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魔王スゴロクは逃げ出したっ!(3)

 国を挙げての華燭かしょくえんより三日の後。

晴れて正式に夫婦となった魔王とその側近は、城のテラスで月を見上げていた。

魔族のための月が美しく輝いている。

「とりあえずではあるが――我が事は成ったな」

「残念ですか?」

「ああ。満足感と虚脱感きょだつかんがある……」

 複雑ささえ美酒として味わっているのか、スゴロクは夢見るような口調で続けた。「すまないな、ロデル。余はなおも夢ばかりを追っている」

「いいえ。その貴方様をわたくしは好きになったのですし――愛しておりますから」

否定しないと言ったでしょう、と唇を尖らせる。

「そうであったな……ふふ、かたじけない」

「どういたしまして。さあ、次はどんな夢をご一緒いたしましょうか?」

「ふむ。次、か……少し休むのも悪くはないが」

 出し抜けに、転移術の音がした。

「!?」

「……久しぶりだな、勇者殿」

 宴の二次会に他の二人は来てくれていたが、この娘だけはついに現れなかった。

いまようやくにして姿を見せた娘は、「遅れてごめんね。少し、探し物をしていたものだから」整った顔を美しい笑みで崩した。「結婚おめでとう」

「ありがとう……シオン」

「本当によかったね、ロデルっち。……とても恥ずかしいのだけど、僕の話を聞いてくれるかい? 親友と見込んで頼みます」

「なぁに? 遠慮話、何でも聞かせてちょうだいな」

 アンヴィシオンは咳払いを一つすると、くるりと背を向けて叫んだ。

「僕はスゴロクさんが好きだ! でも同じくらいロデルが好きだっ!」

 ちゃっかり遮音結界しゃおんけっかいを張り巡らせているのだろう、渾身の大音声は二人の耳にだけ届いた。「だから――」振り向く。

「――だから、邪魔をしに来たよ」

 泣き笑いのような顔で宣言する。

「魔界の旅をすすめてよかった。すごかったでしょう?」

「とても勉強になった。実際エルヴェさんとファルチェさんもいい仲になっちゃったし。……ええ加減ズルいわ、あのお姉様方」

「あはは。それはたまんないわネェ」

 ロデルは笑顔を崩さない。こうなるのを期待していたのだ。

苦悩の糸で作ったまゆから羽化した親友を、もっともっと好きになれる気がした。

 いつか誓った言葉の通り、自分が愛する全てに、情熱を傾けられる。――わたしにはできる。わたしにしかできない。

それでさ、分かったんだ……僕はもっと、自分の気持ちのままに動いていいんだって」

「そうそう、そうだよ。魔族だとか人間だとか、関係ないんだよね――わたし達だけだろうけど」

「フフフ、これは困ったな」

二人して少々アブないことを言う娘たちに渋面を作って見せるのは、ひとり蚊帳かやの外だった魔王である。「妻とその友がとっくの昔に同盟を結んでいようとは」

「あら、王族なら奥さんが何人いても普通じゃありませんか。ローレンス師と二人で、男のロマンだとか言ってませんでしたっけ? よくわかりませんけど」

 魔界の歴史書には一夫多妻制を敷いた魔王や何人もの婿を迎えた恋多き女魔王が何人も出てくるし、本人が言っていた通り、スゴロクの家系にも正妻を何人か同時に娶った女好きが結構いたりする。

「そりゃそうなんだけどな。っつかロデルお前、勇者殿のことも相当好みだろ」

「あっちゃあ……バレてましたか」

「見てりゃ分かるよ、何年一緒にいると思ってるんだ」

「申し訳ございません……わたくし、やっぱりヘンでしょうか?」

「変だとは思わんし嫉妬しっとなどせん、前にも言ったがお前はお前の考えで動きゃいいんだよ。余は愛情を貰っている身だからな」

 ゲラゲラ笑った魔王は身体を霧で包んでいつもの格好に戻り、勇者に視線を向ける。

「ごめんねスゴロクさん。自分でも不健全で不実だと思うけど……もう僕、自分を抑えられないんだ。ホントにごめん」

「構わん。その力を持ったまま心を病まれるよりよほど良い。世の良い子達には決して真似まねをさせられんがね、フフフ」

 二人の娘に好意を向けられる余裕からか、どんな無理でも押し通せる自覚からか。

魔王スゴロクは揺るがない。傲然ごうぜんと周囲の変化を受け入れ、また対峙する。

血みどろの争いでも起きない限り悲しむことも起こることもあるまいことは、ロデルとシオンも知るところであった。

 でもなくばこんな無茶が通るものかという話である。

「それで? 結局どうしたいのだ、アンヴィシオン」

「んー……」しばらく悩んだ末、世界を丸ごと使って追いかけっこをしようと言い出す。

「僕が勝ったら、二人の傍に居させて欲しい」と。

 明るくも切なげな願いを聞いたロデルは、すぐさま動いた。何度もとんぼを切って跳躍し、親友が立つ壁際に並ぶ。

 よほど亭主を果報者に仕立て上げたいらしい。

「『勇者』が二人か。ちとキツいが……相手に不足なし」

 一方の魔王は思わせぶりにニヤリと笑い、踵を返す。

「全力で追っかけるよ」

「承知です」

 可憐なる『勇者』たちが頷きあう声を聴きながら加速魔法を組み立て、

「魔王スゴロクは逃げ出したっ!」一目散いちもくさんに城の壁を駈け下りる!

「わははっ! 待てぇーい!」

「逃がしませんよぉぉーっ!」

 おちゃらけ魔王と二人の勇者の追っかけっこは――。


はてさて、いつまで続くやら。







ー了―

2016年 04月26日 15時26分 公開

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