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月が丘の淑女たち ―名門女学院の『ルナ』が少女たちの悩みに寄り添う物語―  作者: 如月


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第1話 白い制服の転校生

四月。


桜の花びらが春風に舞い、日本屈指の名門女子校――月が丘女学院の正門が静かに開いた。


黒塗りの高級車がゆっくりと学院へ入っていく。


制服姿の生徒たちは一瞬だけ視線を向けるものの、すぐに友人との会話へ戻った。


この学院では、高級車での登校も珍しい光景ではない。


車が本校舎前で止まる。


後部座席のドアが開くと、一人の少女が静かに降り立った。


陽の光を受けて揺れる深紅のウェーブロング。


漆黒の瞳。


そして何より目を引くのは、140cmと小柄な体には不釣り合いなほどの存在感だった。


少女は制服の裾を整え、校舎を見上げる。


「……ここが、月が丘女学院。」


穏やかな声。


その横へ、一人の少年が歩み寄る。


黒い執事服にネクタイ。


年齢は十六歳ほど。


黒髪をきちんと整えた中性的な美少年――執事の翡翠だった。


「マリア様、お荷物はこちらで。」


「ありがとう、翡翠。」


マリアは柔らかく微笑む。


「少し緊張されていますか?」


「いいえ。」


首を横に振る。


「一度くらい学校生活を送ってみたいと思っていたの。」


その笑顔には、不安より期待があった。


翡翠は小さく頷く。


「では参りましょう。」


二人は校舎へ向かって歩き始める。


その姿を見た生徒たちが、小さくざわめいた。


「あら?あの制服……。」


「白?」


「会長以外にも着てる人がいる……?」


「どなたかしら?」


白い制服。


それは学院最高位の淑女だけが袖を通すことを許された特別な制服。


――コンコン。


学院長室の扉をノックする。


「失礼します。」


中へ入ると、学院長が穏やかな笑みで迎えた。


「ようこそ、天堂寺マリアさん。」


「本日よりお世話になります。」


丁寧に頭を下げるマリア。


学院長は満足そうに微笑み、口を開く。


「まず一つ、お伝えしたいことがあります。」


マリアは静かに耳を傾けた。


「あなたには、学院の象徴である『ルナ』になっていただきたいのです。」


その言葉に、部屋の空気が静まり返る。


マリアは一瞬だけ目を丸くした。


「……私が、ですか?」


「はい。」


学院長は迷いなく頷いた。


「あなたは転入試験で学院史上初の満点を記録しました。」


「その実力と品格は、十分にルナに相応しいと判断しています。」


しかしマリアは静かに首を横へ振った。


「申し訳ありません。」


学院長が目を細める。


「私はまだ、この学院へ来たばかりです。」


「学院の伝統も、生徒の皆さんのことも何も知りません。」


「そのような私が、学院を代表する立場になる資格はないと思います。」


学院長は少しだけ微笑んだ。


「……やはり、そう答えますか。」


マリアは驚いたように顔を上げる。


学院長は優しく続けた。


「だからこそ、あなたにお願いしたいのです。」


その言葉の意味を、マリアはまだ知らなかった――。


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