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ⅡLive ≪セカンドライブ≫  作者: 工藤 遊河
一章 異世界
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黒の騎士、黒の剣

礼拝堂の中は損傷なしとは言えなかった。

青いステンドグラスが天井に装飾しているため部屋自体は青く、薄暗い。しかしステンドグラスの下方、中央の壇上と思われる真上のところに直径二メートルほどの大穴が開いている。下には石像と思しき物の足が立っているが足首から上が壇上の瓦礫の山に混じってしまっている。

外の光が穴から差し込み、円となっているところまで二人は歩んだ。

優奈が大穴を見上げる。


「外からじゃ分からなかったわね、これは……。埃が玉になってるし、吹き飛んでるところもあるから最近できたって感じね。それにしても変な盛り方ね、この瓦礫」


瓦礫にも目を向ける。


「何が変なんだ?」

「山が大きすぎるのよ、あの穴からできた瓦礫と石像のを合わせてもここまで大きくならないわ」

「へぇ……」


と言って晄が瓦礫に向かっていく。


「ちょっと……」


優奈としてはあまり勝手に動いてもらいたくはない。正直、外に置いてくるべきだった。

晄が瓦礫の山の前に立つ。

よく見ると瓦礫の隙間に黒い金属が見え隠れしている。


(何か埋まってるんだ、だから妙に山が高いんだ)


物体は直径一メートルほどの歪な物だった。

ここに落ちてきたときは天井の穴もさほど大きくなかったが、建物自体の老朽化が進んでいたため、穴がさらに広がりその瓦礫が上に盛られたように感じる。

それを取り出すために瓦礫を除けようと晄が手を伸ばす。

すると黒物からモーター音が鳴り響く。


「何したのよ!?」


優奈の怒号が飛ぶ。


「いや、何にも……」


モーター音が徐々に高くなっていき、物体に緑色の輪が描かれた。

そしてモーター音が途切れたかと思うと腕らしきものを支えに立ちあがった。

片膝立ちをしていたようで、コンパクトに見えたが、立ち上がると二メートルほどもある騎士のような姿をした機械だった。

全身はガンメタブラック、頭部に緑色のツインアイと二本のブレードアンテナらしきもの。

右腕には手はなく、約七十センチの剣。左手には五本指のマニピュレーター。

脚は細いが脹脛部分に推進機のようなダクトが付いていた。

瓦礫の隙間から見えていたのは背中の部分のようだ。

黒騎士は晄と優奈を敵対象と見なし、目の前にいる晄にターゲットした。

この機械のアルゴリズムは簡単なもので、自機から一番近い対象をロックオンするようにできている。

対象が複数いる場合は各自の攻撃の頻度を計測して、頻度が高い者から排除していく。

たった二人でもである。

優奈は殺気を感じ取って、晄に付きつけていた無骨だが近未来なデザインをした拳銃を取り出し、即座に二発。

晄の右の頬を二つの雷光が掠める。頬に静電気のような痛みがくる。

黒騎士に着弾し、動きを鈍らせた。


「早く離れてっ」

「あ、ああ……」


晄は動きの鈍くなった黒騎士を眺めながら走って、優奈の後ろまで下がった。

どうやらあの拳銃は弾丸による攻撃ではなく電流による攻撃のようで、相手の動きを束縛することができるようだ。


(耐電はしてあるみたいね、これでターゲットは私になるはず)


優奈は機械のアルゴリズムを知っているわけではない。

だがこの攻撃は、黒騎士のターゲットを優奈に切り替えさせた。

耐電の施しもあり、ほんの五秒ほどで束縛が解けた黒騎士は剣を左に、水平に構えて優奈に疾駆する。

一蹴りで間合いを詰め、黒騎士は剣を薙ぐ。

剣は優奈に吸い込まれていくが、優奈の左手の甲が青白い光を纏わせて防ぐ。

光の正体は魔法である。

光は剣をジャストガードしたかと思われたが、しかし、


(うっ……、重たいっ。あっ……)


予想を上回る重撃に耐えきれず、足が浮く。浮いた途端に魔法による防御壁がガラスの割れる音を出して消え去る。そして衝撃を吸収しなかったがために跳ね飛ばされる。

思い切り石壁にぶつけられる。ぶつかる瞬間にも先ほどと同じように防御壁を練ったが間に合わなかった。


「優奈っ」


先ほど自分の横を恐るべき速さで飛ばされていった優奈に叫ぶ。

だが彼女は壁にぶつけられた衝撃で意識が飛んでいた。

急いで彼女のもとに向かおうとするが、そう簡単には許してくれない物があった。

一閃で一人を払った黒騎士はその一人を排除完了とし、第二のターゲットをロックオンした。

先ほどと同じように横薙ぎの構えをして、背を向けて、排除した対象に向かっていく対象を追撃する。

だが晄も忘れてはいなかった。

背後からの地蹴る音を聴き入れ、左に大きく跳ねた。

自分が剣の間合いの外まで跳躍を行えたことも気づかず、黒騎士を眼で捉える。

黒騎士は剣を振り切った状態のまま此方を注視していた。


(どう……する?まさかコイツと闘えっていうのか?)


