表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「継承者」の辺境伯令嬢が自称第二王子と結婚するまで  作者: アシコシツヨシ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/34

31 引っ越し

 王都の邸で、サリーに目元のケアをして貰ってから宮殿へ向かった。

 東門から宮殿の敷地に入る。


 停車場で馬車が止まり、サリーとモーリウスは下車し、納品担当者が馬車の操作をして薬品庫がある建物に向かう。

 馬車が停車して、外から扉が開かれた。


「フローラ、久しぶり。」

「アニュアス様!騎士団総長になったのですね。」

「まあね。だから納品担当にもなった。フローラと、ここで会うのは六年ぶりになるかな。」

「ここで、ですか?ごめんなさい、全然思い出せません。」


 驚きつつ、アニュアス様の手を借りて、馬車を降りる。


「思い出せなくて当然だよ。十歳のフローラが、初めて納品に来た日は『補色の薬』で、目と髪の色を変えて、別人として過ごしていたからね。」


 納品初日、そして、髪と瞳の色というヒントに、ピンと来た。


「もしかして、黒髪で、オレンジ色の瞳をしていた助手の騎士様が、アニュアス様?」

「正解。」


 アニュアス様は満足そうに笑うと、荷馬車から薬品箱を三箱降ろして、それを重ねて持ち、薬品庫へ歩き出した。

 毎回、王弟殿下がしていた作業を、アニュアス様が難なくこなしてくれる。

 引継ぎがしっかりされている、と言う事は……。

 王弟殿下とバルロッソ様には、もう会えないのかもしれない。

 

「ここだけの話だが……」


 アニュアス様の小声に耳を傾ける。


「叔父上は極刑を望んだが、父上が許さず、今は、父上専属の裏方として、こき使われている。バルロッソは、兄上と私の進言により、尖塔で生涯幽閉となって、面倒な書類仕事をする日々を過ごしている。その方が叔父上も無気力にならないだろう。」


