土用の丑の日とイシダサンヤク
今日は隣町に住む、旦那様の従兄弟のヒジカタ家のトシゾーさんが、「イシダサンヤク」という薬を届けてくださいました。
でも、ヒジカタ家の薬なのに何故イシダサンなのかしらね。
先日、薬作りを手伝ったお礼にお裾分けくださったのですよ。
トシゾーさんと言えば、旦那様が子どもの頃、針千本鶴を突撃させた方で。
「いや~、あれはまいったぜ。さすがに多勢に無勢でよ。五羽ほど口内侵入許しちまったぜ。数日、口内炎で大変だったぜ。ははは。」
笑い事ではないでしょうに。
九百九十五羽は撃退したのですね。
それって、すごくない?
恐るべし、トシゾー。
この薬はと言えば。
「明日は土用の丑の日だから、夕御飯は鰻だよ。」
えっ、明日は土曜ではありませんよ。
それに、牛の日なのに鰻を食べるのですか?
「字が違うよ。」
ほぉほぉ、「土用の丑の日」ですか。
ヤポナ語は相変わらず複雑ですわね。
どちらにせよ、なぜ魚なのかしらね。
「暑い季節をのりきるために栄養価の高いものを食べましょうってことなのよ。鰻じゃなくてもいいんだけど、ヒラガさん家のゲンナイお爺さんのキャンペーンに皆がのせられたのよね。」
お爺さん、やるわね。
ちなみに、ヒラガさん家は鮮魚店ですからぼろ儲けですわね。
「ヒジカタ家では、土用の丑の日は草刈りの日でもあるのよ。」
隣町のヒジカタ家という薬問屋に、お義父様のお姉様が嫁がれたのですが、その結婚を機に薬以外の品も扱うようになって、今ではカキノウチ家の支店も兼ねているのです。
なんでも、ヒジカタ家に代々伝わる、打ち身や捻挫に大変よく効く秘伝の飲み薬があるのだとか。
「ヒジカタ家所有の川沿いの土地にだけ生える薬草を土用の丑の日に刈り取ったもので、秘中の製法で作られた丸薬だけが効果があるのよ。」
なんですか、それ。
とことん......限定商品ですわね。
すごい効き目なので産業スパイも多く、他人は入れず家の人たちだけで作るのだとか。
さすがに薬草刈りは大変なので、親族で一番近くに住むカキノウチ家が、毎年お手伝いをして、その代わりに鰻を用意してもらうのが恒例になっているのですって。
そこで翌日、商会は番頭さんたちに任せて、家族四人でヒジカタ家へ。
「トシゾー来てやったぞ~。」
「おう、毎年すまねえな。ありがとよ。」
着いて一休みしたら、ヒジカタ家とカキノウチ家揃って川沿いの薬草園へ。
一面、草。
ただのどこにでもありそうな草。
「ああ~、耳栓忘れたぁ。」
耳栓?
この辺結構静かですが?
「草たち、うるさいんだよ。結構くるんだよね。」
何がくるのかしら。
草がうるさいって、刈るときの音のことかしら。
「よ~し、ここからあそこまでカキノウチ家でよろしくな。」
「おう。」
「はい。」
草刈りなんて初めてです。
では、いざっ。
ザクッ!
「ギャア~!」
へっ?
今誰か叫んだ?
怪我でもしたの?
虫が出たとか?
「あれ、意外と大丈夫じやねぇか。やるな、アンジェちゃんよ。」
えっ、何が?
刈り方が良かったのかしら?
よくわからないながらも、次の束をザクッ!
「ギャア~!」
......ちょっと待てぃ!
叫んでんの、草?
刈られたら「ギャア~!」って......私も「ギャア~!」ですわ!
ええ~、植物じゃないの?これ。
真っ青になって固まっていると、
「アンジェリーク、反応遅っ!」
旦那様、ひどい。
「あ~、この草の特徴なんだわ。他の日なら叫ばないんだけどよ。土用の丑の日だけなんでか騒ぐんだよな。でもこの日の刈り取り分じゃなきゃ効き目が出なくてよ。すまねぇな。ま、気にせずサクッと殺ってくれや。」
何か、字が違う気がしたのは気のせいでしょうか。
でも、これ、気にするわ~。
刃が当たるたび悲痛な声が。
きっついわ~。
腰より心臓が痛いわ。
ヤポナ、摩訶不思議すぎでしょうが。
心をバキバキ折られながらも何とかノルマを果たし、おば様手作りのケーキを頂いて休憩したあと、カキノウチ家へ帰ってきました。
もう、ぐったり。
「頑張れ、アンジェリーク。もうすぐ鰻だぞ~。」
そんなもん、とか思っていましたが。
鰻すごい。
ゲンナイお爺さん、偉い。
鰻食べたら、元気が出てきましたわ。
私も乗せられやすいのかしら?
新撰組副長の《土方歳三》さんの実家が作っている《石田散薬》は土方家のすぐ近くの川に生えている草から作られていて、刈り取り時期は本当に「土用の丑の日限定」だそうです。
その時期には「石田散薬を作ろう」的なイベントもあるんだとか。
興味のある方は調べてみてください。




