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『リスタート・センター:30歳の私が、謎のモニターと共に頂点を目指すまで』  作者: 真白しろ
2章 GlitcH始動

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episode20

日本のテレビ局特有の、白々しいほどに明るい照明。

生放送の報道番組『ニュース・フロント』のスタジオは、私たちが普段生きている暗闇のステージとは対極にある、無菌室のような空間だった。

「――というわけで、今夜の特別ゲストは、現在ワールドツアーで世界中を熱狂させている異端のアイドルグループ、GlitcHの皆さんです」

ベテランの男性アナウンサーが、引きつった笑顔で私たちを紹介する。

ゲスト用の白いソファに座る私たちは、あえてテレビ向けの愛想笑いなど一切浮かべず、退廃的な黒い衣装のまま深く腰を掛けていた。

ランは退屈そうに長い脚を組み、アカリはカメラのレンズを値踏みするように見つめ、サエは完全に目を閉じて省エネモードに入っている。レイカは優雅な姿勢を崩さず、マコは少しだけ肩をすくめていたが、かつてのような怯えはもうない。

そして私は、円卓の向かい側に座る男を冷たく見据えていた。

「いやぁ、素晴らしいご活躍ですね。しかし……」

コメンテーター席から、音楽評論家の西崎がマイクを引き寄せた。

白髪交じりのオールバックに、見下すような鋭い目つき。彼こそが、日本の古い音楽業界の権威であり、私たちを『中身のない一発屋』と叩き続けてきた張本人だ。

「海外でのライブ映像、拝見しましたよ。熱気は確かにすごい。ですが、私が評論家として率直に申し上げたいのは、あれは『音楽』ではなく、ただの『見世物』ではないかということです」

生放送のスタジオの空気が、ピリッと凍りついた。

アナウンサーが慌ててフォローしようとするが、西崎はそれを手で制して言葉を続ける。

「過激な照明、異常な重低音、そして奇抜なキャラクター性。海外の観客は、そういった『日本の奇妙なサブカルチャー』を珍しがって騒いでいるだけです。あなたたちの楽曲そのものには、音楽的な深みも、歴史に対するリスペクトも感じられない。例えば……そこの彼女」

西崎の鋭い視線が、マコに向けられた。

「あなたのその囁くような声。あれは歌唱とは呼べない。厳しいボイストレーニングから逃げ、声量のなさを『個性』という言葉で誤魔化しているだけではないですか?」

露骨な挑発。

全国の視聴者が見ている生放送で、私たちの実力を底辺までこき下ろし、メッキを剥がそうという腹積もりだ。

「……ッ」

マコが小さく息を呑む。

すかさずレイカが「あなたね……!」と反論しようと身を乗り出したが、私はそれを手で制止した。

「ミオ?」

レイカが怪訝な顔をする。

私はソファに背中を預けたまま、西崎に向かって鼻で笑った。

「音楽的な深み、歴史へのリスペクト……。なるほど、権威主義のお偉いさんが好きそうな言葉ね。でも、西崎さん。あなたは根本的な勘違いをしているわ」

「勘違い、だと?」

「ええ。私たちは『音楽』なんていうお上品な芸術作品を作るために、ステージに立っているわけじゃないの」

私は立ち上がり、スタジオの強烈な照明を遮るように、西崎の目の前まで歩み寄った。

「私たちが作っているのは、ウイルスのプログラムよ。聴く者の理性をショートさせ、予定調和の日常を破壊するための、致死量の猛毒。……マコ、見せてあげなさい。あなたの『誤魔化し』が、どれだけ凶悪なものかを」

