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エーテルリウムの黄昏  作者: お茶どうぞ
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45/110

45、決戦

この日の最後に特別試合が組まれた。

――「黒き終焉」ウィリアム・ブラッドと、“アンブレイカー”エルドリンの一戦。


皇太子派の調停役を務めるバルドの権限により、この夢の対決は実現した。


観衆の声援は怒号のごとく渦巻いている。


「アンブレイカー! アンブレイカー!」

「黒き終焉を叩き斬れ!」


石造りの闘技場中央。

漆黒の甲冑を纏い、嘲笑を浮かべる男――ウィル。

対するは蒼天を背負うように静かに立ち、ただ一本の剣を握る男――エルドリン。


二人の間に張り詰めた沈黙が走った。


「どうした、アンブレイカー……その名にふさわしい“破壊”を見せてみろよ」

ウィルの挑発は観衆にまで響く。

瞳には余裕と嘲り。


「……俺の剣は、名を売るためのものではない」

エルドリンの声は低く、しかし確かな響きを持っていた。

「剣を穢す者を断つ。ただ、それだけだ」


「なら……俺を断ってみろ!」

ウィルが双剣を交差させた瞬間、開始の号令が轟いた。


両者は疾風のように動いた。


ウィルの振るう黒いクレイモアは稲妻のごとく鋭く、重く。

観客席には、黒い残像しか映らない。


だが――エルドリンは冷静だった。

銀光の剣閃で軌道を見切り、受け流し、身をかわす。

そして反撃の突きが鋭く閃き、ウィルの右肩をかすめた。


二人は一旦、距離を取る。


「チッ……本当に厄介な眼だな!」

舌打ちするウィル。


今度はエルドリンが踏み込む。

刀身に雷光を纏わせ、中段から力強く振り下ろす。


「ぬうッ……!」

受け止めた瞬間、稲妻が黒き甲冑を駆け巡り、ウィルの全身を痺れさせる。

膝が沈み、彼はクレイモアに寄りかかって立つのがやっとだった。


「もう止めるか?」

エルドリンが冷然と問う。


「ふざけるな! これで終わる理由がないだろう!」

激昂し、構え直すウィル。


次の瞬間、地を蹴ったウィルが影のように消え、背後へ回り込む。


「――後の先ッ!」


だが、エルドリンの反応は一瞬早かった。

飛び込みと同時に身を翻し、低い体勢から横薙ぎに剣を振るう。


「ぐっ……!」


漆黒の甲冑が裂け、ウィルの身体がのけぞる。

さらに追撃の突きが繰り出され、ウィルは尻餅をつく無様な格好へと叩き落とされた。


「なめるなァ!」

ウィルが黒い稲妻のような連続突きを繰り出す。


しかし、エルドリンは既に腰を落とし、刀を鞘に収めていた。

右手で柄を握り、静止――射程に入った瞬間。


「――抜刀」


銀閃が走り、ウィルの片腕が宙を舞った。


「ぐぁあああッ!」

悲鳴が場内を震わせる。


エルドリンは剣を収め、背筋を伸ばす。

審判の声が響いた。


「勝負あり! 勝者、アンブレイカー・エルドリン!」


観衆は歓声と怒号を入り混ぜ、闘技場は地鳴りのように揺れる。


ヒーラーが駆け寄り、ウィルに治療を施す。

だが彼は、なお笑っていた。


「……クク、やっぱりお前は“アンブレイカー”だ。

 今日は俺の負けだ。だがな――終わったと思うなよ」


敗北の悔しさではなく、敗れてなお「名」を刻んだ満足の笑み。


エルドリンは静かに背を向けた。

その眼差しには、勝利の誇りではなく、剣を穢す者への深い憤りが宿っていた。



「アンブレイカー! アンブレイカー!」

「エルドリン! 英雄だ!」


観衆の興奮は、もはや歓声ではなく嵐そのものだった。

石造りの闘技場が揺れ、声が大気を震わせる。

その中で、漆黒の甲冑を纏ったウィルは治療を受けながらなお嘲笑を浮かべ、

一方のエルドリンは剣を下ろし、静かに観衆の声に背を向けていた。


皇太子派の席で立ち上がったバルドは、唇を噛みしめて呟いた。

「……やはり“アンブレイカー”は本物だ。あれこそが、我らが帝国を支える剣だ」


