~始まりは突然に~
ヴィスコンティナ王国に仕え、王室図書館を任せられているアルテミア公爵家のリエル・アルテミア。ある日突然起きた出来事から記憶や感情さえも失ってしまう。愉快で心強い仲間達と繰り広げるファンタジー作品。
風とそれに乗って運ばれてくる庭に咲く薔薇の香りが寝室に入ってくる。夢を見ていた意識を現実世界へと誘う柔らかく優しい香り。また無色の日々が始まると思うと憂鬱な気分でしかない。そんな夢と現実世界の狭間を彷徨っている中、ドアをノックする音が鳴る。
ーーーコンコンーーー
「失礼します。」
執事の爺やが目覚めの紅茶を持って起こしにきた。
「坊ちゃん。お目覚めのお時間ですよ。好物のダージリンをお持ちしました。お淹れいたしますね。」
「んっ、んー。うん。ありがとう。いい香りだね。」
眠い目をこすりながらやっとのおもいで体を起こす。爺やが淹れてくれる紅茶は誰が淹れるより美味しい。窓から入る薔薇の香りと爺やが淹れてくれるダージリンの香りが混じり眠気がゆっくりと覚めていく。
そこへ
---バンッーーー
勢いよくドアが開け放たれる。そこには馴染みの顔である双子姉妹2人が立っていた。
「リエル!!いつまで寝てるの?早く起きなよ!」
とこの威勢のいい彼女は”バニ・ニコエリス”。ニコエリス家の令嬢で、ニコリス姉妹の姉にあたる。明るくまじめだが、たまに天然な所がある。
「お姉ちゃん、人のこと言えないよねぇ。私が起こしてるし。」
と冷静な口調で話す彼女は”ウブ・ニコエリス”。同じくニコエリス家の令嬢で、バニの妹である。姉に負けないくらい明るくまじめだが、正義感も強く、怒らせたらマジに怖い。
「申し訳ございません。昨夜も遅くにお眠りになられましたので。」
「また庭にいたの?思い出せないものはしょうがなくない?」
「うんうん。ゆっくり思い出していけばいいよ!」
"ゆっくり" ゆっくりしてたら戻るのだろうか。この空いた穴は。
俺には3ヶ月分の記憶がない。爺やの話では3ヶ月前、俺は屋敷の庭園で読書をしていたらしい。その時突然薔薇の蔦が伸びてきて俺の体に巻きついたらしい。そして黒色の薔薇の花が咲き誇り、同時に俺の意識を無くし3ヶ月眠り続けていたとの事。
「あの時はびっくりしたよねぇ。爺やさんから使いを貰って駆けつけたらぐるぐる巻きなんだもん。」
「ぐるぐる巻きは言い過ぎ。でも、あんなのは初めて見た。蔦もすぐ剥せたからいいけど。」
「うん。」
窓から空を見上げながらそう返事をした。
俺が昏睡状態に陥った後、あらゆる手立てを尽くしたが効かずお手上げ状態が続いたのだとか。だが3ヶ月が経とうとしたある日突然目を覚ましたという。しかし当時のことなど覚えておらず、更には感情さえもないといった状態だったらしい。あれからひと月近く経った今、感情は微かに戻ってはいるがまだ程遠い。
「で、今日は何をしに来たの?」
と紅茶を飲みながら聞いた。
「あ、そうそう!私達これから帝都の港町に行くんだけど一緒にどうかなぁって!ねぇ!行くよね!ね!」
そう目をキラキラさせなくても。断っても連れて行くくせに。と呆れてしまう。
「お姉ちゃん、強引すぎ。リエルの気分転換になると思って誘いに来たのよ。それにあの2人も今日帰ってくるって連絡があったし丁度いいかなって。」
「なるほど、そういうことね。じゃあ支度するよ。」
ツインズ。ネプトュリート公爵家とリーフィーヌ公爵家の次期当主。その2人の名がウミ・ネフトュリーヌとウミ・リーフィーヌ。ウミという同じ名であり、交易、行政を共に取り仕切っている為世間では"ツインズ"と呼ばれている。その2人が隣国へ役目を終えて今日帰ってくるらしい。
「リエルに会ったら2人とも絶対驚くよ、きっと!」
「だといいね。って、早く部屋を出てくれないかな。着替えられないんだけど。」
「またぁ、照れちゃってぇ。」
「はぁ...。」
そうためため息をつくと
「では応接室の方で今朝出来上がったレモンアップルタルトをご用意致しますので御二方はそちらでお待ちいただけますか。」
と爺やがフォローしてくれた。
「え!いいんですかぁ!ウブちゃん行こ行こっ!」
「ちょっ、お姉ちゃん待ってよ。じゃあリエル待ってるからね。」
そういって部屋を出て行く。やれやれと呆れながら着替える。鏡で服装、髪型を整え部屋を出ようとした時、窓からほのかに薔薇の香りがした。ドアノブにかけた手が止まる。風に乗って運ばれて来た薔薇の香りと一緒に"気をつけて"という声が聞こえた気がした。微かだがどこか悲しげな感じの声が。辺りを見回すが誰もいない。気のせいかと思い部屋を後にする。
その時は知らない。目覚めたあの日が始まりではなく、今この時開けた扉が本当の始まりなのだということ。
書き慣れてないので所々不自然かと思いますが、読むにつれ、読者の方の想像と共に楽しんで貰えたら嬉しいです!




