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エーテルリウムの黄昏  作者: お茶どうぞ
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94、戦闘開始


マスターハンズ・ハンズクラフトの重厚な扉の前で、白い光が弾けた。


夜の街路に、まるで雷の残光のような閃光が広がる。

次の瞬間、光はゆっくりと収束し、その中心から一人の男が姿を現した。


エルドリンだった。


転移魔法の余韻が、まだ空気の中にかすかに残っている。

彼は一度深く息を吸い込み、落ち着くように肩を整えた。


そして、扉に取り付けられた鉄製のドアノッカーを手に取る。


――コン、コン。


静かな夜の工房街に、乾いた音が響いた。


まだ閉店前の時間だった。

炉の火が灯る工房の奥から、微かな金属音が聞こえてくる。


やがて内側から足音が近づき、扉が開いた。


受付の女性が顔を出す。


彼女は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに柔らかな笑顔を浮かべた。


「ようこそ、エルドリン様。どうぞ中へお入りください」


エルドリンは軽く会釈する。


「ありがとう。もし可能なら、マスターに加えてバルドも呼んでいただけるだろうか」


受付嬢はエルドリンの表情を見た。


普段の穏やかな雰囲気とは違う。

どこか緊張した、真剣な顔だった。


彼女はすぐに頷いた。


「承りました。こちらでお待ちください」


そう言うと、急ぎ足で奥の扉へ消えていった。


静かな応接室に、エルドリンだけが残る。


柔らかな革張りのソファに腰を下ろすと、両手を組み、ゆっくり息を吐いた。


「……ふぅ」


胸の奥に溜まっていた緊張が、わずかに解ける。


だが頭の中では、あの夢の光景が何度も繰り返されていた。


炉の炎。

鎚の音。

そして――ヴェリタス・ストーンの新しい鍛造法。


(あれが本当に……)


