幕間1 もう一つの世界で
「先ずは、津軽屋まとめはどこにいる?」
【東京都一風区晴稀咲町葦山二丁目舘畑第三工場】
「よし。じゃあ……代澱満那は?」
【マンドゥグル北西部。他関連人物数名】
「お、やっぱそこも分かるか。なら次は……」
そこは日本国内にあるなんの変哲もない一軒家の中。
その一般的という表現が相応しい外面に対して、通常とは異なるまるでSF映画のセットのような機器が所狭しと並べられた一室で、一人の男が目の前のモニターに向けて声を掛けている。
そんな男の様子を観察するように、左にある別のモニターが点滅する。
『ケンジ。何をしているのかな』
「お、アンタか。なに、このかわいこちゃんの力試し……というよりまあ、ただ遊んでただけだよ。魔力を自在に探知できるって言うんで試してみたけど、例の奴らの居所まで分かるとはね」
『一応言っておくが、”オルズ”にあまり悪い遊びを教えないでくれたまえよ。人間を超越した極度知能体とはいえ必ずしも邪心が芽生えないとは限らないのでね』
「へいへい仰せのままに」
左モニターから届く声からやんわりと苦言を呈された男は自嘲気味に手を上げ、傍らに置いてあった強炭酸エナジードリンク雷酢を呷る。
「にしてもコイツの面倒を俺に見させるってのはどういう了見なんだ? アンタなら子育て……いや知性育ての手間一つ惜しむようなタマじゃないだろ?」
『地球の原住民の手によって地球の文明を学習させることが重要なのだよ。地球生命の意思を代表する完全な自己を確立させるにはね。しかしまあ私の予測では少々攻撃的な精神が形成されてしまう可能性が高いのだが……それはご愛嬌といったところかな。ディアもいる以上あとで多少は調整が効くだろうから問題はない』
「あーそう……」
男が端末を操作すると、右側にあるまた別のモニターに己が管理するチャンネルの配信画面が開かれる。
そこには彼の周囲で巻き起こる出来事全ての中心にあると言ってもいい存在である御山光纚が、傭兵としての仕事着のような衣装に身を包んでいる姿が映し出されていた。
「ところで配信のことだけど、アレで本当によかったのか? ちょっと荒らそうとしたぐらいで住所やらを公開とかはさすがに過剰な気がするし反発も大きそうだが」
『そうだな。君には教えておいてもいいだろう。端的に言うとこうしなければ君は死ぬ』
男は左モニターから発せられたその声に咄嗟に言葉を返せなかった。
あまり長くはない付き合いの中でこのモニターの向こう側にいるのが、情報を与える場面でそんな冗談を言う者ではないことは理解しているが、今回はさすがにほんの少しでも自分を揶揄う気になった可能性があるのではないかと思いたくなったようだった。
『先ず前提となる人の”意思”に関する情報は覚えているな。例の配信をするにあたってこちらとそちらの世界の間にはわずかに魔力の繋がりが通っているのだが、配信を視聴するという形で人々の意思が集まるほどにその繋がりも強くなっていく。それがある程度大きくなった段階でその繋がりは敵に察知されることになる』
「……敵っていうのは、世界の滅亡に関わるものか?」
『ああ。その繋がりを辿ることさえできればその敵は一部が魔法世界に直接乗り込んでくることもできるが、それによって送られてくる雑兵程度は簡単に処理できるため問題外だ。危険なのは反対側、つまり君たちの世界に乗り込まれた場合だ』
男は脳をフル稼働させてその人物の言葉から考えられる可能性の景色を脳内でシュミレートする。
雑兵呼ばわりとはいえこの人物の基準であるため、あまり鵜呑みにはせず仮に現代人類の軍事力では対抗できない程度のバケモノを想定して考える。
そんな存在が地球にやってくる……配信を通して異世界に繋がる魔力が集中する場所。
すなわち自分の家。
「……なん、となく分かってきたぞ……その敵はどのみち地球に攻めてくるし止められないから、配信を介して別の人間により多くの意思を向けさせることで、囮にするってことか……?」
