら」
「それはそれで目標が出来ていい。人間界ではかなり順調でな」
ケンカ相手でも作ったらいいのにと悪戯っ子のように言って夫を笑わせ、隙をついて頬にくちづける。
「積極的だな」
「こちらは順調とは参りませんね? ……わたくしも困っているのです。気持ちが溢れてくるのです」
「すまないな。優柔不断で」
魔王は少年の顔を少年のように赤らめた。「情愛――独占欲などを覚えるのは、お前が初めてである」
ふっくら頬っぺに遠慮がちなキスをして、いつものように「これで納めよ」とうそぶく。
ロデルは素直に従って目を閉じた。
が、目が冴えまくって暫く寝付けなかった。
2015年 09月29日 10時04分 公開
2015年 09月29日 10時11分 誤植修正
2015年 12月10日 09時29分 誤字修正