「お二人の事を教えて下さってありがとうございます。」


 付き合いがあったとしても、内情を私から聞くことは出来ない。

 それを察して、アニュアス様は話してくれたのね。


 領地での挨拶が最後なのは寂しいけれど、気持ちを切り替えて、いつも通り納品作業をする。

 最後は請求書を書いて、渡すだけ。


「え?」


 アニュアス様は、私が差し出した請求書、ではなく、請求書を持っている手ごと掴んで引いた。

 引かれた勢いで、数歩アニュアス様に近付いた瞬間、抱きしめられた。

 久しぶりの密着が恥ずかしい。

 でも、嬉しい。


「フローラ不足で、つい捕まえてしまったよ。」

「私も、アニュアス様不足だったようです。」


 アニュアス様の温もりや感触が心地よくて、求めている自分がいる。

 背中に手を回すと、更に力強く抱き締められた。


「困った、これからやるべきことがあるのに、愛おしくて離し難い。」


 アニュアス様の甘い声が耳元で囁かれて、何だかくすぐったい。


「おいアニュアス、油を売ってないで早くしろよ。」

「ロロ!」


 いつ足元に来ていたのか。

 きっと影を使ったのね。


「ロロは本当に、良いタイミングで毎回邪魔してくれる。」


 渋々私を解放したアニュアス様は、ロロにジト目を向けていた。


 納品が終わったので、次は作業場内の引っ越しをする。

 アニュアス様が操作する馬車に乗って、新しく出来た作業場へ向かう。


「アニュアス、ヴィンテージワインを用意してくれたかな?」

「きっと、用意している筈よ。」

「なら良かった。」


「ロロはもう作業場を見た?」

「うん、なかなか良い感じ。」

「それは楽しみね。」


 納品後の移動も、声をかけられるまで、カーテンを開けてはならない。

 景色が見えず、作業場に到着する時間も分からないので、私の膝に頭を乗せているロロと話をするのは、良い暇潰しになった。


 十五分程で馬車が停車した。

 外から扉が開けられ、アニュアス様の手を借りて馬車を降りると、木漏れ日の美しい森の景色が広がっていた。

 目の前には小規模ながら、立派な二階建ての邸が建っている。


「元々別荘として建てられた離宮をリフォームしたから、暮らせる設備は整っている。目的の作業場は裏だよ。」


 作業場として使う部屋は、離宮の裏手に扉があるので、表からは見えない。

 扉を開けて中に入ると、領地の作業場よりも、広くて収納も多い。

 作業台も大きくて使いやすそう。


 目についた正面奥にある扉を開けると、左右に長い廊下に出る。

 向かい正面の壁には左右に一つずつ扉がある。

 何の扉か気になるけれど、今は作業場に戻る。


 奥の扉を背にして左の壁にある扉を開けると、お風呂だった。

 着替える場所やクローゼットもある。


「薬草の匂いが体につくので、お風呂に入って、着替えられるのは有り難いです。」


 宮殿で王子妃が薬草の匂いを漂わせるわけにはいかない。


「内部はロロにもアドバイスを貰ったから使いやすいと思うよ。」

「いつの間にロロと仲良くなったのですか?」

「仲良くは無いが、フローラを喜ばせたい気持ちが、一致しただけだよ。」


 アニュアス様はそう言うけれど、ドリー様はアニュアス様を気に入っているようだから、ロロもきっと、アニュアス様を好きだと思う。


「じゃあ早速引っ越しを始めよう。アニュアスはもう入れないよ。良い?」

「大丈夫だ、ロロ。室内は充分に見た。フローラ、引っ越しが終わったら、奥の扉から廊下に出て、向かいの右側に見える扉をノックして。私は、そこで待っているよ。」


「分かりました。」

「あと、ヴィンテージワインは、チェストの引き出しに入れてある。終わったら渡してくれ。」


 アニュアス様は私に耳打ちして、奥の扉から作業場を出て行った。と思ったら、また扉が開いた。


「アニュ」

「お久しぶり、フローラちゃん。」

「え!?あ、ドリー様!?ご無沙汰しております。どうされました?」


 一瞬、アニュアス様が戻って来たのかと思った。


「手伝いに来たのよ。一人で引っ越しは大変でしょ?」

「フローラ、驚いた?」


 ロロが作業台に乗って、楽しそうに聞いてくる。


「凄く驚いたわ。ドリー様、わざわざ手伝いに来てくださって、有り難うございます。」

「良いのよ。ワインに釣られただけだから。じゃ、ロロ。サクッと繋げて。」


 ロロが森へ出る扉を前足で叩きながら、可愛らしくこちらを見る。


「繋がったよ。」

「もう?」


 扉を開けると、森ではなく、ラース辺境伯領にある作業場内の景色が広がっている。


「さっさと終わらせましょう。」


 ドリー様に渡された『物が軽くなる薬』を手に振りかけて、あらゆる物を新しい作業場へ運ぶ。

 全てが小瓶位の重さに感じられて、全く疲れないので、サクサク作業が出来る。

 でも、数はあるので、それなりに時間はかかる。とはいっても、一時間ほどで終わった。


 アニュアス様の言う通り、チェストの引き出しを開けると、ヴィンテージワインが入っていた。


「本日は有り難うございました。こちら、お約束のワインです。」

「有り難う。手伝った甲斐があったわ。アニュアスちゃんにも宜しく伝えて頂戴ね。」