『概ねその通りだ。正確には、その敵は穏やかなものよりも憎悪や嫌悪など、感情の負の側面である悪意に強く反応する傾向にあってね。悪意ある人間に悪意が集中し、そこに意識が向くよう誘導してやれば、少なくとも君が死ぬ事態だけは避けられるということだ』
そのために他人を犠牲にするとはなんて残酷なんだ。
という表面的な博愛主義者のようにありきたりな感想を男が覚えることはなかった。
しかしその容赦の無さには薄ら寒い感覚が背筋を走る。
己の命を救うための行動に対して男の胸に僅かにも感謝の気持ちが湧いてこないのは、それが自分の身を案じてのことではなく、あくまでも世界を救うという結果を確実に迎えるために必要な工程を淡々と踏んでいるに過ぎないという印象をこの”預言者”が抱かせるからだろう。
「それで、もし目を付けられたどっかのバカのとこに敵が攻めてきたとして。そいつらを倒すのは例のアイツらってわけか」
『もちろんだ。そちらの世界には魔力による影響を大きく抑制するなんらかの作用が働いているらしい。こちらに存在する結界と似て非なるものだろうが、それの正体は今はどうでもいい。とにかく魔力がうまく機能しないのなら奴らの厄介な能力もほぼ無効化されていると考えていいだろう。そんな状態でなら彼らの実力から十分迎撃は可能だと言っていい』
「なるほどねぇ。あんたがそこまで言うほどなら、あの連中を信じてみるとしますかね……」
*
それは所変わって日本列島から遠く離れたある国での事。
「撃て撃て! 相手は一人だ! さっさと始末しろ!」
「さっきからずっと撃ってるけど死なないぞ!?」
「運よく当たっていないだけだ! 包囲して集中砲火を食らわせてやれ!!」
放棄され荒れ果てた市街地で、雑多な服装の銃火器を持つ多数の人間が一つの場所へ一斉に銃弾を浴びせかけている。
その銃口が向く先、激しい銃撃によって舞い上がり立ち込める砂埃の中を、まるで早朝の散歩をするかのような軽い足取りで進む人影が現れた。
「はぁ……あんまり埃立てないでくれないかなぁ。髪が荒れちゃうでしょ」
姿を直接視認したことでその場にいる者たちの狙いがその人影に集中し、ようやく敵を蜂の巣にしてしまえると思われたが、次の瞬間に雨のように降り注いだ弾幕が撃ち抜いたのは、どこにも人影のない砂埃だけだった。
「ど、どこにいった!?」
「探せ! 包囲網を崩すな!」
「残念。もう終わってるよ」
見失った敵の姿を探して誰もが辺りを見回す中、集団の背後を歩く女がその手に持つ刀を鞘に収める。
その瞬間にその場にいた数十人の銃兵たちは、軒並み体を何分割にも両断され、埃立つ廃街の一角に血の海を作り出してしまった。
「今日のお仕事終了〜っと。早く帰ってシャワー浴びよ」
【代澱流剣術総師範・代澱流本道場274代目当主 : 代澱満那】
「アナタ中々腕立つネ。鉄砲に甘えてなきャ少しは面白い勝負になッたかもしれないヨ」
「遺言はそれだけか、小娘ェ!!」
また別の区域では、多数の人間が倒れ伏す道の上で二人の人間が相対していた。
一方は周りに倒れる兵士たちと同じような格好の大男であり、両手にナイフと拳銃を持っている。
もう一方は戦場に立っている者としては似つかわしくないほどに華やかな服装に身を包んだ長髪の女性だった。
大男は怒りに身を任せるように拳銃を撃ち放ちながら突撃していくが、女はそれを最小限の動きですり抜けるように躱していく。
そして接近した男は相手の急所を的確に切り裂くようにナイフを振り回すものの、女には掠る気配すらなく遊ぶように受け流していく。
「ホラホラ。一回でも当てられたら、ジュースの一杯くらい奢ってあげるヨ」
「このっ……舐めるなァッ!!」
女の挑発で頭に血が上ったらしい男は、確実に致命傷を与えるためより深く踏み込み、銃口の向きで動きを制限しながら心臓へとナイフを一突きにしてしまった。
