#231
ジェラートは慌てて蹴りを放った。
だが、間に合わない。
トランス·シェイクで身体能力を向上させたバニラのほうが速い。
タイミングが遅れ、ジェラートの長い足が伸びたときにはすでに、白髪の少年は彼女の背後へと回っていた。
「マチャが教えてくれた……」
背後に回ったバニラはジェラートの背中に飛び乗る。
二人の身長差があるせいか。
その図は、まる大人の背中におんぶされた子供のようだった。
背中に飛び乗ったバニラは、ジェラートの首に両腕を回して思いっきり締め上げる。
「ガァァッ!?」
「頭を使えって……いつも言ってた……。ダークレートも……。ストロベリーもオレをいつもバカだから考えろって言ってた……」
ジェラートは締め上げてくるバニラの腕に両手を伸ばして解こうとするが、呼吸ができなくて力が入らない。
ジタバタと身を震わせながら苦しそうにしているだけだ。
「あと、やりあってみてわかったよ……。あなたはレカースイラーより弱い……」
「こ、こ……」
「さよなら、ジェラートさん……。愛してます……」
「こんなぁぁぁぁぁぁッ!!」
ジェラートが咆哮した瞬間――。
彼女の首は強引に胴体と引き離された。
その誰もが引き込まれる綺麗な顔が鬼の形相のまま転がり、すべてを包み込むかのような大きな身体はドサッと倒れる。
「けど、ごめんなさい……」
もぎ取られた部分から噴き出る血を浴び、血塗れになったバニラは顔を拭うと、遠くからエンジン音が聞こえてきていた。
――その後、決戦の場に駆け付けたクリムによって、バニラは治療された。
スラム街にあるクリムの診療所で、しばらく間、小熊のカカオと共に過ごす日々を送る。
「この後どうする?」
身体の傷が癒えた頃に、クリムがバニラに訊ねた。
煙草を吸って紫煙を吐き出しているクリム。
彼女の腕の中には抱かれているカカオがおり、小熊もバニラの今後を気にしているようで、心配そうに「ガウゥゥ」と鳴いている。
「クリムはどうすんの?」
「私は元々島を出るつもりだったからな。お前のせいで遅れてしまったけど」
「そっか、そいつは悪いことしたなぁ……」
ボケッと答えたバニラは、診療所の窓から外を眺めた。
スパイシー·インクが無くなってからのテイスト·アイランドは、今日も変わらずに暴徒が好き勝手に暴れている。
力無き者が虐げられる世界が続いてる状態だ。
「オレはここに残ろうかなぁ」
「なんだ? こんな島で何かしたいことでもあるのか?」
「いや、別にないんだけどさぁ。もしマチャが生きてたら、島の秩序を守るとか言いそうだから……」
「お前はそれでいいのか? ダークレートから聞いてるぞ。お前、音楽がやりたかったんじゃないのか?」
「音楽は島にいながらでもできるだろ。それに……」
「それに……なんだ?」
オウム返しして訊ねるクリムに、バニラは答える。
「島を出て、どうするか考えるのめんどくせーし」
「お前なぁ……」
バニラの言葉に呆れるクリム。
カカオも彼女と同じように、「ガゥゥ」と大きくため息をついていた。
クリムは吸っていた煙草を灰皿に押し付けて消すと、抱いていたカカオを床に置く。
すると、カカオがバニラの胸に飛び込んでいく。
そして、ガウガウと鳴き続ける。
どうやら自分も島に残ると言っているようだ。
「しょうがないなぁ……。私も残るよ」
「え? いいのか?」
「お前とカカオだけじゃ心配だ」
からかよう笑みを浮かべ、クリムがそう言うとカカオがさらに大きく鳴いていた。
バニラはそんな小熊を抱きながら、クリムに言う。
「なあクリム、髪を染めたいんだけど。どうやるの?」
「色を入れたいのか? それともワンポイントのメッシュ?」
「あぁ、たぶんそれ。緑、黒、赤……あと金髪ってオレの頭でもできんのかな?」
「なんか凄まじく下品な頭になりそうだな」
「あとホワイト·リキッドの制服って手に入る? ウエストコートって言うんだっけ、あれ?」
バニラに次々と訊ねられたクリムは笑っていた。
突然笑い出した彼女を見て、バニラは不思議そうに小首を傾げていた。
一体なにがそんなにおかしいのかと、彼にはクリムが笑っている理由がわからないようだ。
「なにがおかしんだよ?」
「だってお前、ハハハァッ!」
そんな二人を眺めていたカカオも、どうしてだが、いきなり嬉しそうな鳴き声をあげた。
〈了〉