考え込んでいると、奥の扉が開いた。


まだ五分も経っていない。


現れたのは、マスター・グローリンと研究開発担当のバルドだった。


二人とも作業着のままらしく、腕には煤がついている。


「どうされましたか、エルドリン様?」


グローリンが落ち着いた声で尋ねた。


エルドリンはゆっくり立ち上がる。


「二人とも、座ってくれ」


その言葉の緊張した響きに、グローリンとバルドは顔を見合わせた。


ただならぬ空気だ。


二人はソファに腰を下ろす。


そしてエルドリンが口を開いた。


「……実は」


少し間を置く。


「ヴェリタス・ストーンの正しい精錬方法が分かったかもしれない」


その瞬間、バルドが勢いよく立ち上がった。


「――それは本当ですか!」


思わず声が大きくなる。


だがグローリンが腕を軽く上げて制した。


「落ち着け、バルド」


そして静かにエルドリンを見つめる。


「どういった方法なのか、お聞かせください」


エルドリンは頷いた。


「現在の製法は、ヴェリタス・ストーンを100%使用し、炎魔法を宿らせて鎚で鍛える」


二人は黙って聞いている。


「だが――『大地の記憶』によると違う」


その言葉に、グローリンの目がわずかに細められた。


「配合はヴェリタス・ストーン80%、鋼20%」


バルドが驚いた顔になる。


「合金……?」


「そうだ」


エルドリンは続ける。


「まず土魔法で素材を錬成する。そして鍛造の時も、土魔法の波動を素材に流し続ける」


彼の声には確信があった。


「その波動が素材の内部へ浸透し、鍛冶師のエーテルと共鳴する」


グローリンの瞳が鋭くなる。


「……続けてください」


「最後に、鍛え上げた刀身へ炎の波動で焼き入れを行う」


エルドリンの目が遠くを見る。


夢で見た光景を思い出している。


「成功すれば刃に波紋が現れる。水面のような縞模様だ」


部屋が静まり返った。


最初に口を開いたのはバルドだった。


「……『大地の記憶』とは?」


エルドリンはゆっくり答えた。


「過去、現在、未来――この世界で起こるすべてが記録されている記憶の層だ」


バルドは息を呑む。


「私はエーテルリウムの眷属だ」


静かな声だった。


「その奥義を使う者は、いずれ『大地の記憶』に触れると言われていた」


グローリンが腕を組む。


「つまり……それが、失われた過去の技術」


「そう考えている」


バルドの瞳が輝いた。


「興味深い……鋼を混ぜれば弾性が増す。剣速も上がるはずです!」


エルドリンは頷いた。


「この戦いで、ヴェリタス・ストーンの刀でも切れない敵が現れた」


拳を握る。


「魔法付与で凌いでいるが、さらに強い武器が必要だ」


しばらく沈黙が流れた。


そしてグローリンが口を開く。


「聞いたか、バルド」


「はい、父上」


息子は落ち着いた声で答えた。


エルドリンは二人を見て言った。


「記憶を見た私が術者を担当する。二人で鎚を振るってもらえるか?」


グローリンはゆっくり立ち上がる。


「もちろんです」


小さく笑う。


「工房へ向かいましょう」


三人は急ぎ、炉の灯る工房へ向かった。


一方――セリオン。


兵舎の食堂では、長い木製テーブルにガルム、ソレンディル、アシュリー、リシェルが残っていた。


窓の外では夜の港が灯り始めている。


アレクセイは領主レオニスと軍議の席にいた。


ガルムが腕を組み、低い声で言う。


「まず言っておく」


皆が顔を上げる。


「エルドリンは新しい武器を作るため、アイアンゲートへ行った」


少し間を置く。


「この戦いを決めるのは、その武器だ」


テーブルに手を置く。


「悪いが、俺が行かせた」


アレクセイは静かに頷いた。


「この局面だ。打てる手は全て打つ」


そして地図を広げる。


「本題に入ろう」


セリオンの地図だった。


「この都市は四つの区域に分かれている」


指で示す。


「巨大軍港グラン・ドック。兵舎都市レギオン区。港湾商業区マリナード。市民居住区アルト・セリオン」


「全てを探索する時間はない」


腕を組む。


「敵はどこを狙う?」


レオニスが拳を握る。


「グラン・ドックかレギオン区だ」


「……二か所か」


アレクセイが唸る。


ソレンディルが口を開いた。


「私とガルムでグラン・ドックへ行く」


アシュリーが顔を上げる。


「中隊はレギオン区を」


ガルムが決断した。


「俺とソレンディルが港へ行く」


アシュリーを見る。


「お前は中隊を率いてレギオンへ行け」


アシュリーは黙って頷いた。


その時――


ドン!ドン!


扉が叩かれた。


「入れ!」


レオニスが叫ぶ。


鎧を着た騎士が飛び込んできた。


「報告します!」


息を切らしている。


「軍港沖合に……人型の巨大物体が出現しました!」


その言葉に、ソレンディルの顔色が変わった。


「ジャイアント……?」


「伝承では聞いたことがあるが……」


ガルムが立ち上がる。


「化物退治は俺たちの仕事だ。」


騎士から地図を受け取る。


「アレクセイ、悪いが港へ行く」


そしてソレンディルを連れて飛び出した。




リシェルはレニオスから教えてもらった、ひときわ高い建築物が


本部だと聞かされていた。


馬で駆けながら、魔力探索を行う。


厄災の石は強烈な気配だとソレンディルから教えてもらった。


リシェルは本部から強烈な負の波動を感じていた。


本部に敵が入っているのに騒ぎになっていないのは何故だろう?


