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鬼は外

初めての文章。

恥を晒す様な感覚と緊張がありますが、勉強しつつ頑張ります。

 一条天皇の時代、長徳元年。

 京では若い女性などの神隠しが次々と起こっていた。その原因をかの陰陽師安倍晴明に占わせたところ、大江山に住む鬼の仕業と判明した。

 帝は鬼の討伐に源頼光と藤原保昌らを向かわせ、山伏を装った彼らは大江山の鬼、酒呑童子の首を見事討ち取った。


「ねぇ修二!カッコいいでしょ!?」


「……え?聞いてなかった」


「えぇ!?聞いてよ!」


 放課後、人も少なくなった教室で長々と語っていたのは友達である宮本早苗。

 ガミガミと文句を言われるが、正直ついていけないのである。こんな鬼の話をするのもゲームに出てきたキャラがドストライクで調べた結果だ。

 酒呑童子の話を知っていて将来に役立つのなら別だが、そうでもなければ真剣に聞こうとも思わないのも仕方ないだろう?それにそのゲームやってないし。最近のソシャゲは多すぎて手を出しにくい。


「ほら見てよこれ。酒呑さま可愛いでしょう?それに晴明様もカッコいい」


「安倍晴明はともかく、酒呑童子って男だろ?さっきも女の人を連れ去るとか言ってたし。それが可愛いってどんな変化したのよ……」


「今ってなんでも可愛い女の子になるんだよ。織田信長だって女になる」


「あの世で泣いてるんじゃね?」


「ちなみに修二も女にされてる。ほら、去年の文化祭で出回った同人でぇっ!?幼馴染とはいえ女の子を殴るな!!」


「漫画部廃部になってたなぁ」


「顔立ち中性的だもんねぇ。それより殴ったことをスルーしないでくれる?」


 早苗に俺の黒歴史をサラッと言われて腹が立ったのだ。軽く小突いたくらいだし両成敗って事でいいだろ?

 ちなみに俺が女になった同人ってのは文化祭当日に漫画部が秘密裏に取引していた物だ。見回りで先生方が見つけ、漫画部は責任を取らされて廃部になっていた。悪は滅びるのだ。


「あっと。そろそろ帰らねぇと」


「何か用事?」


「そー。この間、台風来てたろ?そのせいで家の蔵が雨漏りしてたみたいで酷いことになってたし、思い切って取り壊すことにしたんだよ。だから少しずつでいいから掃除手伝ってくれってさ」


「修二の家って古いもんねぇ。宝田お化け屋敷って言われてるぐらいだし」


「言うだけならいいけど、小学生のピンポンダッシュはなんとかならんか?」


「ここだけの話……私もしたことあるよ?」


「今度爺ちゃんに言いつけてやろう」


「やめて!お爺ちゃん怒ったら怖いんだから!」


 早苗が言うように、我が家はそれなりに昔からある家らしい。

 近所の子供達には、お化け屋敷と有名になる程度には有名なスポットである。ここ最近は忙しいせいもあり、爺ちゃんがついにキレて外側のインターホンが飾りになったと言えば察してもらえるといいなと思う。小学生の悪戯って結構しつこい。

