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茶色い花の妖精さんの恋

「おはようございます。朝食の用意ができました。」


 メイド長がおはようの挨拶と食事の知らせに来てくれました。


「あれ、かわいい髪飾りだね。似合ってるよ。」


 旦那様がどこぞのナンパ男のようなセリフを言ってます。


 でも、本当に可愛いですわね。


「昨日、主人が買ってくれたんです。記念日だったもので。」


 昨日のお休みはデートだったんですね。

 いいですわねぇ。料理長もなかなかやるじゃないですか。


「何の記念日だったの?」


 メイド長が真っ赤になってモジモジしてますが。


「お恥ずかしながら......初キス記念日です。」


「......。」


 ......。


 そ、それは大事ですわよねぇ。 なんたって初ですものねぇ。 ええ、大事な記念日ですわ。


「そんなのいちいち覚えてんの?」


 旦那様は覚えてないんですね。 どうせ私じゃないんでしょうよね。 たくさんキスしすぎてわからなくなっちゃったんですね!

 私は旦那様が初めてだったのに~!


「ご、ごめん。そんなつもりじゃ。いや、だって、ほら、僕の方が年上なんだからさ。ね、ねぇ?」


 話をふられたメイド長はニッコリ微笑みつつスルスルと後ろに下がり、無言でするっと部屋を出ていきました。


「に、逃げた~!」


 ふん、旦那様の味方はおりませんわよ。


 気まずい空気のまま食堂へ行くと、お義父様がお義母様がの後ろで何やらごそごそとしています。


「何やってんのさ。」


「おお、母さんのネックレスが外れてな、留めてあげてるんだよ。」


 見るとホワイトゴールドのシンプルな鎖に小さな蝶がついています。


「あれ、初めて見るような。」


 ですね、私も見たことありませんわ。


「ふふふ、これはね昨日お父さんが買ってくれたのよ。」


「なんせ昨日は私たちの初デート記念日だからな。」


 初デート......初キス......皆さま記念日だらけですわね。


「僕たちの初デート記念日は百貨店に行った日だよね。」


 そうですわね。 それは覚えていたのですね。


「うっ、そ、そりゃあね。まだ数か月しかたってないし......。」


 旦那様が顔色を悪くしながらぶつぶつと言ってます。


「あらあらどうしたのぉ?喧嘩?」


「若いなぁ、ははは。」


 若けりゃ喧嘩するわけではないですけどね。


 いつまでも引っ張るのも嫌なので、朝ごはん食べましょ。


 その後一日仕事に集中し、夜部屋に戻るとチャチャさんが待っていました。


 チャチャさんと言うのは、《茶色い花の妖精さん》です。


 妖精さんは個別の名前がないのだそうです。

 生まれたとき周りに仲間もおらず、名前がないまま今まで過ごしてきたのだとか。


 特に困ることはなかったそうなんですが、私たちが呼ぶときは『妖精さん』だと他にもいそうですし、『茶色い花の妖精さん』だと長く言いにくくて困るので、三人で相談してチャチャさんになりました。


 そのチャチャさんが真面目な顔で言いました。


「皆さま、仲が良くお幸せそうで羨ましい。」


「今朝の僕たち見てもそれ言うの?」


「『喧嘩するほど仲が良い』とも言いますし。」


「えへ、そうかなぁ~。」


 旦那様、今朝のはちょっと違いますけどね。


 がっくりしている旦那様にチャチャさんが。


「実は私、好きな方ができました。」


 ふぁ~、恋ばな~!ひゅうひゅう!


「こら、アンジェリーク。冷やかさないの。」


 そう言ってる旦那様もニヤニヤしてますわよ。


「ん、ごほん。続けてもよろしいですか?」


 失礼しましたわ。

 それで、どちらの方ですの?


「先日、邸でお月見をしたときにいらっしゃった方です。」


 お月見しましたわね。 でも、内輪だけでしましたよね。


 はっ、メイド長!

 駄目ですわ!彼女は人妻ですわよ!


「違います。不倫などするつもりはありません。」


 他にとなると......あらまあ、そうでしたの。

 チャチャさん、男性がお好きな方でしたのね。

 でも、ハンゾーさんは女好きですわよ。 前途多難ですわね。


「......そちらの趣味はありません。」


 あらら、違う?


 でも、お月見の時にいたのは女性は皆人妻ばかりですわ。

 男性でもないとすると......ええ~!まさか団子に恋!


「何でそうなる!」


 ううっ、怒られてしまいましたわ。

 ではいったいどなたのことですの?


 真っ赤な顔をしてモジモジしながらチャチャさんが答えました。


「そ、その方は、《すすきの妖精》さんです。」


 すすき!確かに飾りましたわ、すすき!


 そうですわよね、すすきも植物ですわ。お花も咲きますわね、きっと。


「あのしっとりとした立ち姿。着物が大層お似合いでした。秋風にたなびくさらさらの髪に流し目が色っぽく。あれぞヤポナ美人と言うのですね。」


 ほうほう、着物を着ていたのですか。髪はさらさら、色っぽいと。


 私にはただのすすきでしたけど。


「普段は僕らには見えないからねぇ。そんなに色っぽい人だったんだぁ。」


 旦那様がちょっぴり残念そうですわ。


「私は鉢植えですので、あまり遠くまで行くことができません。でも、どうしてももう一度お会いして、気持ちだけでも伝えたいのです。」


 告白ですね!ドキドキしますわ。


「アンジェリークにじゃないからね。」


 わかってますわよ!

 でもドキドキしません?


