EP.01 痴情のもつれで殺されるとか、マジ?
本作は作者自身が執筆した中国語の原稿をAIで日本語に翻訳したうえで、自身の日本語の知識をもとに、一文ずつ確認しながら校正・加筆修正を行っています。
日本語の表現に不自然な箇所などがありましたら、ご指摘いただけますと幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。
(※生成AIを使用して制作した表紙イラストです。)
彼女を作ることが、こんなにも恐ろしいことだなんて、考えたこともなかった。
手をつないで、デートして、
たまにはくだらないことでケンカして、
それから何かをきっかけに仲直りする──
あの子に告白されたときの俺は、そういうのが「付き合う」ってことなんだろうと、無邪気に思っていた。
けれど、甘いはずの恋は、少しずつ俺を逃げ場のないところへ追い詰めていった。
そして「別れたい」と思い始めて、ようやく気づいたんだ。
──ヤンデレを振るのは、付き合うより百倍難しい。
俺がそれを理解したのは、命を一つ失ってからだった。
/////////
腹の奥から、引き裂かれるような激痛が走った。
何万枚もの刃が、筋繊維に沿って体内を駆け巡っているみたいだった。
血管を断ち、神経を削り、理性を奪う──頭がおかしくなる!
「ぐっ、が……っ!」
内臓をかき回されるような感覚に、息ができない。
俺は目を見開き、わずかに残った理性で状況を理解しようとした。
──刺された。
俺は、刺されたんだ。
痛みが強まるにつれ、喉の奥から血がこみ上げてくる。
今まさに刃物で刺されているという現実を、嫌でも思い知らされた。
「ヒロ……♥」
腕の中の少女は、うっとりと俺を見つめていた。まるで、次の瞬間にも愛の告白を始めそうな顔で。
「か、霞……お前……っ!」
腹の痛みに顔を歪めながら、急速に命が失われていく今、俺の頭に浮かんだ疑問はただ一つ。
──クソ、これって、いわゆる痴情のもつれによる殺人ってやつじゃねえの?
/////////
「別れよう、霞」
五分前、俺はきっぱりとそう告げた。
このセリフだけを聞けば、男が冷たく彼女を振っている場面だと思うだろう。
恨まれても仕方がない。
だけど、少しカメラを引いてみればわかる。
そのセリフを口にした男は、なんと土下座していた。
…………
そう、土下座だ。
両膝をつき、体を伏せ、額を地面に押しつける。
誠意たっぷりの土下座で、目の前の彼女に別れてくれと頼んでいた。
「どうして……わかんないよ……」
「…………」
「一緒にいて、あんなに楽しかったのに……どうしてそんなこと言うの……?」
頭上から、苦しげな声が降ってくる。
そよ風に乗って、嗅ぎ慣れた甘い香りが漂ってきた。
「冗談なんだよね? そうでしょ?」
「……」
「こんな大げさなことまでして。もう、ヒロってば……」
「冗談じゃないよ、霞。俺は本気だ。別れてくれって頼むのは、これで三百二回目なんだ」
決意を示すために、俺は額をさらに地面へ押しつけた。
「ヒロ」というのは、彼女が俺を呼ぶときの愛称だ。
俺の本名は高橋広志。
『クレヨンしんちゃん』の父ちゃんを連想させる名前である。
「あはは、もういいってば、ヒロ。これ以上続けたら、私、怒っちゃうよ?」
「霞、俺は今まで誰にも土下座なんてしたことないんだ。そこまでして頼んでる。頼むから、もう勘弁してくれ」
「あ、わかった。朝、転んで頭をぶつけちゃったんでしょ? だから変なこと言ってるんだね」
「頼む。俺と別れてくれ」
「私、すっごく腕のいいお医者さんを知ってるの! どんな病気でも、その人に診てもらえば大丈夫だよ! ええと、電話番号は──」
「…………」
もういい。まるで話が通じねえ。
霞に現実を受け止めてもらうため、俺は自分を痛めつけるように、顔を地面へ押しつけた。
人けのない深夜の公園には、冷たい空気が漂っている。
別れ話をするために、誰にも邪魔されないこの場所を選んだ。
静かな場所なら、彼女も落ち着いて、互いにとって何がいいのか考えてくれると思ったからだ。
「やだ!」
ところが、頭上から返ってきたのは、駄々をこねるような声だった。
「霞、もう一度考えてくれ……」
「やだ」
「俺たち、本当に合わないんだって……」
「やだ!」
「頼むから……」
「やだやだやだやだ!」
彼女は地団駄を踏み、両手を腰に当てて、ふくれっ面で「ふんっ!」と鼻を鳴らした。
俺は土下座をやめ、レンガ敷きの地面に尻をついた。じわじわ痛むこめかみを揉む。
はあ。今回もダメか……
「ヒロ……私と一緒にいても、楽しくないの?」
「……」
「五年だよ。高二のときから今まで、いろんな初めてを一緒に経験してきたよね……初めてのデート、初めての映画、初めてのキス。それに、高三のとき、親に内緒で一緒にラブホに──」
「霞、今その話はやめてくれ。頼む」
あの失敗は思い出したくない。
「──そういう思い出を、そんなに簡単に捨てられるの?」
霞は俺の前にしゃがみ込んだ。
すぐ目の前で、大きな瞳が不安げに揺れている。まるで、捨てられるのを怖がる子猫みたいだった。
「私がヒロに優しくしてあげられなかったから……別れたいの?」
「逆だよ。お前が俺に尽くしすぎるから、耐えられないんだ!」
