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夏祭り~しゃあら舟と夜店~

 今日は町あげての夏祭り。


 み~んなお休みでお祭り騒ぎするのですって。

 もちろんカキノウチ家も家族、従業員、使用人総出で楽しみます。


 先日の百貨店で見た浴衣を着付けてもらいましたのよ。

 紺地に朝顔というお花の模様の渋可愛い浴衣。

 旦那様も浴衣で下駄という二本の木の板のヒールだけで歩くんですよ。

 面白い靴ですわ。


 浴衣がはだけないように帯を結ぶのですが、旦那様の帯の後ろにささっているのは、百貨店で買ったあの団扇。


「アンジェリーク、暑くなったら言ってね。僕の団扇が火を噴くぜ!」


 旦那様のヤポナ語は、ときどき難解で用例集には載ってないものが多くて大変ですわ。


「あおぐ」=「火を噴く」ですのね。


 一つ覚えましたわ。ふぅ。


 暗くなる前に浜辺に行き、「しゃあら舟」という色紙で飾られた小さな舟で、ご先祖様を送る行事があります。

 お供えものを入れて沖に送るのだとか。

 ま、翌朝には近くの浜辺に戻ってきてることがほとんどだそうですが。


 ヤポナではご先祖様が夏休みに里帰りしてたという設定なのね。


「どうせカキノウチのご先祖様たちは遊びに行ってて、今年も帰ってきてなかったのにね。いない人たちを送るなんて、伝統行事とはいえ、なんか無駄だよね。」


 旦那様が、ちょっと膨れておっしゃるのですが、なんですか、その勝手な設定は。


「だって、一人もいなかったじゃない。」


 はい?いるかいないかなんて、わかりませんよね?


「家族なら見えるじゃない。アンジェリークだって家族になったんだから見えるけど、一人も会わなかったでしょ。」


 見える.......ご先祖様が......。


 そ、それって、もしかして......ギャア~!!!


 駄目!駄目!駄目!


 私、そういうの一切無理!


 こ、これはあれよね。旦那様の冗談ですわよね。


 そうよ、きっとそうよ。



 気をとりなおして、夕方からは広場に行きます。


 そこには櫓というものが建てられており、その上で太鼓や笛を演奏し、それに合わせて踊るんだそうです。

 皆一緒に同じ振り付けで踊るのだとか。


 舞踏会でのダンス経験はありますが、それとは勝手が違うようでちょっと不安。

 しかも男の方のエスコート無しで一人で踊るなんて考えられないわ。

 でも子どもから大人まで皆一人で輪になって踊るということなので、私も頑張りますわ。


 櫓のまわりには夜店が並び、ヨーヨー釣り、金魚すくい、輪投げ、射的などの遊ぶものもあれば、焼きそば、リンゴ飴、チョコばなな、綿菓子などの食べ物屋さんもたくさん。


 オランシアでは見たことないものが多くてとっても楽しみ!


 端から全部回りたいけど、「一晩じゃ無理でしょ。」と言うので、厳選しなくちゃ。


 さぁ、では踊りの前にまずは夜店に突撃~!


 まずは射的から。


 貧乏とはいえ一応貴族でしたからね、猟はたしなみですわ。任せて!


 構え~撃て~!


 ポスッ。


 しょぼ!


 って言うか、当たりましたわよね!

 何で倒れないのよ!

 真ん中に命中しましたわよね!

 なんでぇ~。


「大人の事情。」


 旦那様、身も蓋もない......。


 旦那様が挑戦。


 リーチをいかして前のめりで撃つ......出、出すぎじゃないの?


 ほとんど筒先が当たりそうですが。それありなの?


 あ、ありなの、そうですか。


 なんかずるい。


 小さな熊のぬいぐるみゲット!


 次は金魚すくいです。


 赤、オレンジ、黒とヒラヒラ可愛い。

 目が出てるのもいますね、初めて見ましたわ。


「小だけど、そこで良いの?」


 はい?


 小って何が?


 よく見ると、中金魚すくい、大金魚すくいとコーナーがあります。


 掬う槽の広さかしら?


 掬う紙の網の大きさかしら?


 せっかくだから大をしてみようと移動すると......。


 でかい......確かにでかいわ、金魚が......。


 鯉かい!


 オランシアにこんなのいたっけ?


 尾びれヒラヒラしてるけど、綺麗だけど、可愛くなくなっちゃったわよ!


 これ、私に掬えるの?


 両手ならできるのか。


 でも、これ抱えて夜店回ったり踊ったりするのは無理じゃないかしら?


 これは私には荷が重い(そのままの意味でも)ので、小金魚すくいのコーナーに逆戻り。


 旦那様は「池のお友達増やしてあげたかったなぁ。」と残念がってますが、池にいるのは鯉でしょ?


 縄張り争いとかしないかしらね。


 金魚すくいは小さくても難しく、三回挑戦してようやく一匹掬えました。


「次は僕~。」


「ぼ、坊っちゃんはやめてくれ~、頼む。」


 おじさん、営業拒否。


 なんでも金魚すくい荒らしだったそうで。意味がよくわからないながらも、お店のおじさんが困っていたので、旦那様の手を引いて次の店へ。


 綿菓子屋さんに来ましたわ。


 このお菓子はオランシアにはないのよね。


 フワフワ出てくるのを、くるくると器用に棒に巻き付けていくおじさん、さすがプロ。


 受けとると、「逃げられないうちに早くお食べよ。」


 は?


 逃げる?


 誰が何処に?


 訳がわからないながらも、旦那様と分けあって食べてたら、フワフワと......綿菓子が......棒から離れてお空へ飛んでいく~!


 ちょ、ちょっと待て!


 買った私には食べる権利が。


 買われた貴方には食べられる義務が。


 いや、いや、そうじゃない。


 何で勝手に浮いてんの?


 何でお菓子が動いてんの?


「だって元は雲だもの。本能なんじゃない?」


 えっ、綿菓子って雲なの?


 砂糖から作られるんじゃないの?


 隣のミゲルナ国のフワフワ菓子と同じものだと思ってたけど違うのかしら?


 ってか、雲って食べれるのぉ??


「綿菓子じゃお腹ふくれないね。夕食の代わりに何か食べよう。」


 お腹のすいた旦那様と、焼きそばとお好み焼きを買いました。


 どちらもオランシアにはない食べ物ですが、ヤポナに来て好物になった食べ物です。


 焼きそばに豚肉が入っているので、お好み焼きはイカ玉にしましょう。


 美味しい。


 普通に美味しい。


 飛ばない......動かない......。


 当たり前なのに物足りないのは何故かしら?





《しゃあら舟》は先祖を送るお盆の行事の一つです。今では、やってるところは少ないみたいですが。

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