 話が逸れた。

 古い家だからか、この間直撃した大きな台風のせいであちこちガタがきていた。特に物置である蔵なんて雨漏りで水浸しになっており、片付けて取り壊しする事になったのだ。


「大変だねぇ。手伝えることがあれば言ってね?お礼はお婆ちゃんのおはぎでいいよ」


「んー。まぁ土日にだいぶ進めたし、もうすぐ終わるから大丈夫。一階は爺ちゃん達が進めてくれたし、二階の方があと少しって程度だから」


「そか、残念。蔵なんて古いし、床踏み抜いて怪我しないように気をつけてね?二階なんて床が抜けるかもだし。ふふふ」


「……階段の一段目は踏み抜いたよ」


「……えっと、専門の業者とか探そうか?」


 本気の心配の目を向けてくる早苗と別れて現在は蔵の中。適当にジャージに着替えマスクと手袋を装備してゆっくりと気をつけながら二階へと向かう。

 ミシミシと嫌な音が鳴る階段を上りきり、雨漏りのせいでじめじめとしている薄暗い二階に到着。とりあえず空気の入れ替えをしたくなり、窓を開けてみる。


「修二ぃ!気をつけてな」


「はいよ爺ちゃん。にしても、なんか雰囲気あるせいか長居はしたくないなぁ」


 雨漏り被害が一階よりも大きいせいなのだろうか。窓を開けても陰気な雰囲気は気休め程度しか改善されない。


「大したもんはないと思うがなぁ。どれ、爺ちゃんも行ってみようか」


「ダメダメ!いくら爺ちゃんが元気でも階段から落ちたら死ぬぞ!」


「そりゃお前も変わらんだろ!!」


 そりゃそうだ。

 若いから反応は速いだろうし助かる確率はマシかもしれないが、当たりどころが悪ければ死ぬ時は死ぬのだ。

 そんな事を考えながら濡れた段ボールや木箱の中にある物を見ていく。食器や昔使われた何かの道具があったり正直捨てる物ばかりだ。こんな何年も使ってない食器なんて要らないだろ。……いや、鑑定とかしたら意外といい値段が付くかも?

 なんて欲が出てきだした時、いくつかの木箱を移動させた奥に隠す様に置いてある箱。


「何、これ。って重」


 長い木箱を見つけた。腐っているのか状態が悪くボロボロと崩れていく様な状態の悪さ。ゴミだなと思い持ち上げてみるとズッシリと重く手が滑り、箱を落としてしまった。

 思っていたよりもずっと脆かったのかグシャリと大きな音と共に箱が割れ、中から出てきたものを見た瞬間、今まで感じたことがない様な怖さが襲ってきた。

 目の前が真っ暗になったかのような、何かに覆い被されたような恐れ。


「どうしたぁ!大丈夫か!!」


「ッ!?……かはぁっ!」


 爺ちゃんの声だ。

 ハッとし、自分の息が止まっていたことに気がついた。少し苦労しながらなんとか息を整えようとする。なんとか落ち着こうとしながら手を胸に当てて深呼吸をしようとするが、作業をしたからではない嫌なベタつく汗がまとわりついていることに気がつく。

 とにかく早く返事をしないと爺ちゃんに余計な心配をかけてしまうな。


「だ、大丈夫!ちょっと物落としただけ!怪我してないよ」


「気をつけてなぁ。そろそろ晩飯だし切り上げてもいいぞ」


 今日の晩飯は何かなと歌いながら遠ざかる爺ちゃん。普通に会話をしながらも目線の先には先程落とした物。おそらく刀から目が離せない。

 長さは一メートル程だろうか?

 厳重に補完とは言いにくいソレは、よくわからないお札の様な物と黒く変色したボロボロの縄で縛られていた。

 普段なら絶対に触りたくない物である。

 だが俺はソレを拾い上げた。

 拾ってしまったのだ。


『あぁ、やっとだ』


 襟を持ってグイッと後ろに引っ張られた様な感覚。頭がグラグラと揺さぶられ縛り付けられる様な拘束感。

 そして自分の声ではない何か別の声。

 あれ?俺が喋っているよな?


