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ⅡLive ≪セカンドライブ≫  作者: 工藤 遊河
一章 異世界
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毎日へ…

あの戦闘の後、優奈は「もういいのよ、アンタが倒したのよ」とだけ言って、残骸になった黒騎士を調べた。

晄は変な緊張に包まれていた。黒騎士を破壊することができたからだろうか。

言葉で表すことの難しい、今まで味わったことのないものだった。

優奈が調べている最中は礼拝堂の中の柱に体を預けて、黙り込んでいた。

調べ終わったのか、次に例の腕時計を操作して誰かに連絡を取っていた。あれは通信器にもなるらしい。

そして優奈が口を開いた。


「もうすぐしたら、これを回収しに来てもらうから速いとこ、ここを……晄?」


柱に体を預けて宙を見つめている晄に不安を感じた。無理もないだろうと思った。

敵はどうあれ、初戦で勝ったのだ。あの妙な脱力感は優奈にもあった。

あの時はそこら辺をうろついていた狼を、この世界での優奈の保護者ともいえる人物に教えてもらった剣術で首を飛ばした。

だが晄は剣術すら知らない、何も知らない状態であれを退けたのだから、さらに強い脱力があるのだろう。

このままでは埒が明かないので、晄の手を引っ張って外まで連れて行こうとした。

彼の手を触れたのは久しぶりだった。なんの変哲もない手の暖かさが懐かしかった。

ここに来てからというもの、この手の温もりは味わったことがなかった。

ずっと触れていたい衝動に駆られたが、そうしているわけにもいかず、晄を教会の外まで引っ張っていき、手を離した。


「これであとは依頼主に報告して終わりっと……」


この先のことを独り言のようにして、晄に伝えたつもりだった。

晄は俯いたまま言った。


「あれで良かったんだよな」

「本当なら損傷を少なめにして、回収するんだけどそこまで今のアンタには求めてなかったし……。もっといえば晄が仕留められるとも思ってなかったんだけどね」


これは本当のことだった。気がついたときに晄が黒騎士を叩き回っていたのには驚いた。

飛ばされて、気を失っていた間、如何にして倒したのか知りたいところだ。だが、依頼主に渡す報告書を書く際に状況を記入せねばならんので、どのみち知ることになるのだが……。


☆☆☆


連絡しておいた回収班はギルド御用達の団体である。その活動は様々で、情報収集・提供から事の事後処理などを行っている。

その回収班にあのロボットを回収させ、そのままロボットを調査してもらうことにしている。

一通り終わった後、彼らは此方の身元だけ聞いて、さっさと帰ってしまった。

不満があるわけではない、これが普通だった。

今、優奈たちは帰路についていた。晄を見つけた場所をさらに下って、優奈が暮らしている街へ戻った。

日は暮れていて、優奈と同じ依頼屋や行商のキャラバンが街を出入りしている。

ハンブルとは比べ物にならない規模を持つ(東西南北二キロほど)このデュッセという街はギルドとレギオン両方の拠点として栄えていた。

ギルドは基本的に本部などというものを持たないが、レギオンには役所というものがある。役所といっても本部ではなく支部になる。(本部は北の都市部にある)

その支部がこのデュッセにある上に、雑貨屋、鍛冶屋などの店が一通りあるためにギルドの連中もここを一時拠点とすることが多い。

この街は東西南北に伸びる十字のメインストリートを中心に店が並んでいるため、大通りを歩くだけで一通り物が揃ってしまう。

優奈は晄を連れて、十字路の中央の噴水を東に曲がった。途中、晩御飯の弁当を二つ買って自宅に着いた。

しかし、自宅というには余りにも大きかった。

百坪はある土地に、三階建てのテナント物件のような建物だった。


(借家……だよな。まさかこれ一つがっていうんじゃないだろうな……)


少し戻りつつあった晄の脱力感に重ねるように脱力感が襲う。

そんな事を知らずに、優奈は正面の、田の形をした窓がある両開きのドアを開錠した。

施錠ができる時点で……。


「まぁ、入りなさいよ。部屋はいくらでも余ってるから好きなところを使いなさい」


どうやら部屋を貸してくれるそうだ。だがしかし晄はこのテナント物件をどうやって手に入れたのかが気にならざるを得なかった。

いくらなんでも、これだけの家?が低価格で手に入るものではないだろう。

きっと、今は優奈が大家なのだろうと思った。

中に入ると、いきなり磨りガラスの衝立があった。それを迂回すると、衝立の向こうには人工の黒革張りのソファがガラステーブルを挟んで二脚置いてあった。

そして奥には場違いと思われる受付のカウンターがあり、レジスターもあれば、無数のカギもあった。

上記の物がなければ、東京などに見られる個人事務所の体をしていた。

晄の疑問に答えるように優奈が言った。


「元々は宿屋だったみたいだけど、管理人が居なくなって、ほったらかし状態のところを紹介してもらったの。一階は依頼の受付兼事務所みたいなものだから……。部屋が腐るほど余ってるから後で好きなとこ選びなさい」