私の言葉に、マコはゆっくりと立ち上がった。

かつての泣き虫だった少女は、六万人の熱狂を浴びてきた誇りを胸に、氷のように冷たく澄んだ瞳で西崎を見下ろした。

そして、ピンマイクを通して、スタジオの静寂を切り裂くようなウィスパーボイスを放った。

「――あなたの時代は、もう終わったんです」

たった一言。

しかし、極限まで研ぎ澄まされたその声には、聴く者の背筋を凍らせ、心臓を直接鷲掴みにして離さない恐ろしいほどの『圧』が込められていた。

西崎が「ひっ」と短く息を漏らし、無意識に体をのけぞらせる。

「……うるさい。おじさんの声、ノイズにもならない」

サエが目を閉じたまま、マイクを通さずに重く不気味なハミングを響かせる。スタジオのガラスが微かに共鳴し、ビリビリと震え始めた。

ただの鼻歌で、空間の空気を完全に支配してしまう。それがサエの天才的な異常性だ。

「ふふっ、歴史なんてどうでもいいんですよぉ。だって、これから私たちが世界の歴史になるんですからっ」

アカリが西崎の顔のすぐ横に滑り込み、あの背筋が凍るようなサイコパススマイルを叩きつける。西崎の顔面から、完全に血の気が引いていくのがわかった。

そして、最後にランが動いた。

彼女がゆっくりと立ち上がった瞬間、スタジオの空気が一変した。

まるで彼女の背後から後光が射しているかのような、暴力的なまでの存在感。カメラマンたちが指示もされていないのに、吸い寄せられるようにランをズームで捉える。

「音楽的な深みが足りない? ……笑わせないで」

ランは、スタジオ中に響き渡る声で、一切の伴奏なし(アカペラ)で『WORLD.exe』のサビのワンフレーズを歌い上げた。

一切のブレもない完璧なピッチ、スタジオの天井を突き破るような圧倒的な声量と熱量。

それは、音楽理論などという小さな枠組みを木端微塵に粉砕する、絶対的な『光』の暴力だった。

「……あ……」

西崎は完全に言葉を失い、恐怖と畏敬が入り混じった顔でランを見上げていた。アナウンサーも、番組スタッフも、全員が息をすることも忘れて沈黙している。

私は西崎の机に両手をつき、彼の顔を覗き込んで低い声で告げた。

「理解した? あなたの持っている古い定規じゃ、私たちのバグは測れないのよ。私たちは、あなたが守ってきたちっぽけな箱庭(日本)のルールごと、世界を書き換えに行くの」

私はカメラに向かって振り返り、全国の視聴者に向けて不敵に嗤った。

「テレビの前の皆さん。日本の退屈なエンタメは、私たちが今日で終わらせてあげました。……次はヨーロッパよ。せいぜい、画面の向こうから私たちのパレードを見上げていなさい」

言い捨てるや否や、私は踵を返し、スタジオの出口へと歩き出した。

「行くわよ」

私の合図で、ランが優雅に髪をかき上げ、アカリがカメラにウインクを残し、レイカが誇り高く胸を張り、マコとサエが後に続く。

生放送のカメラが回っている中、ゲストが勝手に帰るという前代未聞の放送事故。

しかし、誰も私たちを止めることはできなかった。

残された西崎とアナウンサーは、完全に機能停止したシステムのように、ただ呆然と私たちの背中を見送ることしかできなかったのだ。

テレビ局の重厚なエントランスを抜けると、外にはすでに羽田空港へ向かうための送迎車が待機していた。

「あははっ! あの評論家のおじさん、最後は完全に魂が抜けてましたねぇ!」

車に乗り込むなり、アカリが腹を抱えて笑い出す。

「当然よ。私の光を間近で浴びて、自我を保てる人間なんていないわ」

ランが満足げにシートに深く腰掛ける。

「でもミオ、生放送であんなことして、日本のメディアは完全に敵に回したかもしれないわよ?」

レイカが呆れながらも、その顔には痛快な笑みが浮かんでいた。

「構わないわ。メディアに媚びて生き残るくらいなら、メディアごと乗っ取ってやるだけよ」

私は車の窓から、遠ざかる東京のネオンを見つめた。

日本に残っていた最後のしがらみは、これで完全に断ち切った。もう、私たちの行く手を阻む古いシステムは存在しない。

「鮫島さん、ロンドンまでのフライト、何時間?」

助手席に座る鮫島プロデューサーが、冷や汗を拭いながら振り向く。

「およそ十四時間だ。……お前たち、本当に歴史を変える気なんだな」

「ええ。世界を完全に『エラー』で染め上げるわ」

飛行機は間もなく、深い夜の空へと飛び立つ。

伝統と格式の街、ヨーロッパ。

そこで私たちがどんな泥沼のパレードを繰り広げるのか。六人の怪物たちは、未知の戦場を前に、誰一人として恐れることなく飢えた笑みを浮かべていた。

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