はずだったが……。
「ハイ残念。ゲームオーバーってヤツネ」
「なっ……ぐあああああ!!?」
瞬時に男の反応速度を上回って背後に回り込んだ女は、尾骨から首骨の上部までの急所へ一瞬で何発もの打撃を叩き込んだ。
そうして倒れ込んだ男は脊髄を破壊されたことで、体を痙攣させるばかりで身動きがとれなくなったようだった。
「這髄十拳。気まぐれで命だけは取らないヨ。早くヒカリの配信見に行きたいからこれで失礼するネ」
【霊獣拳法黒冠・中華一強 : チャンリー・フォールデルト】
「この辺りに隠れてるはずだ! 必ず見つけて殺せ!」
崩れた瓦礫が散乱する地区で複数人の雑兵が周辺を捜索している。
見かけた生き物は鼠一匹でも容赦しないと言わんばかりに殺気立ったその一団は、あるたった一人の敵に仲間を大勢殺されたことで、なんとしても報復してやるという一心以外頭にない状態に陥っていた。
そんな冷静さを失った者たちにその人物を見つけられるはずもなく……。
「瓦礫だらけといっても人間が隠れられるほど大きな隙間は少ない! 発見も時間の問題のはずっ……」
「ごめんね。そこにはいないんだ」
辺りを探る一団の最後尾にいる上位の兵士らしき男の頭頂部に真っ直ぐ短刀が突き立てられる。
「隊長……? おっおい! こっちだ!」
その近くにいた兵士が男の言葉が不自然に途切れたことを不審に思い、振り向くことで男が一人でに頭から血を流して倒れているのを見つける。
仲間が死んだということは近くに敵が居るという思考にすぐさまたどり着いた兵士は、他の仲間を呼び寄せようと振り返りながら大声で合図を出すが……。
その視界には見渡す限り、仲間全員が血を流して倒れている光景が映り込んだ。
「バカな……バケモノ……」
そうして茫然自失となって立ち尽くす最後の一人もまた急所への短刀の一突きで静かに命を狩られた。
「失礼だなぁ。ただの初歩的な手品だよ……さてと、これで敵は最後かな……」
敵の全滅を確認して一息吐いたその人物だが……次の瞬間、その額に紅い花を咲かせて地に倒れ伏した。
「命中! ざまあみろハイエナ野郎が! 死体を故郷に送り返してやるよ!」
数百メートル離れた高台からその狙撃を成し遂げた兵士は、仲間を蹂躙した怨敵を仕留められた事実にいきり立って勝ち誇っていた。
「へぇ、おめでとう。まあ分身なんだけど」
しかし不意に背後へ現れた気配と声に、理由などは全く理解できないがとにかく己の敗北を悟ったのだった。
「……バケモノ」
その言葉を最後に頭の飛んだ兵士の体が崩れ落ちるのを見届けて、手を下した張本人であるその人物は短刀を背中の鞘に収めた。
「失礼だなぁ。ただの忍だよ。達人の、だけどね」
【秘奥伝式忍法術白菱流現当主・純日本式忍号検定零級『仙忍』資格者 : 翠蓮翡影】
「クソッ! 大臣が乗るトラックは目の前なんだ! あんなヤツさっさと片付けろ!」
「ア、アイツ素手で弾を防いでやがる!?」
「火吹き銃を持ってこい! 炎までは凌げんはずだ!」
同廃街の大通りで銃声の大合唱が巻き起こっている。
その音が向かう先はたった一人の人間であり、その背後には当国の要人が乗った車両が走行していた。
兵士たちはそれらを始末しようと一斉に銃撃を浴びせかけるが、車を庇うように走る男は目にも止まらない手捌きによって銃弾を受け流す・弾き飛ばすなどの離れ業をやってのけていた。
「はぁ……護衛は俺の分野じゃないんだがな」
「はいお待たせ。こっちは任せて、片付けよろしく」
車に向かう銃弾を捌き続けるだけの不毛な時間にため息を吐く男だが、その車両の上にどこからか忍が現れた
「ようやくか。じゃここからは、狩りの時間だ」
車の護衛を交代したことで男はこれまでとは一転して兵士たちに向けて突撃を始める。