『何年だ?何十年だ?いや、何百年だ……!』


 男の俺の声ではない。

 だが少し低い女性の声。聞いているだけで身体が震えてくる恐ろしさがある声だ。


『……まぁ、いい。末裔は居るのだろうか?我が仲間を殺し尽くし、私の首を刎ねた彼奴の末裔は居るのだろうか?』


 だんだんと増していく恐怖。

 何かわからないコレが喋るたびに増していく憎悪が俺にまで侵食してくるようだ。塗りつぶされる様に俺が俺でなくなっていく。宝田修二が無くなっていく様な感覚……。


『全部、殺そう。皆殺しだ』


 それだけは許せない。


『む?……ほぅ?「……そんな、事」クハハ面白いな小僧』


 コイツは殺すだろう。

 手に持った刀で手当たり次第に殺すだろう。

 そして一番近い人間は宿主の俺を除けば爺ちゃんや婆ちゃん。俺の家族だ。

 やらせるわけが無い。


『クハ。グハハハ!!!やるなぁ、いいぞもっとだ、もっと楽しませてみよ小僧。でなければ貴様の祖父母も早苗という小娘も全て私が……喰ろうてやろう!』


 その言葉に激しい怒りを覚えた。

 押しのける様に、身体に無理矢理力を入れる様に踏ん張った。


「させるかよ!」


 グシャリ!と大きな音が響く。


『む?』


「あ?」


 刀のナニカと俺の間抜けな声が出た後、ふわりとした浮遊感。なんだ?と思った瞬間。



 グチャッッ。



「…………」


『…………』


【起きなよ】


「『はっ!』」


 頭に直接響く声。

 その衝撃に飛び起きた。真っ白の不思議な空間だった。そして目の前にある一つと一人。

 一つはとても大きな丸い光だった。太陽の様だ。

 一人は俺の隣には長い綺麗な黒髪で、額から角が二本生えている女性。

 今の訳がわからない状況に呆然としつつも、早苗が好きなゲームに出てくる鬼のキャラみたいだとフワフワとした状態の中思う。


【いやー。まさかこんな事になるとはねぇ】


『なんだ貴様?』


【鈍ったねぇ君も。一応神格も持っているはずなのに気が付かないのかい?いや、まぁ仕方ないかな?昔と比べても現代は変わり過ぎだからね】


『……あぁ、殺そうか』


【あーもう。今の君はそればかりだな。昔はもうちょっと理性的だった筈なんだが……。まぁいいや、それより君だ宝田修二くん】


「え、あ、はい」


 光に声をかけられた。

 頭に響くその声は聞くだけで不思議と背筋が伸びて、気がつけば正座をしていたのには混乱する。


【おめでとう。君はかの有名な鬼である酒呑童子を討ち取った二人目の人間だ。……いや、封印ではなく本当に殺したのだから一人目が正しいのかな】


「酒呑……。え、でもそれってアレ、源頼光が」


【それね。殺しきってはないんだよ。あの頃は今よりももっと、神秘というものが濃かった時代だ。彼らは酒呑童子を殺しきれずに刀に封印したんだ】


 この光が言うには源頼光は酒呑童子の首を刎ねたが肉が盛り上がるように再生する酒呑童子に手を焼き、陰陽師の協力の元、一応用意していた封印用の刀で酒呑童子を封印して厳重に補完していく事となる。

 だが時代が変わるにつれて刀の管理は疎かになっていき、ある日盗まれ所在は不明に。そして流れに流れて最終的には宝田家の蔵に盗人の一人が隠し消息をたった。


【その盗人は興味本位で中身を見たんだね。気味が悪い刀が入ってる事に怖くなったのか君の家に入り込んで隠したんだ。お化け屋敷って有名な家には誰も近寄りたくは無いだろう?絶好の隠し場所とでも思ったのかな?】


「……何年前からお化け屋敷なんだか」


【数十年前かなぁ。まぁその時は封印は大丈夫だったんだよ。だけど君の家ってみんなから怖がられてる場所って事とか負のイメージが集まりやすくてね。ちょっとずつだけど封印に影響が出だして、この前の台風。あれがダメだった】


「はぁ……」


 え?家ってそんな場所だったの?

