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招き猫メグミちゃん

「落ちてるな。」


「そうですねぇ。」


「何でだろうね。」


 お義父様と旦那様と番頭さんが、何やら難しい顔で話しあっています。


「少しだがな。」


「減少には変わりませんよ。」


「おかしいね。」


 どうやら売上のお話しのようです。


 どうしたんでしょう?

 不況でもないし、何か問題が起こったわけでもないし。


「何かモヤモヤするな。」


「何となく、運が向いてない感じですよね。」


「......。それかも!」


 それ?どれ?ん?


「もしかして、メグミちゃんが体調不良なんじゃないの?」


 メグミちゃんって、うちの猫ちゃんの事ですよね。

 何故か私を目の敵にしてくる、あの可愛いげのない、デブ猫ですわよね。


 何でメグミちゃんの調子が悪いと、商売もおかしくなるのですかね。


「メグミちゃんは〈招き猫様〉だよ。身体壊して商売繁盛ポーズができないとダメじゃん。」


 商売繁盛ポーズって......何?


 ただの猫ではないのですか。


 でもメグミちゃん、お昼寝したり、虫や草にじゃれたり、どこかお散歩に行ったり、普通に暮らしてますよね。


 ポーズッ!とかしてるの見たことありませんけど。


「毎日してるじゃないか。ほら、手を顔に沿って頭まで上げるの。」


 ......。


 それ、ただ顔を洗ってると言うか身繕いと言うか。


「いやいや、舐めた手で顔を撫でるんじゃなくて、顔の横で手を上げる仕種だよ。」


 ああ、おいでおいでってしてるみたいなあれですか。


 あれがポーズ?


 招き猫様は右手を上げると、金運を招くのですって。

 左手だと人を多く呼ぶのだとか。

 お芝居とかなさってる方はこちらかしら。


 両手だと「お手上げ~っ」てことで、あまり良くないらしい。


 こじつけに聞こえるのは私だけかな。


 ともあれ、メグミちゃんを確認してみようと、庭にまわると、縁側で気持ち良さそうにお昼寝しています。


「メグミちゃ~ん、ちょっと起きて。聞きたいことがあるんだけど。」


 旦那様が友達に言うかのように声をかけるとメグミちゃんがうっすら目を開け、旦那様にスリスリとよっていきます。


 メグミちゃん、旦那様大好きよねぇ。


 旦那様の膝の上に乗ったメグミちゃんに、


「ちょっとお聞きしますが、最近どっか痛いとか、しんどいとかない?」


「フシャー!」


 おおう、相変わらず私には攻撃的ですわね。


 妻の私への嫉妬か?


 でも、これじゃ良くわかりませんね。

 どうしましょう。


「ブニャ~!!!」


 旦那様がいきなりメグミちゃんの前足を持って、商売繁盛ポーズを。


 でも、泣きかたがすごくないですか?


「やっぱり......。足痛いんでしょ。」


 おお、旦那様わかるんですか。

 さすがですね。


 でも、どうしちゃったのかしら。

 怪我してるようには見えないのだけど。


「アンジェリーク、〈いろはかるた〉の読み札持ってきてくれるかな。」


 〈いろはかるた〉とは「いろは」四十七字に「京」の字を加え、これらを頭文字として、諺を書いた読み札四十八枚と、その頭文字と諺の絵を描いた取り札四十八枚、計九十六枚を1組にしたものです。


 私も嫁入り前のヤポナ語特訓で何度も使いましたわ。

 遊びながら字と諺を覚えられて一石二鳥ですのよ。


 でも、片方の組だけでどうするのかしら。


 読み札を縁側いっぱいに広げると、


「さあ、メグミちゃん、どうしたのか教えて。」


 すると、メグミちゃんが読み札を前足でトントントン。


「き」


「ん」


「に」


「く」


「つ」


「う」


 はい、筋肉痛?


 猫も筋肉痛になるもんなの?


 筋肉痛と言うからには筋肉が痛いんでしょ。


 メグミちゃんのは贅肉痛じゃないかしら。


「ブギャー!」トントントン!


「せ、い、に、く、ち、や、う、わ」


「こら、アンジェリーク、さすがに言い過ぎだよ。メグミちゃんも年頃の乙女なんだから。」


 年頃って......猫年齢ではもう結構な年......。


「フギャー!」トントントン!


「ま、た、わ、か、い!」


 乙女ってメス......。


「ウギャー!」トントントン!


「お、ん、な、し、や」


 おんなしや?同じや?女じゃ......ね。


 ふん、私の方が若いもん。


「筋肉痛で前足が上がらなくて、商売繁盛ポーズができなくなっちゃったんだね。困ったなぁ。」


 そもそも何で筋肉痛なんかになったのよ。


 トントントン......。


「ほ、つ、と、け」


 うう~、可愛くない~。


 私じゃ埒が明かないので、旦那様が聞いてみると、


「た、い、そ、う」


 体操?猫が?


「た、い、え、つ、と」


 ダイエット!


 自覚あったのか。


 うわ、さっきの贅肉発言、地雷だったのね。

 ちょっと悪かったかな。


 でも急にダイエットなんてどうしてかしら。


「み、よ、か、て、ふ、い、つ、た」


 ん?ミヨが蝶言った?

 えっと......ああ、ミヨちゃんがデブって言ったのね。

 子どもは正直、時に残酷ですからねぇ。


「なんてことするのぉ!そんなの気にしなくて良いんだよ。メグミちゃんはぷくぷくふわふわが可愛いんでしょうが! 痩せちゃ駄目駄目!」


 旦那様のふっくら大好き宣言で、メグミちゃんのダイエットは終了。


 でも、さすがにデブはどうなのよ。

 身体にも悪いと思うんですが。

 明日から油分少なめのご飯にした方がいいわね。


 せめて歩くときお腹が擦れないぐらいにはならなくちゃね。


「フシャー!!!」


 ふ、ふん、正妻の座は渡さないわよ!


 



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