episode28
【 SNSリアルタイム実況タイムライン 】
トレンド1位: 放送事故
トレンド2位: 視覚バグ
トレンド3位: GlitcH最高
トレンド4位: ランとミオ
トレンド5位: コンマ5秒の静止
@idol_watcher_A
え、今放送電波乱れた!? って思ってテレビ叩きそうになったけど、よく見たら全員ピタリと止まってただけじゃん!! コンマ5秒の静止で映像のフレーム落ち(バグ)を人力で表現するとか、演出考えた奴天才通り越して狂ってる。
@night_owl_worker
鳥肌が止まらない。完璧なランちゃんのダンスの裏で、アカリちゃんが笑って、衣装の白がだんだん黒く侵食されていく演出、怖いくらい美しかった。仲良しグループじゃなくて、ガチで相手を公開処刑しにいく戦闘狂の集まり。
@ran_is_my_angel
ランちゃんオタクだけど、今日のダブルセンターは認めざるを得ない。ランちゃんの絶対的な「光」が強ければ強いほど、ミオの「闇」が際立つ。しかもランちゃん、ミオと目が合った時、今までで一番生き生きとした顔してた。
@akari_psycho_fan
アカリの舌出しスマイルで完全に息止まった。あの圧倒的なダブルセンターに挟まれて、自分のポジションを「狂気」で強引に確立するアカリちゃん、本当にしたたかで最高。
@subculture_girl_99
「光の侵食」ってテーマやばすぎる。ミオ様の三十年分の人生の重みが、アイドルオーディションっていうキラキラした枠組みを完全にハッキングして、一つの芸術作品に書き換えた瞬間だった。こんなのもう宗教じゃん。
@saori_oshikatsu
息するの忘れてた。6人が最後誰一人目も合わせず、ただ前だけを睨みつけて終わるの、最高にGlitcHってて最高。デビュー前でこの完成度って、これから世界どうなっちゃうの??
「……カット! 放送終了です! お疲れ様でした!!」
フロアディレクターの絶叫がドームに響き渡り、中継カメラの赤いランプが一斉に消えた。
その瞬間、張り詰めていた糸がプツリと切れたように、私たち6人はその場に座り込んだり、膝に手をついて荒い息を吐き出したりした。
「はぁ……っ、はぁ……っ」
私の耳には、まだ五万人の観客の歓声の残響が、耳鳴りのようにこびりついている。
全身の筋肉という筋肉が悲鳴を上げ、喉からは血の味がした。三十歳の中身がどれだけ気合いを入れても、十七歳の肉体が負ったダメージはごまかしきれない。
「……ミオ」
不意に、頭上から声が降ってきた。
顔を上げると、汗で前髪を額に張り付かせたランが、荒い息のまま私を見下ろしていた。純白だったはずの彼女の衣装は、汗と、私たちが演出として仕込んだ黒い染料とで、すっかり汚れてしまっている。
「……あのコンマ五秒の静止。悪くなかったわ」
ランはそれだけ言うと、ふいっと顔を背けた。
しかし、その横顔には、自分の完璧なパフォーマンスが私の『ノイズ』によってかつてないほどの高みへと昇華されたことに対する、確かな高揚感が刻まれていた。
「ふふっ。ランちゃん、ミオちゃんに感化されすぎですよぉ」
アカリが、わざとらしくため息をつきながら歩み寄ってくる。彼女の目は、すでに次のメディア露出に向けた計算でギョロギョロと動いていた。
「でも、私が一番カメラに抜かれた自信がありますから。……ミオちゃん、最高の演出、ごちそうさまでした」
アカリがペロリと舌を出す。
私はゆっくりと立ち上がり、乱れた息を整えながら彼女たちを睨み返した。
「勘違いしないで。これはただの始まりよ。……あんたたちを完全に私の泥沼に引きずり込んで、アイドルの歴史ごとバグらせてやるんだから」
「ふん。生意気なセンターね。私のダンスについてこられなくなったら、容赦なくその場所、奪い取るわよ」
レイカが腕を組みながら強がりを言うが、その足は生まれたての子鹿のようにガクガクと震えていた。
「わ、私、絶対についていきますからっ! ミオちゃんにも、みんなにも!」
マコが涙目でレイカの背中に隠れながら叫ぶ。
「……お姉さん、帰って寝よ。もう疲れた」
サエが私の服の裾を引っ張り、いつもの気怠げな声で目をこすった。
七人の怪物たち。
決して交わることのない強烈なエゴとエゴが、ただ「最高のステージを作る」という一点においてのみ、奇跡的なバランスで結びついている。
控室へと続く薄暗い廊下を歩きながら、私はふと、自分の両手を見下ろした。
もう、システムが与えてくれた青いモニターも、ステータス画面もない。
前世の狭いワンルームで、何者にもなれずに涙を流していた日々は、遠い幻のように感じられた。
あの頃の私が喉から手が出るほど欲しかった「特別」な存在に、私は今、なっているのだろうか。
いや、違う。
私は「完璧」になったわけじゃない。自分の弱さも、醜い執念も、怠惰な部分も、すべてをひっくるめて『バグ』という名の武器に変えただけだ。
控室の重い扉を開けると、そこには私たちのデビューを祝うための、山のような花束とカメラのフラッシュが待ち受けていた。
「さあ、いくわよ、GlitcH」
私は前を向き、三十歳の貫禄と、十七歳の瑞々しい野心を口元に浮かべた。
予定調和のシンデレラストーリーは、ここで終わり。
ここから先は、私たちが自らの手で書き換える、最高に歪で美しい、新たな時代のプロローグだ。