彼女は考えていた。


「敵と識別出来ない?」


姿を隠しているのか、見えないのか、組織に潜入されているのか

誰かに化けているのか。


リシェルはソレンディルの傍で見ていた。


敵のいる場所はわかっている。

焦る必要はない。


本部が近づいてくる。


もうすぐ到着する。




一方ガルム達は、ソレンディルの風魔法で軍港に空から近づいて行った。


大きく輪を描きながら軍港を見下ろすと船の帆より大きい人型が蠢いていた。


「なんだありゃ?大きさがおかしいだろ?ゴーレムじゃないのか?」


「嫌ゴーレムじゃない。強い魔力を感じる。」


巨大な人型は水面から見える大きさがだけでも15メートルを優に超える。


軍艦から大砲が放たれる、右腕を振り払って大砲を薙ぎ払った。


「動きが速いな!」


ガルムが大きな声を放った。


ソレンディルは軍港に降り立った。


騎士団が寄ってくる。


「連合軍の援軍ですね。お待ちしておりました。」


「オーがのガルムとハイエルフのソレンディルだ。」


ガルムが若い騎士に返事をした。


「早速ですがどのように対処すべきでしょうか?」


「そうだね、あれは意外と動きが速い。

 陸上に誘導しよう。魔法使いは揃ってる?」


「揃っております。」


「では私が囮になります。騎士団はあの巨人を上げられる被害が及ばない場所に

 ガルムと移動して下さい。魔法使いはガルムと共に行動して射程距離になったら

 攻撃を開始して下さい。ガルムも火焔風で巨人を誘導させて下さい。

 海から上がって来たら攻撃を開始して下さい。」


「わかった!」「了解しました。」


ソレンディルはそう言うと風の精霊により空高く舞い上がった。


ガルムと騎士団は上陸予定ポイントに移動を開始する。


ソレンディルは空の上から改めて巨人を観察する。


体は岩石のようにゴツゴツしている。


目の部分は穴が開いたように真っ暗になっていた。


少し前かがみの姿勢で一歩一歩港に近づいていた。


早速、エーテルリウムの奥義電撃魔法"トゥラント"を放った。


『バッシュー』


空気に含まれる水分が蒸発する瞬間に強烈な音が出る。


ジャイアントの背中目掛けて放った。


ジャイアントが振り返る。


ソレンディルは目線の高さに降りて、ジャイアントが自分に気付くように姿を現した。


「よし!こっちにおいで。」


ソレンディルは"トゥラント"を放ってジャイアントを誘導し始めた。


ガルム達はそれを見守りながら移動していた。


『ドッツガーン!ドッガーン!』


ソレンディルの魔法がジャイアントに当たる為に凄まじい轟音が軍港に響いた。


少しづつ陸上に近づいて来る。


ジャイアントは電撃魔法を嫌がるように両腕で雷撃を受けていた。


魔法攻撃がどの程度聞いているか分からない。


ソレンディルは杖にマナを集中して氷結魔法を海にかけた。


海を凍らせてジャイアントの動きを鈍らせた。


再び雷撃魔法を打ち込む。


しかし、ジャイアントを完全に止める事は出来ない。


ソレンディルは土魔法でジャイアントと同じ高さの壁を造った。


ジャイアントは両腕を振りながら壁と格闘している。


『ドガン!ドガン!』


土壁を巨大な拳で穿っていた。


ソレンディルはそれを見ながらジャイアントの四方を土壁で囲み


水でいっぱいにして氷結魔法で水の棺桶を造った。


ガルム達はようやくポイントに到達したようだ。


共に戦うのは王国軍の重騎士のオーガ達。


ガルムと同じヴェリタス・ストーン製の鎧を纏い、バスターソードを構えている。


「これだけ揃うと、心強いな。」


重騎士は鶴翼に展開した。目の前ではソレンディルが孤軍奮闘している。


オーガ達はジャイアントの大きさや、恐ろしさに対して士気が低下していない。


『ガガガッ!』


大きな音と共に土魔法で出来た棺桶が避ける。


ソレンディルはガルム等の方をチラリと見ながら


「時間稼ぎは出来たかな。」


そう言いながら、呪文を唱えた。


天空に大きな魔法陣が現れた。


「穿て!ジャクヴァ・トゥラント!」


エーテルリウムの奥義、雷撃魔法の最上位を唱えた。


大きな竜巻のような光の束がジャイアントを貫いた。


大きな巨躯がよろめいた。


どうやら効いているようだ。


ジャイアントは立ち上がり、ソレンディルを標的に歩きだした。


もう少しで陸上に上がる。


ソレンディルはジャクヴァ・トゥラントでジャイアントを牽制しながら


陸地に向かって後退していた。


「くそっ、なんてタフなんだ!」


ガルムは目の前の光景に驚きを隠せない。


敵が陸地に上がった。


「行くぞ!」


ガルムが叫んだ!重騎士とガルム達が走り出した。


人類と厄災の衝突が始まった。


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