10話 世論
「さ、帰ろ!」
美結は放課後になると、毎回元気いっぱいな笑みを浮かべた。この溢れんばかりの活気は、さすが授業中ずっと寝てただけのことはある。いつも授業に真面目に取り組んで目の下をクマだらけにしている木下くんを、人知れず気の毒に思った。
「悪いが、今日は委員会があるんだ」
美結の表情は一瞬曇ったが、すぐに驚きの表情へと変わった。確かに、今まで話したことなかったもんな。というか、自分でもこの委員会に入っているのを忘れていたほどだ。
「委員会入ってたの?」
「文化祭実行委員会に入ってるんだ。まあ押し付けられただけだがな」
去年のことだ。高一の春、人見知りな性格のせいで俺は完全に空気となっていた。委員会決めの時も、自分の主張などできるはずもなかった。気づけば文化祭実行委員だけ枠があまり、残った俺が充てられた。この委員会はシンプルにめんどいのだが、それよりも嫌な点がある。各クラス男女一人ずつ選ばれるという点だ。
「私今日ちょっと用事があるから、先帰ってるね。委員会頑張って!」
元気な声とは裏腹に、その表情は少し寂しそうだった。
「ありがとう」
廊下に行くと、大橋鈴華が立っていた。彼女はこのクラスのもう一人の実行委員で、別に事務的なこと以外は話さない。
「一緒に行こうよ、海晴」
彼女の高めの声が、頭に響いた。
「え、まあ、いいけど」
俺は内心嫌だったが、一緒に委員会へと向かった。今までそんなことは無かったのに、急になんだ?
「海晴最近、美結ちゃんと仲良いよね」
「まあ、そうだけど」
「いやさあ、不思議に思っちゃって。美結ちゃんはとっても可愛いのに、男子に心を開かないで有名。そんな美結ちゃんと、どうやって仲良くなったのかなあって」
こいつ多分、嫌なやつだ。偏向報道をして他人を貶めるメディアのような悪意が、彼女からは感じられた。
「別に、普通に接してるだけだよ」
「本当かなあ?内田も言ってたみたいに、脅してるみたいな噂も流れてるよお?」
こいつの語尾を伸ばしたような喋り方、ものすごく神経に障るな。
「勝手に思っとけばいい。俺は何にもしてない」
「そっかそっかあ。まあ委員会頑張ろうねえ」
俺は若干イライラしていた。ただでさえ女が苦手で話すだけで不快だって言うのに。
あれでも、美結とは普通に話せてるな…
疑問に思ったが、今は委員会に集中しよう。地味にやることが多いからな。
委員会が終わった。俺と鈴華は、二人で協力してクイズを作ることになった。正直なところ、俺はどこか不安だった。鈴華との関わりは最小限にしたほうがいい、俺の勘はそう告げていた。
帰路に着いた。
一人で帰るの、久々だな。
ちょっと前まではいつものことだったのに、俺はこの帰り道に余白を感じていた。
長いこと投稿できず本当にごめんなさい。読んでくださりありがとうございます。




