第一話 た、ん、じょ、う
グルーク国にそれは国民を大切にしている国王夫婦がいた。グルークの人々は飢えに苦しむこともなく、明るく平和に暮らしていた。
グルーク国で今持ちきりの話題がある。
それは国王夫妻にひとつの命が宿ったこと―――
「ぎゃぁぁ うンぎゃぁ ぁぁ」
落ち着かなくあっちこっち動いていた人々がぴたりと固まる。その目も瞬もせず固まる。
だがその沈黙もひとりの声でやぶられた。
「赤ちゃんみして…」
その声は人生の最大の難関、嫌、最大の喜びをかみ締めている声であった。
長時間の苦労と緊張に解放され女の瞳からは涙がスッと流れ出た。
その声を聞いた人々の目からもじわりと水があふれ出した。
※ ※ ※
「おうさまぁ―― おうさまぁ―― おんなの…」 『ガバッッ』
そう言いかけた王の側近・イスクは突然抱きしめられた。
手加減なし。相手が窒息しようがかまわない勢いで。
「おうさまぁ―― ぐるじいぃ―― 」
「すまん、すまん。つい嬉しくて…」侘びの言葉を言うと、はっと思い出したようにいっきに言葉をたたみかけた。
「産婆はなんと言っていた!!」
「『お会いになってください、早く来ないとかわいい姫君を食べちゃいますよ。』だそうです。」
「分かった!!!」
それを聞いたとたん若き王は雄たけびをあげ旋風になって消えた。
※ ※ ※
「ブーケ!!」
「何ですか?」平然と答える我妻。
「体は大丈夫なのか?」はっきり言って妻は体が弱い。ただ本人は腫れ物を触るような扱いは嫌いだ。
「そうか… ブルーネス・ラーナ・グルークはどこだ?」
「誰ですかそれ」
「子の名前だ。」然も当然そうだ。
「この姫の名前はもう決めてありますよ。《シーラス》です。」ブーケは隣に居る我が子を愛おしそうに見る。
「どういう意味だ?」
「さぁ?意味などありませんよ」
シー・ラス ――――それはブーケの母国語で「人を・愛す」
愛しい我が子よ。国、国民を愛し愛される子に育ってください。
そしていつかあなた一人を[愛してくれる人]に巡り合えるように。