 いや、思えばよくお客さんが来るなぁと思っていたが、それってお客さんじゃなくて、本当は……。


【その負を感じた酒呑が目覚め始めようとして、あの台風の直撃だろ?無意識でも酒呑は自分を起こそうとしたのさ。だから考えられないくらいに宝田家の蔵は雨漏りしたし、自然の力と酒呑の力で刀を入れていた木箱は腐り、封印の呪符なんかも雨でグチャグチャ。参っちゃうよね?】


『貴様、話が長いぞ』


【久しぶりの会話だもん楽しくなっちゃってね】


 ともかくと。

 うちのお化け屋敷って負の認知と、酒呑童子が封印された刀。色々な影響があって封印は解かれた。そして最後のダメ押しは俺が触れてしまった事だと光は言う。


【君に罪はないさ。全部酒呑が悪いからね。いくら憎くても何百年も昔の話だから時効ってやつだよ】


『何?』


【黙って。さて、本題だが……君たちは死んでいる】


「え?」


【言っただろう?君は酒呑を殺したって。あの時の酒呑はどんな状態だったと思う?肉体はあった?】


 ……なかった。

 あれは俺に憑依しているよな……。

 あ。


【ありがとう。君のおかげで現代での酒呑童子復活は阻止できた。一晩かけて人間を喰っていれば本来の肉体を得ていただろうし、そうなれば止められなかった。酒呑につられて各地の封印されたままの妖怪達も目覚めただろうし、現代の妖怪大戦争を止めた英雄だね】


「そうか。床抜けたのか」


【せっかくかっこ良く英雄なんて言ってあげてるのに、床抜けて転落死なんてかっこ悪い事を改めて受け止めなくていいと思うよ?ほら、酒呑なんて頭抱えてるよ?」


『最強とまで言われた私が……床が抜けて転落死とは。クハ、笑え小僧』


「爺ちゃん婆ちゃんより先に死んじまった俺が、笑えると思うか?」


 しばらく呆然としていた。

 その間光は待っていてくれたし、酒呑童子もぶつくさと言ってはいるがそっとしてくれていた。

 どうしたらいいのだろうか?

 どうする事もできないだろう。事実死んでしまった俺は何もできないのだ。


【宝田修二くん。君には恩があるし、君の祖父母には私からしっかりと神託をだそう。加護もやろう。長く生き、多くはないが幸せも保障しよう。しばらくは落ち込みもするだろう、受け入れるのも辛いだろう。だが最後には笑って逝けるようにしよう】


「……ありがとうございます」


【こちら側の事情に巻き込んでしまうからね。滅多にしないサービスだがしっかりとするよ】


 巻き込む?

 これ以上何かあるのだろうか?


【君の話だ。君は酒呑に憑依された状態で死んでいる。このままだとちょっと問題が多くてね。ちょっと異世界にでも放り込んでみようかと思ったのさ。最近流行ってるし】


「は?」


 いきなり何言い出すんだこの光。

 異世界ってあれだろ?早苗がハマっている小説とかにあるやつ。


【あ、酒呑も行ってもらうから】


『は?』


【宝田修二くんは君のせいで来世へと行けないんだからさー?それぐらいしてくれないとねー?】


『な!やらんぞ!!そんな訳がわらないものなんざ面倒くさい!』


【無理です!いやぁ君達が起きるまでちょっと色々と話をつけたりしたんだけどね?楽しかったなぁ。宝田修二くんを主人として酒呑に鎖をつけてみたり】


『何!?』


【あー、式神みたいなものだよ。それに向こうにはこっちにない酒もあるだろうし。それに行ってくれるなら神酒もつけちゃう】


『任せよ。私がしっかりと小僧を守ればいいのだろう?』


【そーそー。さっすがちょろいねー】


『なにぃ!?』


【さて、そろそろ時間だね。宝田修二くんこっちの事は任せなさい。君は自由に次の世界を満喫すればいいさ。なに、不安はあるだろうが君の隣にいるのは最強と言われた鬼である酒呑童子。人生経験なんかも君より豊富だし存分に使い倒しなさい。たまに酒でもやってればなんとでもなるさ】


「え、いやちょっと」


『貴様本気で殺すぞ!?』


【さて、では行ってらっしゃい!……いや違うか】


 なんだろう。

 最高に嫌な予感がするぞ!!!


【せーの!鬼はー外ー!!】


「は!?俺鬼じゃな!!」


『覚えとれよきさ!』


 光が直視できないほど眩く光ると同時に、また俺は意識を失った。

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