苛烈な弾幕を素手で防ぎながらあっという間に敵へと接近した男は、手を牙を剥くような形にして目の前の兵士の首元に突き込んだ。
「がぉっ!?」
「1匹」
長い爪を首の奥まで深く食い込ませ、それを抜き取ると男は直ぐに次の兵士へと向かっていった。
「ひいっ! 来るなあ! ぎゃっ」
「近づいて来たところを狙って返り討ちにしろ! えべっ」
「2匹、3匹」
男はそこだけでは致命傷になり得ない場所も含めて一つの傷をつけると、まるで既に仕留めたとでも言うかのように瞬く間に兵士たちの間を移動し続けている。
傷を付けられた者たちは僅かな間苦しみ悶えた後地に伏せていった。
「このクソ野郎が! 焼け死んじまえ!!」
残った人間は一人の兵士の後ろに退がり、大きな火炎放射器を持った者はその武器からまるで竜の怒りを体現するかのような爆炎を噴き出させた。
「手温い」
男は目の前に迫る脅威に一切怯むことなく飛び込んでいき、地面に添って這うように進み、炎の及ばない発射口の根本から兵士の懐へ潜り込んだ。
「おっ!」
「27」
そして剥き出しになった燃料缶に爪で穴を開けると、また目もくれることなく背後の兵士たちに襲いかかっていった。
火炎放射器を持つ兵士は次の瞬間、漏れ出た燃料に引火したことで起きた爆発に巻き込まれて声もなく消えていった。
「ぐぼ……」
「これで最後……」
そうして蛇のような独特の動きで翻弄しながら毒爪で敵を仕留めていき、数十人いた兵士たちは男が攻勢に転じてから一分と経たずに全滅してしまった。
「フン。狩応えのない……エベレストに巣食う狼どものほうがよほど強かったぞ」
【獣咬流無差別種戦闘術総代表・最高危険度猛獣狩猟数ギネス記録保持者 : 蛇廼千彼】
そこは一帯の戦場で最も激化し銃声や爆音が絶え間なく鳴り響く場所だった。
「くそっ! どれだけ撃ち込んでも平然としてやがる!」
「重戦車の装甲も貫通する徹甲弾すら……どうなっているんだ!?」
数多くの兵士たちがたった一か所に向けて持てる限りの火力を集中させている。
だがその火の嵐の中心に立ち続けているその人物は、鉛玉が肌を叩こうとも爆発の熱が肌を撫でようとも、まるでこたえた様子が見られなかった。
「いつまでも豆鉄砲でbang.bang.bang.burnと鬱陶しいわァ!! 気合いが足りとらんな気合いが!! もっと魂込めて撃たんかいボケどもォ!!」
むしろその男は、わざわざ無防備に体を晒しているというのに、誰も自分に傷一つ付けられないという状況に苛立っているようだった。
「おいこっちだ! あの男を撃て! 焼夷弾ならさすがに死ぬはずだ!」
そして兵士たちの痺れが切れるのを合図とするように、その場に重大な機構が奏でる行進の車列が近付いて来た。
「ハッハァ! 少しは骨がありそうなんが出てきたやないか! ん? いやいや、戦車に骨はないわ。この場合どう言うたらええんや?」
「なんか隙だらけだぞ! 一斉に砲弾を浴びせてやれ!!」
すぐ前方で戦列を組んで砲塔をこちらに向ける戦車団を前にしても、男はまるで敵を前にした場合の警戒心を見せる素振りすら見せない。
そんな様子に兵士たちは一切の躊躇なく一人の人間に対して戦車の集中砲火を浴びせかけた。
「まあいいわ。戦車やろがミサイルやろが、どうせワシにはかすり傷一つ付けられんからなァ!!」
たった一発でさえ地球上のどんな生き物も吹き飛ばしてしまえるだろう火砲の直撃を何発も受けて、それでも男は傷が付く以前に体幹を崩すことすらなかった。
そして硬く握り締めた拳を地面に打ち付けると、地面に伝わる衝撃が意思を持っているかのように戦車達の足元に向かい、噴火を起こすかのように鈍重な鉄の巨獣を空高く打ち上げてしまった。
信じられないような光景に慄く兵士たちは、目の前の生物を殺すのは不可能だと悟り散り散りに逃げ惑っていった。
「はい解散解散! 次来るまでにもっと鍛え直しとけや!! そろそろヘビちゃんとでも手合わせしとかんと身体鈍りそーやなぁ」