優奈はコートを部屋の隅にあるハンガーに掛けて、カウンターの横から奥に入って行った。

事務所には晄一人ポツンと立っている。


「……座るか」


立っているのも何なので、剣をソファに寝かせるようにして座る。

太腿の上に剣の黒い柄がある。

先ほどの戦闘を思い出す。あれを倒すことはできたが危なっかしいことこの上なかっただろう。

せっかく転生させてもらった新しい命を早速投げるところだったのだから。

自分の命を守るためには、ここではコイツを上手く使わないとならないのだろうか。

ともかく、何をするにしても世界を知らなければできることが見つからないのだった。


「丁度いい時間だし、これでも食べましょ」


優奈が2つの弁当を引っ提げて奥から出てきた。

弁当をテーブルに置くと晄の向かい側に腰を掛けた。

晄はコートを剣の上に捨てて、プラスチックの弁当箱を取った。

プラスチックはここでもご活躍のようだ。

弁当はコンビニなどで売っているものと外側は変わりがなかったが異様に軽かった。本来ならば米飯の分だけ重みがある筈なのだが、それらしい重みではなかった。

蓋を開けてみると不思議なものだった。


(なんじゃこれ……。パンって……)


晄は呆気に取られた。

なんと、米の代わりに、小学校の給食で出てくるようなパンが寝ていたのだ。

おかずもパンに合わせたもののようなのか、レタスにソーセージ、ゆで卵、カップになっているスープその他得体のしれないものがいくつかある。

それをなんの戸惑いもなく口に放り込む優奈がいた。


「なによ……」

「……いや」


パンを齧る、至って普通だった。その他も口に入れてみるが、向こうの世界で見れたものはすべて向こうと同じ味がした。問題は緑色をした根菜だった。小カブに近い形だが色がダメだった。


(大丈夫なんだろうな、えぇ?)


親指と人差し指で摘まんで、前歯で齧る。

風味は大根、というよりそのものだった。


(なんだよ、大根じゃないか)


心の中で安堵して口の中に頬張る。

これで食が口に合うとわかった。

ただし、これは言語が日本語に変換されるなどというものではなく、自然に味覚が機能しているということ。

優奈が思い出したように言った。


「あ、そうそう、今からでいいなら聞くけどあの黒騎士についてアンタがやったことを話してもらえないかしら」

「え、あぁ」


断る理由はない。今でもしっかりと覚えている。

だから頷いて、あの一戦のことを晄は喋った。


☆☆☆


「よくできたわね……、ここにきて数時間しかたってないっていうのに」


優奈が、とある紙に晄の話した戦闘の一部始終を書き連ねていた。

やはり、驚愕に値することだった。あっちの世界では、昔よく遊んだ、バトミントンのラケットしか振ったことがないような彼が、剣を振って、あれを倒したこと。

優奈が亡くなった後に剣道でも習ったのかといえば答えはノーだ。

危機感の薄い日本人ならば、そもそもが剣を抜いて戦うまで思考が回らないだろう。

あの時点で逃げ回るか、体を二つに裂かれて命を散らすだけだ。


「予め聞いてたしな、アレから……。ここはそういうところなんだって」


晄が言うアレとはパンクファッションで天使と言った青年である。

優奈もアレに関しては見当がついていた。


「だからってできるもんじゃないわよ、普通」


優奈は頬杖をついて不貞腐れた。

彼は顔色を変えずに言い放った。自分でも変だとか違和感を感じてはいないようだった。


「それで、気が付いたら刺しまわってたわけなんだけどな」


晄は、その件に関しては自分が自分ではないという、いい加減なこととは思ってはいない。

ハッキリと自分が狂ったようなことをしていると自覚していた。

優奈に触れてもらってから、やっと自分の異変を終息できたのだ。


「鬼気迫ったら人間何するか分からないからね。一応、ここじゃ剣や銃を持つのも当たり前だからしっかりと使える術とそれを扱う器がいるのよね……。よしっ」


優奈は何かを思いついたようにまた言うのだった。


「私もアンタを無一文で放り出すことはしないし、出来ないから。それにこのまま穀潰しにして置いとくつもりもないから」


出来ないというのは法律や世間体がどうこうではなく、そこまで冷酷ではないということ。

晄はこの言葉から嫌な予感がしていた。


「まさかとは思うけど、働けとか……?」

「そうよ、私が毎朝、剣の術を教えて、簡単な依頼をこなしてもらう。そうでもしないと生きられないわよ、ここは」

「いや、でもそこらへんは我流で……」

「却下、どうしてもっていうんならあの森の中を一晩、一人で籠って無事に帰ってきなさい」

(げぇ……)


我儘を許すつもりはないらしい。

晄はよく覚えていないがこの街を出たところの森、協会からの帰路になっていたところには少なからず原生生物がいて、帰宅道中に数回ほど襲われたのである。

優奈がいたからどうにかなっていたが、晄一人では今頃、原生生物の巣穴の中だっただろう。

結局、優奈の提案を不服ながらも受け入れてしまった晄だった。

夕御飯を食べ終わった後、部屋を適当に選んで、風呂を借りてベッドで寝た。

使われていない複数ある部屋のうちの一つだったが、埃を気にすることもなく、一分もせずに熟睡してしまった。

明日からは、みっちりとしごかれるのだろうか。











もうすこし心情や動作の様子を…と思うこの頃です。

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