初めてのデートは高級レストラン。支払いは彼女持ち。
初めて映画を観に行ったときは、彼女がシアターを丸ごと貸し切った。
俺とキスするために、クルーズ船まで借りた。
ラブホテル初体験に至っては、まさかのフランス……
やりすぎだ。
何もかも、やりすぎなんだよ。
だけど、本当に俺を息苦しくさせているのは、金じゃない。
毎朝四時に起きて、俺のために弁当を作る。
十分おきにメッセージを送り、俺が無事か確認する。
ちょっと体調を崩しただけなのに、三日間ずっとベッドのそばにつきっきり。
クリスマスにサプライズをしようと、気温八度の中で一晩中俺を待ち続け、挙げ句に三十九度の熱を出したことまである……
そんなことが、何度も起きていた。
金も、時間も、気力も──
彼女は、自分に差し出せるものをほとんど全部、俺に注ぎ込んでいた。
そんな関係が、俺には重くて仕方がなかった。
俺は胸の内を、洗いざらい打ち明けた。
霞は、理解できないとでもいうように目を瞬かせた。
「じゃあ、私がくっつきすぎるから? ヒロに尽くしすぎるから、別れたいってこと?」
「お前の愛を、俺は受け止めきれないんだよ、霞……」
ぶっちゃけ、そういうことだった。
彼女がすべてを懸けて俺を愛しているのはわかる。だけど俺は、同じだけの愛を返せない。
それに、この数年で、彼女の独占欲はますますひどくなっていた。
付き合う友達を制限され、勝手にスマホを覗かれ、男と話しているだけでも嫉妬される。
包丁を振り上げて、俺の周りにいる泥棒猫を皆殺しにすると言ったことさえあった……
何より怖いのは、こいつなら本当にやりかねないと思えることだ。
「………………」
霞はうつむき、長い沈黙に沈んだ。
風が吹いて、きれいに整えられた前髪を揺らす。
その下に覗く顔立ちは整っていて、大人っぽさと可愛らしさを兼ね備えている。
俺のために施した薄化粧も相まって、男なら誰でも一瞬でやられるだろう。
そもそも、彼女は何もかも恵まれている。モデル並みに可愛くて、実家も金持ち。
俺なんかにこだわる必要はないはずなのに……
「……霞、泣いてるのか?」
「……っ! ……っ!」
「ごめん。今、つらいのはわかってる。でも、言わなきゃいけないこともあるんだ……誰かが、ちゃんと言葉にしないと」
「──っ!」
「かすみん、本当は、ずっと感謝してるんだ……」
罪悪感のせいだろうか。
俺は思わず、いつもの愛称で彼女を呼んでいた。細い体を腕の中に引き寄せようと、手を伸ばしかける。
──いや、ダメだ。
今の高橋広志は、悪者なんだ。
別れを切り出したのは俺だ。
なら、最後までその役を貫かなきゃいけない。
「……もらった気持ちは返せないけど、今まで使わせた金なら、少しずつ返していけるかもしれない」
「…………」
「別れよう、霞」
俺は、元カノの涙に目をつぶり、彼女に背を向けて立ち上がった。
夜の公園は静かだった。
虫の声に混じって、心を傷つけられた少女のすすり泣きが聞こえる。
もし俺が部外者なら、彼女を泣かせたやつはとんでもないクソ野郎だと思うに違いない。
「もう……やり直せないの?」
「無理だ」
「何を言っても、もう話し合ってくれない?」
「もう三百一回も話し合っただろ。そのたびに同じことの繰り返しだ。これ以上続けたって、お互い苦しいだけなんだよ」
「うぅ……」
悲しすぎるだろ。
甘かった恋が壊れると、こんなふうに互いを苦しめるものになるなんて。
俺まで悲しくなってきた。
「……うん。わかったよ、ヒロ」
「……」
「そこまで言うなら、私も諦める……でも、一つだけ、聞いてほしいことがあるの」
「聞いてほしいこと……?」
背筋が冷たくなった。
霞はいつだって極端だ。想像の斜め上を行く行動なんて、日常茶飯事だった。
そんな彼女が出す条件だ。身構えずにはいられない。
けれど今回は、いつもの彼女らしくない、ごく単純な願いだった。
「抱いて」
「……抱く?」
「ベッドでするほうじゃなくて、ぎゅってするだけ。私を抱きしめてほしいの」
「それだけでいいの……?」
俺は呆気に取られた。
「それだけでいい」
彼女はあっさり答え、続けた。
「ヒロに何か返してもらいたいわけじゃないの。ただ、最後くらい、抱き合ってお別れしたい……ダメかな?」
「……ダメじゃない。それで満足してくれるなら、喜んで」
「うん。ヒロは優しいね。大好き♥」
彼女は、この上なく幸せそうに微笑んだ。
その笑顔が、なぜか胸に刺さった。
俺は仏頂面で彼女に歩み寄り、両腕を広げて抱きしめた。
俺より少し背の低い霞が軽くうつむき、俺の胸元に顔を埋めてすり寄ってくると、心地よい香りが鼻をくすぐった。
いつもと同じ。
よく知っている感覚。
きっと霞は、この温もりを手放したくなくて、最後の抱擁を求めたのかもしれない──
「……?」
不意に、腹の奥を引き裂くような、異様な痛みが広がった。
霞は俺の胸に顔を埋めているから、表情は見えない。
ただ、彼女の体が密着しているあたりに、妙な感覚があった。
痛みと一緒に、何かが「失われていく」感覚。
そして、インクがにじむように広がる「熱」──
「ぐっ、が……っ!」
まずい。
そう察した俺は、後ろへ身を引いた。
ところが霞は追いすがり、その「痛み」を、さらに俺の腹へ押し込んできた!