周囲の廷臣たちも頷き合い、やがて一斉に拍手を送った。

その拍手は、政治的思惑を超え、純粋に一人の剣士の武勇を称えるものだった。


一方、控え席に戻った仲間たち。


「さすがだ……あのウィルを圧倒するなんて」

ソレンディルの声には驚嘆と誇りが入り混じっていた。


「やっぱりエルドリンはやるときはやる男だな!」

ガルムが豪快に笑う。

「だがよ、あのウィル……ただやられたって顔じゃなかったぜ。あいつ、また絡んでくるぞ」


「……はい。あの笑みは、まだ戦いが終わっていないと言っていました」

アシュリーが真剣な表情で頷く。若き剣士の胸に、憧れと緊張が同時に刻まれていた。


「フンッ、俺の試合の後に、とんでもねぇ伝説を刻みやがって。負けられねぇな」

バルグは拳を握り、炎のような闘志を燃やしていた。


そして、エルドリンが仲間たちのもとに戻ってきた。

彼は肩の汗を拭いもせず、ただ淡々と口を開く。


「……終わった。だが、奴はまだ諦めていない」


「分かってる。だけどあんたが勝ったことがすべてだ。今日、この帝都に伝説を残したんだぜ!」

ガルムが背中を叩き、豪快に笑った。


エルドリンは苦笑を浮かべるが、その眼差しは決して緩まなかった。

――剣を穢す者がいる限り、戦いは続く。


その静かな誓いを胸に刻みながら、彼らは闘技場を後にした。


そして観衆は語り継ぐ。

この日――帝都の大闘技場で、“アンブレイカー”の名が永遠の伝説として刻まれたことを。


《火竜のあばら屋》の夜


闘技場の熱狂が嘘のように、夜の帝都は涼やかな風に包まれていた。

石畳を踏みしめ、エルドリンたちは馴染みの酒場《火竜のあばら屋》へと足を運んだ。


扉を開けると、木の温もりに包まれた空間と、香ばしい肉の匂いが一行を迎え入れる。

常連たちが「おお、アンブレイカーだ!」と声を上げ、拍手と歓声で迎えた。


「やれやれ……もう名前が広まっているな」

エルドリンは眉をひそめたが、ガルムが豪快に笑って背中を叩いた。

「当たり前だろ! 今日のお前は英雄だ。みんな、お前に酒を奢りたがってるぜ!」


祝杯


席に着くと、店主が大皿に盛られた肉料理と泡立つエールを運んできた。

「今日は特別だ。アンブレイカー様とその仲間たちに!」


「乾杯!」

木製のジョッキがぶつかり合い、笑い声と湯気が立ち昇る。


アシュリーは緊張気味に杯を口に運びながら、真剣な眼差しでエルドリンを見つめていた。

「……今日の戦い、わたし一生忘れません。剣だけじゃなく、心が試されるんだと分かりました」


「忘れるな。剣は勝つためのものじゃない。守り、断つべきものを断つためのものだ」

エルドリンの言葉に、アシュリーは強く頷いた。


仲間たちの反応


ソレンディルはグラスを傾け、しみじみと呟いた。

「しかし……ウィルは恐ろしい男だ。敗北を恥じるどころか、敗北すら名に変えていた」


「ハッ、あんなやつ俺なら殴り倒してる!」

ガルムは豪快に肉を頬張りながら笑う。

「でもよ、あの黒い笑み……また仕掛けてくるぜ、絶対にな」


バルグは黙って酒を飲み干し、低く言った。

「――俺もあの場にいたが、あの勝負は容易ではなかった。

 アンブレイカー、今日お前が勝ったことで、クランの名も俺たちの士気も大きく上がった。感謝する」


エルドリンは短く頷く。

「俺は俺の剣を振るっただけだ」


夜の余韻


やがて夜が更け、酔いも回り、笑い声と歌声が店を満たしていく。

だがエルドリンの胸中には、まだ熱が残っていた。

――黒き終焉のウィル。あの男は、必ず再び現れる。


「エルドリン、今日は少し笑ってくれよ」

ソレンディルが穏やかに言う。


エルドリンは一瞬黙したが、不意に口元をわずかに緩めた。

その笑みを見て、仲間たちは安堵し、さらに杯を掲げた。


こうして、彼らの夜は歓声とともに更けていった。

しかしその背後では、敗北してなお笑みを浮かべたウィルの影が、次なる波乱を予兆していた――。

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