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家庭内ラーメン戦争

 お、重い。


 空気が重い、重すぎる。


 何でこんなことに......。


 それはアンジェリークの無邪気な一言から始まった。


「ラーメンを食べてみたいです。」


 オランシアの麺と言えばパスタと呼ばれる小麦粉に卵、水、塩などを、混ぜたものが普通である。


 大してヤポナでは小麦粉の他にも、そば粉や米粉などを用いたものなど多種多様のものが食されており、麺が大変好まれているようだ。


 そのなかでカンスイというものを加えて作られるラーメンと言う麺はスープも具材も種類が豊富で専門店も多い。


 アンジェリークはまだ食べたことがなかったので、ふと言ってみただけだったのだが。


 それが何ゆえこんなことに。


 今まさに、三人が刃を交えるかのごとくやりあっている。


「醤油に決まってるでしょう!王道だよ。基本だよ。どんな麺にも具材にも合う万能スープだよ。千里の道も醤油からだよ。」


「塩だろが!シンプルな味付けだからこそ、出汁はもちろん、麺や具材の味を引き立て、最高のラーメンになるのだ。」


「トンコツに決まってるでしょう!あの濃厚でまろやかな味わい。ゼラチンまで含んで味だけでなく美容にも良い一石二鳥のスープよ。」


 今までどうしていたのだろうかと料理長に聞くと不思議そうに 、


「確かに一番好きな味というのはありましたが、他の味も美味しいと普通に食べていらっしゃったんですけどねぇ。」


 番頭さんがいうには、若奥様に是非自分の一押しをと思うあまり、喧嘩になったのではないですかねと。


 私のせいですか?


「アンジェリークは醤油味が食べたいよね。愛する夫のお薦めだもんね!」


 愛するって......は、恥ずかしい。


「ここは家長の私お薦めだよな。アンジェリークは伝統と礼儀を知る貴族だからな。」


 貴族、関係あるのか?


「まあ、なんて強引な男たちでしょう。アンジェちゃん、こんなバカたち無視よ無視。女どうし美容と味の追求よね。」


 ......。


「若奥様、どうなさいます?」


「番頭さん、どうしましょう?」


「そ、そうですなぁ。せっかくですから、全部食べ比べしてみてはどうでしょうかね。」


「そうね、そうしようかしら。」


 じと~とした目で番頭さんを見る三人を無視して逃げるように、番頭さんも料理長と共に調理場に向かった。


「アンジェリーク......信じてたのに......。」


 そ、そんな浮気を見つけたかのような目で見ないで~。


「アンジェちゃんが選んでくれなかった。」


 お義父様もお義母様も、がっくりしてこちらを細目で見てくるのを、番頭さんたちに倣って、無視、無視、無視!


 気まずい時間が流れるなか、ようやくラーメンが運ばれてきた。


 湯気のたった熱々のラーメンからは食欲をそそる香りがふわっとしてくる。


 ん?四種類のお鉢がありますが?


「醤油、塩、トンコツ、そして勝手ながら、私お薦めの味噌味のものも作ってみました。よろしければこちらもお試しください。」


 料理長お薦め!


「あっ」とか、「うっ」だの息を飲む声が三人からする。何なの?


 良くわからないまま、まずは旦那様お薦めの醤油から。


「美味しいですわ。あっさりしているのにこくがあって、どんどんお箸がすすみますわね。」


「でしょう!なんてったって基になった味だからね。初心忘るべからずだよ。」


 小鼻を膨らませて得意気な旦那様。


 か、かわいい~。


 次は塩味を食べてみる。


「あら、あっさりしていて食べやすいわ。お野菜の味もしっかりと。癖のない味で美味しいですわ。」


「そうだろう、そうだろう。シンプルが一番だろ。」


 お義父様の満足げなお顔。


 そして、トンコツをば。


「ああ~、こってり濃厚なのに、まろやかさもあり深い味わいが。ゼラチンも溶け込んでいるなんて贅沢な一品ですわね。」


「でしょう。美味しいうえに、お腹は膨れる、しかもゼラチン入りと一石二鳥ならぬ、一石三鳥よ。」


 ふむ、これは困った。


 どれもこれも美味しくて選べない。


 最後に予定外だが、せっかく料理長が用意してくれたので味噌味も試してみることに。


 ちゅるちゅるちゅる......。


「おお~、何なのこれ!同じ味噌スープなのに味噌汁と全然違うわ!味噌汁より更に濃厚で具材にもほどよくからみ、でも少しピリッとした味が全体を引き締めている。美味しいですわ~!」


「ありがとうございます。ピリッとするのは唐辛子が入っております。これもまたお好みで一味から七味、量を変えることで味わいも変わります。若奥様は毎日お味噌汁をお作りになってらっしゃるので、勝手とは思いつつ、興味深いかと思い作らせていただきました。」


「ありがとう。またまた味噌の奥深さに感動だわ。さすが料理長ね。あなたが一番!」


 あ、思わず言っちゃった。


 そ~っと三人を見ると、がっくりしてるかと思ったら、あちゃ~といった表情。


「味噌味忘れてたよ。」


「やられたな。」


「そうよねぇ。アンジェちゃんにとってはお味噌は新しくも今や深い関わりがあるものね。」


「アンジェリーク、お味噌汁大好きッ子だもんね。」


「さすが、専門家。」


「目の付け所がいやらしいわねぇ。」


 誉めてるのか何なのか微妙な言葉も混じってたような気もするが、結果は料理長の勝利!


 ......でいいのかな?


 これで一件落着かと思いきや。


「ナルトなんてただの惰性で入ってるだけでしょ。渦巻きになんの意味があるのさ。蒲鉾でも良いじゃない。種類も多いし。」


「ナルトは絶対だろうが。モヤシこそ要らんわ。色合い悪いわ、麺と間違えるわ、邪魔なだけだ。」


「んまぁ、なんてことを!モヤシはしゃきしゃきした歯応えがいいんじゃありませんか。それより要らないのは海苔よ、海苔!入れたら途端にしな~っとして海苔の良さなんかどこへやら。何のために入れるんだか。無駄よ無駄。」


 今度は具材合戦勃発!


 もう、やってられないわ。


「勝手に好きなの入れりゃ良いじゃない!」


 もう、知りません。



ラーメン屋での友との会話から。

中々に白熱した議論となりました。

他にもメンマは美味しいか否か、胡椒は必用か否かなどあったのですが、全部書いていたら終わらないので、ヒートアップした上位三位までを。味噌味は可愛いお姉さん店員のお薦めだったので。



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