コイツが何の変哲もないロボットならば逃げ切れる。

だがこの黒騎士は人外の力を持っていながら人さながらのことやってのけた。

現に優奈があの様だ。

晄は剣は持っていても剣術なんて知らない。剣道をやっていたわけでもない。

刃物など、包丁が精々だった。

しかし、思い出してみれば先の雑木林での事だ。

あの時、自分は優奈が恐ろしく変貌していたことに驚いたはずだ。

彼女自身が、ああなりたかったわけではないはず。この世界がああさせたのだ。

もしや今、目の前で繰り広げられているものが、自分を変貌させる事象なのか?


(変われっていうことか……。でも……、いや)


自分を変化させるのが怖いとは……言えない。ここに来たから、転生したから、剣を持っているからには、抜かなくてはいけないということだろう。背中にいつまでも差している鉄ヘラではない。


(ここで取らなきゃ……、ここでは生きていけない。そうなんだろ?)


天の青年への問いかけか、この世にか。

晄は長い剣の柄に手をかけ、ゆっくりと抜き出す。

自分の目の前、胴の真ん中で両手で構える。

黒い剣は宙に舞っている埃を纏わせ、キラキラ輝く。

漆黒の剣は光を吸収しているのか如く漆黒。

改めてこの剣は綺麗だと晄は思った。

脈が速くなり、全身から汗が滲み出る。

今までにないほどに、黒騎士を睨みつける。

それに応えるようにツインアイが点滅する。

黒騎士は対象への警戒を強めた。


☆☆☆


黒騎士はまたも剣を左に寄せた。

そのとき、もしやと晄は思った。


(また横薙ぎか、今はなんとも言えない。けど、もしそうなら対処くらいはできるだッ!?)


晄に考えさせる時間を与えない、黒騎士の鋭い疾走が放たれた。

やはりその次の動作として横に剣が払われる。

しかし、正面に構えていた晄の剣が止めた。

剣から伝わる衝撃は凄まじいもので、晄に今までにないほどの緊張感と焦りが襲う。


(チィッ)


舌打ちをする。

この機械を改めて見ると、二メートルは大きなもので、華奢な腕のどこから理不尽な力が出ているのかと思うほどだった。

黒騎士の剣は晄の剣に止められていても押し払おうとしていた。

剣を引いて二撃目ということをせず、頑なに弾き飛ばそうとしてくる。

晄は苦虫を噛み潰した顔で確信した。

コイツの攻撃はワンアクションで設定されており、派生がないことを。

現、三回攻撃を繰り出しているというのに横薙ぎしかしてこなかったこと。

外れても追撃はしてこない、防がれても手を変えず押し切ろうとする。

全ては、構えてから振り切った時の設定座標が、剣先が通過するまでアクションを終了させることができないために次にアクションに移れないからだ。といっても派生のアクションが設定されていないのでこうやって鍔迫り合いになっているのであるが……。


(唯一の弱点か……。これをベースにして進めていくしかないなっ)


たった数秒の鍔迫り合いだというのに晄には限界が来ていた。

みるみる体が仰け反って押し倒されようとしている。

黒騎士の剣は火花を散らしながら漆黒の剣の刃を渡ってる。

運が良ければこのまま黒騎士の剣が渡り終え、晄に当たることなく振り切るだろう。

だが晄は先に刃を渡らせて、いち早くこの迫り合いを終わらせる。

そして間髪いれず、剣を振り切って隙だらけの黒騎士の左脇腹に両手で握りしめた剣を叩き込んだ。

黒騎士はバランスを崩す。装甲板に掠り傷を付けただけの反撃でも崩せた。

しかし、黒騎士は右脚をブレーキにして踏みとどまったが、晄の反撃はこれだけではなかった。

晄は鬼気迫る顔で黒騎士の左脚の膝関節を、反撃の衝撃で痺れさせた腕を振るって見事に食いこませた。

黒騎士は左脚から崩れおち、自分の左腕を枕にするように倒れた。

脅威の瞬発力と勘は人間本来の持つものか、それとも与えられたものか。

脚を狙ったのは良かった。

機械の人型というものは不便なもので五体のいずれかを失うと立つことができなくなる。

この世界のテクノロジーはロボットを人の姿勢で動かすことができるほどではあるが、脚が損傷したロボットを動かせるほどの技術はなかったようだ。

左膝関節がやられている黒騎士は立つことはできないどころか、上体をまともに動かすこともできなかった。それでも晄はまだ、折れた左脚を剣で叩き続けていた。満足したかと思うと、今度は黒騎士の上体を剣で突き下ろす。何度も何度も突き刺したが、それを見兼ねた者がいた。


「もういいのよ、アンタが倒したのよ」


そういって晄の右肩を掴んだのは気絶から覚めた優奈だった。

晄はハッとして振り返った。優奈が苦しそうな顔をして此方を見つめてた。















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