 ドリー様は、ご機嫌でワインを受け取ると、ロロを肩に乗せて奥の扉から帰って行った。


 扉は元に戻っているのかしら。


 領地の作業場と繋がっていた扉を開けてみれば、森の景色が広がっている。

 ドリー様が使った扉を開けると、廊下だった。

 廊下を出て扉を閉じてから、向かいの右側に見える扉をノックした。


「フローラです。」

「今開けるよ。」


 アニュアス様の声がして、扉が開いた。


「もう終わったのか?」

「はい。ドリー様が手伝って下さったお陰で、直ぐに終わりました。ヴィンテージワインをお渡ししたら、お喜びになって、アニュアス様に宜しくと仰っていました。」

「そうか、無事に終わって何よりだよ。取りあえず中へ。食事にしよう。」


 扉から中に入ると、ダイニングルームだった。

 テーブルに食事が配膳されているけれど、侍女らしき人は部屋にいない。


「久しぶりの二人きりを邪魔されたくないから、人払いはしてある。使い魔だけは、どうしようもないが。」


 アニュアス様が周囲を確認している。

 今のところロロはいない様子。

 テーブル席に着きながら、ふと思い出す。


「アニュアス様。継承者の移動について、お父様に話して下さったのですね。」

「バレたか。余計なことだった?」

「いえ、アニュアス様のお陰で、家族や自分の気持ちに気付けました。感謝しております。」

「それは良かった。それで、フローラ。」


 アニュアス様の指が、私の指に絡められる。


「まだ婚約中で客間になるが、今日から宮殿に滞在しないか?フローラに何かあったら心配で、帰したくない。」


 好きな人に、情熱的に懇願されたら、誰だって頷きたくなる。

 実際、嫁ぎ先に慣れる為、婚約の段階で嫁ぎ先の家に入る場合も多い。

 王家に嫁ぐならば、それも当たり前だけど、王家に嫁ぐからこそ大切にしたい事もある。


「お気持ちは嬉しいですが、護衛もいますし、心配には及びません。アニュアス様と過ごしたい気持ちはありますが、家族との時間も大切なので、今日は帰ります。」


 とか言いながら、まだ手を離せないでいる。


「では、ラース辺境伯とイヴァン殿も、宮殿に滞在すれば良い。フローラは家族と過ごせるし、私も安心だ。二人には世話になったが、正式な礼をしていない。父上も歓迎する筈だ。」


「突然言われても、私は何も準備しておりませんし」

「着替えなら、いくらでもある。」

「お父様とお兄様だって、恐縮してしまいます。」


 面白い話をしていないのに、アニュアス様が、ははっと笑った。


「フローラの為なら、私に剣を向けるような肝魂のある二人が恐縮?無いよ。」


 もしかしてアニュアス様、根に持っている?

 お父様は仕方ないけれど、お兄様はギリギリ堪えて剣を抜いていなかったよね?


 アニュアス様が不法侵入した日の出来事を思い出している間、アニュアス様は使い魔を呼んで、国王陛下と通信を始めていた。

 すんなり私達家族の宮殿滞在が許可されて、王都の邸には、迎えの使者まで手配された。


 夕方五時頃。

 客間で待機していた侍女によって、晩餐会用のドレスに着替えさせられた私は、アニュアス様のエスコートで、謁見の間に入った。

 謁見の間には既に、お父様とイヴァンお兄様がいた。


 国王陛下に改めてお礼を伝えられ、褒美の希望を聞かれた後、晩餐会に招待された。

 お父様とイヴァンお兄様は、笑顔を張り付けたまま、アニュアス様を恨めしそうに見つめるという、器用な表情をしていた。


「陛下、結婚式までの二日間、宮殿にて家族との時間を作る機会を与えて下さり、大変感謝致します。お言葉に甘えて家族で過ごさせて頂きたく思いますが、宜しいでしょうか。」

「勿論だ。家族でゆっくり過ごすと良い。アニュアスはこれから先、幾らでもフローラ嬢と過ごせるのだから、ねぇ?」

「……はい。」


 何か言いたげなアニュアス様を尻目に、お父様は陛下に退席の挨拶をした。

 私とイヴァンお兄様も、お父様に倣って挨拶をして、三人揃って退席した。


「では、ご家族でお過ごしになる部屋へご案内します。」


 食堂の外で待機していた侍女によって、小部屋に通された。

 私達家族が、テーブルセットのソファーに座ったタイミングで、侍女はお茶を淹れ、直ぐに退室してくれた。


「あの腹黒第二王子め。フローラを帰したくないからと、陛下を巻き込んだな。」

「こっちの都合も考えろと言いたいですね。高貴なお方には無理なようですが。」

 

 お父様の不満に、イヴァンお兄様が深く同意している。


 良かった。

 継承者の記憶を無くしても、お父様とイヴァンお兄様は、何も変わっていない。

 二人が愚痴を言う姿に、ほっとするなんて、アニュアス様には、勿論言えない。


 例え、客室の前で、待ち伏せしていたアニュアス様に捕まって、近距離で甘く囁かれながら、何を話していたのかと、質問攻めにあったとしても……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
外部サイトOFUSEにて、イメージイラストを投稿しています!→OFUSE・アシコシツヨシ
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