逃げ出す貯金箱
「若旦那様、回覧板です。」
ホウシ君がお隣さんから回ってきた回覧板を持ってきてくれました。
『小銭泥棒に注意!!あなたの貯金箱が狙われている!』
小銭泥棒ですか。 ずいぶん謙虚な泥棒さんですね。 どうせ盗むならドバッと盗めばよろしいのに。
「いやいや、実際ドバッと盗られたら困るんだけど。」
まあ確かに旦那様の言う通りですけど。 でも、普通は貯金箱ではなく金庫を狙いませんかね?
「十人十色だからね。泥棒も十色なんだよ。」
ほう、十色ですか。 例えば?
「貯金箱泥棒、金庫泥棒、火事場泥棒、香典泥棒、賽銭泥棒、スイカ泥棒、下着泥棒......あと何があるっけ?」
最初の貯金箱泥棒って今回限定な気もしますが。
それに、なぜにスイカだけなのでしょう? 畑泥棒では駄目なのかしら? 下着泥棒は......論外ですわ!
「若旦那様が子供のころ、育てていたスイカを盗まれたことがあったんですよ。多分そのトラウマかと。」
ホウシ君が説明してくれましたが、子どものものを取るなんて、ひどいですわね。
「すぐ捕まってスイカも戻って来たんですけどね。」
まあ、良かったですわね。 その犯人は牢屋行きですか?
「いえ、倉庫行きです。」
......倉庫?
ヤポナでは捕まえたら倉庫に入れるのですか?
「身内の反抗でしたから。当時、同居していた大奥様が蹴り入れたそうですよ。」
大奥様が蹴り入れた? 泥棒相手に凄いですわね。 で、その後その泥棒はどうなったんですか?
「反省文百枚と、その後のスイカの世話と、お小遣い抜きの刑だそうです。」
お小遣い抜きって......なんかいろいろおかしいんですけど。
身内の反抗とおっしゃいましたけど、因みにどういう関係の方が犯人だったのですか?
ホウシ君が明後日の方向に目を向けて。
「......旦那様です。」
つまり、息子のスイカを盗って食べようとしたわけですか!
何だか涙が出そうですわ。
お義父様は問題外として、泥棒は他人事ではありませんわ。 私たちも気を付けなくてはね。
「お任せください。」
ホウシ君が力強く返事しました。
「僕の小銭も取られないように気を付けといてね。」
「......はい。」
先日から旦那様は商店街で配られた、フワフワの毛のついた、かわいらしい丸形の貯金箱を使っているのですが、お釣りの一キンだけを入れるのでなかなかたまりません。
まだ、飴玉一個分ぐらいじゃないかしら。
確かに取られたら腹ただしいですけど、被害額としては......ねえ。
ホウシ君がすぐに返事できないのもわからなくはないですわ。
その夜私たちが寝ていると、何やら騒ぐ声が。
きゃあ、泥棒かしら!と思ったものの、騒ぎは外からのようです。 隣近所で大きな声が。
「曲者じゃ~!出合え、出合え!」
臭い者?出会う? そんな人あまり、出会いたくはないのですが。
「違う違う。曲者は泥棒とかの怪しい人のこと。出合えは出てこい、集まれってこと。」
ほうほう、なるほど。 つまり、泥棒さんを皆で追いかけているのですね。
「そうみたいなんだけど、何かあちこちから聞こえない?泥棒って何人もいるのかな?」
そう言われてみれば、『あっちにいるぞ!』『こっち行ったぞ!』と様々な方向から聞こえてきます。
そこへホウシ君がやって来て。
「若旦那様たちは大丈夫ですか?近所で何件も一斉に泥棒が出たようで。今のところ、カキノウチには被害はありませんが。」
気になって表に出てみると、皆が右往左往しています。
そんな中、ふわふわした毛玉が何個も飛んでるのですが、これはなんでしょう?
そこへ国立陰陽師委員会のイケメン、安倍様が現れました。
そして一言「喝っ!!」
するとふわふわ飛んでた毛玉がドサドサっと地面に落ち、トコトコと走り出しました。
......走り出しました......ええ~!
足出た!走った!あっ、転んだ!!
何ですかぁ、これ。周りの人も、キャアだのギャアだのウオ~だの大騒ぎです。
その騒ぎを他所に、安倍様を中心に兵士さんたちが黙々と走り回っている毛玉たちを捕まえ袋に放り込んでいきます。
あっという間に全て捕まえました。
さすがプロ!?
「皆さん、お静かに!」
安倍様が集まっている人たちに向かって話しだしました。
「これは、先日商店街で配られた貯金箱です。」
はぁ~?あの貯金箱?
「この子たちは《マルゲ》と言って、貯金箱のふりをして小銭を腹にため、たまったら逃げ出す泥棒種族なのです。」
そんな種族聞いたことありませんけど。ま、ヤポナですから仕方ありませんわね。
「アンジェリーク、なんかやけになってない?いくらヤポナでも何でもありなわけじゃないから。」
だって~。
「いや、僕も初めてだから。こんな物騒というか厄介な種族。」
あら、そうなんですか?
「普通なら貯まってからこっそり消えるのですが、私たちの調査の手がのびていることを知ったこやつらは、今夜一斉に逃亡しようとしたようです。」
それでこんな大騒ぎになっちゃったんですね。
「こちらで回収しますが、どれがどなたのものか区別をつけることは不可能ですので、一定額は政府が保証いたしますがそれ以上は申し訳ありませんが商店街に寄付ということになります。」
ブーブー文句をいう方や、少なかったから得になったと喜ぶ方まで色々ですが、とりあえずは一件落着ですわね。
真夜中ということもあり、皆さんそれぞれ家に戻っていきました。
私たちも家に帰り寝室に入ると。
「あれ?」
そこには旦那様のフワフワの貯金箱が。
「あれれ~?これももらったやつなのに何でまだいるの?」
旦那様がつつくとモゾモゾと動き大あくび。
「ふわ~あ~。」
え~と、これは仲間に乗り遅れたのでしょうかね。
「乗り遅れたというか、見捨てられたというか。」
《マルゲ》さんはキョロキョロ辺りを見回し、私たちをじっと見てはっとした顔をしたあと、泣きそうになりながら。
「寝過ごしたぁ!どうしよう!」
「知らないよ!」
仲間と会いたいというので、翌日旦那様が安倍様のところへ連れていきました。
帰ってきた旦那様はなぜか不機嫌です。
「あいつ、あんなにシュンってなってたのに、仲間にあったとたんに気が大きくなったのか、『大人のくせに三十キンしか貯まってないんだぜ!』って言いふらしてバカにしたんだよ!」
落ち着いて~。ま、まあ、事実ですからしかたありませんわ。次はいっぱい貯めましょうね。
「次は喋らない貯金箱にする!」
......宣言しなくても、それしかないと思いますわ。




