9、合宿初日
朝になり前日にエルドリンと予定した街の西側にある深い大きな森
ウォーデンフォレストで無詠唱の魔法修練、連携の確認を試す合宿
準備に市場へソレンディル、ガルム、エルドリンの3人で買出しに
向かった。
エルドリンのマジックボックスは容量が大きく、食料が腐らないので
2ヶ月分の食料を購入した。水は生活魔法で作り出す事が出来るので
生活用水で使える様に空樽を予備を考えて10樽ばかり購入した。
城塞都市アイアンゲートから西側にあるウォーデンフォレストまでは
歩きで3日かかる。
ウォーデンフォレストは国土の1/4を占める深い森で魔獣がいるエリア
までは森の入口から数日かかる深い所に存在している。
3人は城門を出て1日目のキャンプ地を決めて昼食に入った。
エルドリンは騎士団所属だったのでまかないが得意である。
市場で購入した鶏で照り焼きチキンとハムサンドイッチ、サラダを
作った。
「男料理とは思えないクオリティね。」
「お口にあうかどうかはお試しで。」
「おお。これは美味いな!沢山頂くぞ!」
「どうぞどうぞ。」
ソレンディルとガルムはお腹を満たしながら今日の予定を確認する。
「この後私は無詠唱の練習に入るわね。エルドリンよろしくね。」
「こちらこそ、ソレンディルは既に偉大な魔法使いなので
コツさえ掴めば直ぐに身について応用も出来ると思います。」
「こっちは新装備の盾を使ったシールドバッシュとタンクの動きの
練習だな。」
「ガルム程の歴戦戦士でしたらそう難しく無いと思います。
スイッチして剣に切り替える連携についても合せてみましょう。」
エルドリンは騎士団の100人隊隊長であったので指導経験もあるためか
エルドリン、ガルムに的確に指示を出して行く。
昼を食べてひと眠りしてから行動開始である。
まずはソレンディル。
「無詠唱はマナを集積して事象の結果を想像して術を繰り出すって
言うけれど、それはどうやって練習するの?」
「ソレンディル、杖を出して下さい。あの杖を使ってやってみましょう。
アイススピアーが得意でしたね。
あの杖はエーテルに共振するので、無詠唱の補助をしてくれるでしょう。
初めは杖にマナを流してアイススピアーを想像して放つようにして
無詠唱の術発動練習をしましょう。」
「わかったやってみるわね。」
ソレンディルは杖”インフィニティスタッフ”にマナを込める。
詠唱してアイススピアーを放った。
今度はその感覚と同じようにマナを集めて杖に込める詠唱を無くして
アイススピアーを放った!
氷塊が数粒発生した程度だった。
「凄いですね!やはりマナの流れが意識出来ているから初弾から
術が発動してますね。ガンガン続けて下さい。」
ソレンディルはエルドリンの言葉に勇気づけられて何発も何発も
アイススピアーを放つ!
回数を重ねる事に氷塊の数が増えて効果が眼に見えて上がっている。
そうなるとソレンディルの疑問も得心に変わって行った。
やはりこの杖”インフィニティスタッフ”は凄い。
嵌められた鉱石に魔法補助があるのでその石にマナを集める感覚で
術を放つだけで効果が出ているのではないかと感じる。
エルドリンがこの先の段階について教えてくれる。
「まずは杖を補助として無詠唱を確かな術式だと自分の頭に信じ
込ませるのです。
その次に杖の補助を無くして無詠唱発動の練習に移ります。
初めは得意の術で行い、別の術でトライして行く事です。
1歩1歩になりますが、時間をかけて下さい。
無詠唱が馴染んで来たら杖無しで貴方発動出来る術を全て
無詠唱で発動出来るように鍛錬して下さい。
そうしたら次の段階に進みましょう。」
ソレンディルは"次の段階"という言葉が気になったが無詠唱による
魔法発動成功に喜びを感じていた。
無詠唱術者は生まれ持ってのタレント(特性)と考えられていて
鍛錬により習得出来たという事例は聞いたことが無かった。
その新しい領域に足を踏み入れている・・・
感動はひとしおで誰かに伝えたい気持ちでエルドリンに隠れて
破顔していた。
一方ガルムは盾を使ってシールドバッシュの練習に励んだ。
盾"インフィニティウォール"の大きさが体に馴染むように
エルドリンが相手になり槍で突きを放つ。
ガルムは突きを受け止めてから体を盾に預けてエルドリンに
突進する。
エルドリンが後退すると、次の槍で突きを放つ姿勢に持ち込め
ないように間合いを詰める。
これを繰り返し間合いの詰め方、盾の大きさ重量感覚を掴める
まで何度も繰り返す。
次はエルドリンがバスターソードで重い連撃するので、盾で
受け止めて左右にいなしながらエルドリンの姿勢を崩したり
連撃を止めたりする訓練。
今度はエルドリンが逆になってシールドバッシュの動きを
ガルムに体感させる。
交互にやることによりより間合いの詰め方、盾が体に馴染む
感覚を養って行く。
3人は日が暮れるまでこの鍛錬を続けた。
テント3棟張り、1つ目はガルムとエルドリンの寝床。
2つ目はソレンディルの寝床。
3つ目に風呂場として風呂桶にお湯を張り、上質な石鹸を用意した。
エルドリンのマジックボックスでテント、風呂桶の収納が出来る。
お湯は水魔法で湯を張って、火魔法で温める。
生活魔法で時間短縮だ。
その上でエルドリンが夕飯にビーフシチューと美味しいパンで
夕飯を作った。
「ソレンディル今日はどうだった?」
「まだ初日だけれど、感じは掴んだかな~
今は無詠唱の感覚を自分に教え込んでる段階よ。
1日中魔法詠唱なんて王立魔法学校以来よ。正直疲れた~
そっちはどうなの?」
「エルドリンの指導が良いんだろうな。まずは盾が体に馴染む感覚を
養うように体を動かしている。
エルドリンが攻撃バリエーションを抑えてくれているので、なんとか
ついて行けてる感じだが悪くはないぞ。」
「やはりお2人共並ではないですね。無詠唱で魔法が発動するのに私は
1ヶ月かかりましたし、ガルムもこちらの動きを読みながら距離を
詰めてくる。気が抜けません。」
「まずは焦らず無詠唱を確実に自分のものにしたいわね。」
「その為にもゆっくりお風呂に入ってお休みして下さい。
ソレンディルは集中力と気力を削られる鍛錬なので夜警は私がします。
ガルムも傷とかあると発熱したりするので、体調を万全にしたいので
お風呂で体をキレイにしてお休み下さい。」
「ああ、そうだなそれにしても野営で風呂って考えなかったな。」
「風呂のお湯に薬草を入れてあります。傷や疲れを除き、リラックス
効果もあります。
この国では辛い従軍等では一番の気分転換で野営の常識なのです。」
「良い常識ね。それじゃあエルドリンお先に~」
「ソレンディルお休みなさい。」
エルドリンは夕飯の片付けを終えて夜警に入る。
こうして合宿初日の夜は更けて行くのであった。