「するねぇ。ドキドキ、ワクワク、にやにや?」


「......私、真剣に......。」


「わ、わかってるよ、やだなぁ。つまりもう一度すすきさんをうちに連れてきてって言うんでしょ。」


「はい。お手数をお掛けしますがよろしくお願いします。」


「任せといて!さっそく明日にでも探してきてあげるよ。」


「ありがとうございます!」



 翌日仕事が終わり、旦那様とすすきを探しに来ました。


 が、はて?


「どのすすきでもいいもんなのかね。違うの連れてっちゃったらどうしよう。」


 そうなんですよね。 私たちには区別がつかないのですが。


 どういう仕組みなのかしら、妖精さんたちって。


 二人で悩んでいるとき、腰の辺りから声がしました。


「すみません。もしかするとカキノウチ家の方ですか?」


 ふぉぉ!しゃべったぁ!すすきが!


 よくよく見ると、すすきの穂に綺麗な女性が腰かけています。

 もしかしてこの方が!


「あ~、もしかしてこの間うちに来てくれた人?」


「はい。お月見の日にカキノウチ家にバイトで行きました。」


「バイトだったの......。ま、まあ、いいや。ちょうど探してたんだよ。」


「私をですか?またお仕事ですか?」


「違うよ。うちに招待したいと思って。」


「まあ!嬉しいです。」


 おっ、これは好感触ですわね。


 旦那様も小さくガッツポーズしてます。


 次の日曜日に迎えに来る約束をして、チャチャんに報告を。


「やったぁ!ありがとうございます。」


 チャチャさん、うれしそう。


「まだまだ。日曜が本番だからね。頑張ろうね。」


 そう言いつつも、旦那様も余裕ですわ。


 《すすきの妖精》さんの喜びっぷりから察するに、両思いの可能性が高いですものね。


 いよいよ日曜日、朝食後、旦那様が《すすきの妖精》さんを迎えに行きました。


 チャチャさんはそわそわして落ち着かない様子です。

 何度も髪をとかし、服のシワを伸ばし、うろうろうろうろ。


 ちょっと鬱陶しいですが、仕方ありませんわね。


「ただいま~!いらっしゃったよ~!」


 旦那様が帰ってきました。


 チャチャさん、かちこちになって動きがぎくしゃくしてますが大丈夫かしら?


「い、いらっしゃいませ!」


「こんにちは。おじゃまいたします。」


 挨拶をして頭をあげた《すすきの妖精》さんは、切れ長の涼しい目にさらさらの黒髪、薄黄色の着物が白い肌をよりいっそうひきたててます。


 探しに行ったときも思いましたけど、本当に綺麗なお姉さんですわね。チャチャさん面食いですね。


 隣のミヨちゃん譲りの人形用のティーセットで、チャチャさんがお茶を入れると、目を丸くして驚いてます。


「まあ、私たちでも使えるカップを持ってらっしゃるなんて、素敵ですね。うふふ。」


 おお、好感度アップ!


 一口飲んでにこやかに。


「ほっとするわ。初めて飲みましたけど良いものですね。うふふ。」


 好感度、またアップ!!


 料理長が作ったクッキーの欠片をお皿にのせて出すと目を輝かせて。


「これがクッキーなのね。さくさく甘くて美味しいわ。うふふ。」


 好感度またまたアップ!!!


 ずっとニコニコいい感じですわよ。


 色々話を聞くと、すすきは野外で咲いているのが普通なので、人の生活とはあまり関わりがないのだそうです。


 お月見の時とか華道をしている家にはたまに出入りはしますが、華やかな花を咲かせるわけではないので、嫌われこそしないものの特に好まれることもあまりないとか。


「とんでもありません!小さな花は控えめで楚々として愛らしいです!」


 チャチャさん、メロメロです。


「うふふ、ありがとう。今日はとっても楽しいわ。また来てもいいかしら?」


「もちろんです!」


 次の約束もちゃっかりとして、チャチャさんはウキウキ。


 次からは迎えがなくても、今日で場所も覚えたし、《すすきの妖精》さんは一人で来れるようです。


 よかったですね、チャチャさん。


「嬉しいわ。これからもよろしくね、坊や。うふふ。」


 ......坊やって......この太っちょ、じゃなかった、ふっくらおじさんが坊やですか。


 そう言えば、《すすきの妖精》さんはおいくつなんでしょう。確かに落ち着いて見えますわね。


「ええ、私の方がずっと年上ですよ。私は孫もいますもの。うふふ。」


 孫~!まさかのお婆ちゃん!?


「ああ~、今流行りの美魔女?」


「流行りかどうか知りませんけど、若く見えるって言われます。うふふ。」


 チャチャさんをそっと見ると......固まってます。見事にカチーンっと。


 旦那様がつつくと、再起動して。


「あは、あは、あは。あ、愛があれば年の差なんて!ねっ?ねっ?ねっ?」


「そうだよ~。愛に年は関係ないよ!それに結婚したらすぐにお父さんとお爺ちゃんになれるんだよ!楽チンだね!」


 旦那様、論点ずれてます。


 でも、チャチャさんは少し動揺してるのか本気なのか。


「ですよね~。結婚したら妻と子と孫とできて一石三鳥ですよね!」


 二人して初デートで結婚とか、わけわかんないこと言ってますが、《すすきの妖精》さんは相変わらずにこにこ。


「うふふ、皆可愛いわねぇ。」


 お婆さん、余裕ですね。


 まあ、チャチャさんが幸せなら良いですわよね。



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