【超硬身型”超人体質”保有者・同級生内格闘試合総合成績一位保持者 : 鋼坂長門】
「一度目の者たち……最初の勇者ってやつを……」
*
「ぐふ……はねが、ふわふわ……」
「警部! 警部! ちょっとヤシキさんってば!」
「んぁ……おあ? あれ、ぺっとは?」
「知らないですよ! それより起きてください! とんでもないことになっちゃってます!」
そこは東京都皆千代区霜が埼に存在する警視庁の中。
休憩所として設けられた空間の椅子で呑気に寝こけていたその女性警官を、若い男の警官が慌てた様子で起こそうと声をかける。
それに女性警官は寝ぼけながらも体を起こし、今の今まで見ていたものが夢だと理解すると、そばに立っていた若い警官の頭を思い切り引っ叩いた。
「あだっ!?」
「ったく邪魔すんじゃねぇよ、せっかくいいとこだったのに……」
「邪魔って、寝てましたよね? 今勤務中ですよね?」
「で、なにがとんでもないって?」
「なにがじゃないですよ! 例の“アーク事件”、あの謎の広告で宣伝されてた配信でとんでもない情報が!」
「なんだビワぁ? てめぇ仕事中に動画見てんのかよ。たるんでんなぁこれだから最近の若いやつは……」
「いや出勤時間の半分は居眠りしてる警部に言われたくないです! それにアーク事件は今日本全国にいる全ての警官の必修科目ですよ?」
「あ? なんだそりゃ」
気怠げな様子で背筋を伸ばす女性警官は墅四季晴夏、彼女の様子に呆れながらも根気強く接している若い男性警官は眞琵琶瀧人という名だった。
彼女らはヤシキがマビワの教育係となってから数年の間共に行動することが多い間柄であった。
「ヤシキさん本当に知らないんですか? 件の配信に出てくる主要な人物が日本人だからって、アーク事件の主犯も日本人じゃないかって専らの噂なんですよ!」
「はっ、ただの噂なんじゃねぇか。物証が出てから改めて起こしやがれ」
ヤシキはどうでもよさそうに手を振ると、再び横になり鼻提灯をこしらえようとする。
「ちょっとまた寝ようとしないでください! 本題はそこじゃなくて配信の内容なんです! なんでもこのままだと世界が滅びるとかで!」
「バッカやろうが、ネットの誰かさんがおっしゃってることだろ? それこそその辺に転がってる陰謀論と同じような与太話じゃねぇか。いちいち真に受けてんじゃねぇよ」
「いやだからこれは他とは違って! ああもう知らない人に説明するの難しいんだよなぁ! でもとりあえず例の配信の内容がCGとか作り話が一切なしの本物だって仮定の上で事を考えるべきですよ! なんせこの配信に世界中の注目を集めるためにやったことが与太や酔狂で済ませていいレベルじゃないですし……それにこの件に関わってると思われる日本人の子供が実際に一人行方不明なんですよ」
マビワの最後の言葉を聞いたヤシキは眉をひそめて起き上がり彼を鋭く見据えた。
「……それを先に言えよバカ。で消えたのは何もんだ?」
「御山光纚十七歳。偶然かどうか、なんと世界中で多岐にわたる事業を展開するあのグループ企業、日鳥十和ホールディングスを創設した御山家の御令嬢なんですよ! まあ行方不明と言っても、本人は例の配信にずっと出てるんですけどね。なんでも突然異世界ってやつに行っちゃったらしいです」
「てめぇ今自分で言っててバカバカしいと思ってるだろ?」
「否定はしませんけど、俺の口だけで説明できるもんでもないですし、詳しい概要は庁内の誰かがまとめた資料とか例の配信でも見て自分で確かめてくださいね!」
「へいへい……」
慌ただしく仕事に戻っていくマビワを見送り、ヤシキは面倒そうに背もたれに身を預け、過去に自分が担当することとなったある事件で関わった人間の姿を思い浮かべていた。
「御山ねぇ……そりゃおめぇ、コイツが偶然なわけねぇやな……久々に顔を合わせることになりそうだなぁ、ガキども……」