元カノの豊かな胸が押しつけられる幸福感と、腹を襲う激痛。
その両方を同時に味わいながら、俺は自分の命が失われている現実を、嫌でも理解させられた。
「か、霞……っ! お前……っ!」
「…………」
「お前……っ! 俺に、何を……っ!」
「ヒロ……♥」
驚きと恐怖で混乱する俺とは裏腹に、腕の中の霞は、うっとりとした顔をしていた。まるで、これから愛の告白でも始めるみたいに。
「ヒロ……ヒロ、ヒロ、ヒロ♥」
「ぐぅっ、霞……っ!」
「ヒロ♥ヒロ♥ヒロ♥ヒロ♥ヒロ♥ヒロ♥ヒロ♥ヒロ♥ヒロ♥ヒロ♥」
とろんとした目で俺を見つめながら、彼女は何度も、その「痛み」を俺の体に突き立てた。
ナイフか?
ナイフなんだろうな。
俺はナイフで刺されたんだ。
冷たい金属に、体温を急速に奪われていくのがわかる。視界も、どんどん暗くなっていく。
おいおいおいおいおい、マジかよ、嘘だろクソが!
こんなこと、本当に俺の身に起きてんのかよ!?
ニュースでよく見る「痴情のもつれによる殺人事件」が、勝手に脳内で再生され始めた。
俺はそれを、今の状況と一つずつ照らし合わせる。
悲しいことに、バカみたいに一致していた!
「ぐぅ……っ! か、霞──……っ!」
現実を理解した瞬間、口の端から血がこぼれた。どうやら、もう長くは生きられないらしい。
こいつは確かに過激だけど、人に危害を加えるような真似まではしないと思っていた。少なくとも、俺に対しては。
じゃあ、俺が憎くなったのか?
別れを告げられたせいで、愛が憎しみに変わり、殺そうと思ったのか――
いや、彼女は俺を愛している。
「ヒロ……♥」
彼女は今でも俺を愛している。
その顔を見つめ、俺は確信した。
「これで……ヒロは、永遠に私のものだね」
彼女は背伸びをして、柔らかな唇を俺の唇に重ねた。
「ふふっ。もう、私から離れちゃダメだよ♥」
「……っ!」
──彼女は俺を愛している。
今この瞬間も、俺を愛している。そのことだけは、疑いようがない。
……だって。
もし、俺を愛していなかったら……
どうして、こんなにも恍惚とした顔で――
俺の喉からこみ上げる血を、甘い蜜みたいに、ごくり、ごくりと飲み干せるんだ?
/////////
意識が薄れていく中、白い街灯の光を背にした人影が見えた。
少し離れたところから、こちらの惨状を眺めている。
「うわぁ──根元まで刺さっちゃったね。痛そう、痛そう。最近の人間って怖い~」
現場にまるで似つかわしくない、のんきな声だった。他人事みたいに感想を述べている。
目の前で殺人が起きているのに、助けに入る気配はまるでない。
俺のしょぼい命なんて、救うつもりもないってことか?
「猫には九つの命があるっていうけど、この調子じゃ、百個あっても足りなさそうだね、広志さん」
(な、に……っ!)
「でも、心配ご無用! この使者様がついてるんだから! 次こそは、きっとこの危機を乗り越えられるように手伝ってあげる。というわけで、今回は安心して逝ってね~!」
彼女は明るくそう言って、俺に向かってハンカチを振った。
クソが、何のんきなこと言ってんだ!?
早く助けろ……! 助けてくれええええ~~~~!
俺は口を開き、あのふざけた人影に助けを求めようとした。
「ぐ、ぁ────……………………」
だが、どうしても声が出なかった。
声を上げようとしたときには、体のほうが先に燃料を使い果たしていた。
──死。
本作は全36話、17万字以上の物語で、すでに完結まで執筆済みです。
初回は2話同時に公開し、その後はできるだけ2〜4日に1回のペースで更新していく予定です。
更新日の公開時刻は19時50分です。
胸がときめくと同時に、背筋も凍る──そんな恋愛サスペンスを楽しんでいただけたら嬉しいです。




