44、黒き終焉のウィル
控室は闘技場の喧騒を背にした静寂に包まれていた。
選手たちは試合前の集中時間に入るが、黒き終焉のウィルだけは例外だった。
黒鎧に身を包み、漆黒の剣を手にした彼は、窓際に腰掛け、無造作に腕を組みながら微笑んでいる。
その瞳は、外の歓声よりも、控室の空気に潜む緊張を楽しんでいるかのように冷ややかだった。
バルグから許可を取り控室に入ったエルドリンは真っ直ぐウィルの元に向かった。
「……君は、どちら様?」
ウィルの声は低く、だが挑発的で、耳に残る。まるで刃を舌先で揺らすかのような響きだ。
エルドリンは眉を寄せる。
「……私は冒険者エルドリン・ファルコン。」
「ああ君が有名な”アンブレイカー”か、何かようでもあるのかな?」
「ウィル。貴様、相手を侮辱して喜ぶような戦い方をしていたな」
ウィルは肩をすくめ、にやりと笑う。
「侮辱、か。いや、違うね。ただ、相手の心の隙を見つけ、そこに触れる……それが面白いだけだ。
君は他人の命を捨てて1人で生還する卑怯者とも呼ばれているな。そんな君に言われたくないね」
エルドリンの手が拳に変わる。
「……俺は、ただ戦いを学ぶためにここにいるだけだ。だが、貴様のやり方は許せん」
ウィルはゆっくりと立ち上がり、闇のように黒い剣を軽く振る。
「ふふ……やっと名前を覚えてくれたか。君のような有名人と手合わせするのも悪くない。
私は君のように傍観するのは好きじゃない。」
エルドリンはその言葉に一瞬立ち止まる。しかし次の瞬間、冷たい決意が瞳に宿った。
「……ならば、ここで決着をつけよう。俺が戦いを申し込む」
ウィルは微かに目を細め、笑みを広げる。
「おお、面白い。私の挑発に乗るとはね。心の奥底では興味があったのだろう、
私は黒き終焉のウィル、君にも絶望を届けよう……」
彼の声は甘く、しかし冷たく、室内の空気を震わせる。
エルドリンは剣を握り直し、静かにうなずいた。
「ただの見物人では終わらん。今日、貴様の挑発を受け、俺が相手となる。覚悟しろ」
ウィルはしばらく無言で、漆黒の瞳をエルドリンに向けた。
やがて低く笑いながら一歩近づく。
「その覚悟……悪くない。なら、楽しませてもらおうか。君の力、そして心の隙まで、すべて見せてもらう」
控室の空気は、闘技場の喧騒を越えて張り詰めた。
外の歓声は遠く、二人の世界だけが凍りつくように緊張していた。
――この瞬間、戦いの余韻と、ウィルの挑発に心を揺さぶられるエルドリンの決意が重なり、次の一瞬には刃が交わる予感が満ちていた。




