表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
山田さんの新人研修  作者: 金子よしふみ
第三章 夢の続き
12/46

職務

 午前の競技種目が終わった。山田は店のスタッフと交代になり、休憩に入ることになった。結局、戸内はあれきり戻ってくることはなく、一人で売り子をする羽目になった。

 法被のままフラフラと歩く。

「山田さーん」

 聖来と唐檜が駆けて来た。その後ろには戸内もいる。

「何してんだよ、お前」

「それより腹が減った。幸喜、食事にしよう」

 まるで答える様子もなかったが、

「これ、店の人から渡された。聖来ちゃんと唐檜さんも食べる?」

 蓋つきの発泡スチロールの容器がいくつも入ったビニル袋を掲げる。

「あ、イタリアーノじゃないですか」

「え? 何それ」

 山田は聖来の嬉々とした声とは対照的だった。どうやら有名なのらしいが、山田はその辺りに疎かった。

「山田さん、買ったんじゃないんですか?」

「店の人の差し入れ。たくさんあるからいっぱい食べろって。これって有名なの?」

「ええ、B級グルメというヤツです。開けてみれば分かりますよ」

 促され、人通りを避け、袋から取りだし、蓋を開けた。

「何、これ?」

 見れば、麺が中太の焼きそばの上に、ミートソースがかかっている。容器の脇には紅ショウガ。

「いろんなバリエーションがあるんスよー」

 唐檜がタッパを取り出していくつか蓋を開く。

「ほら、ホワイトソースとか、こっちは塩焼きそばの上にミートソースです」

 揚々としている女子二人に対して、山田は「これありなの?」と言わんばかりの顔つきである。

「だって、うどんの上にカレーはかけないでしょ」

 と言う山田だったが、そこにいた一同、数秒の後、

「「「いや、それカレーうどんでしょ」」」

 戸内も交じってのツッコミとなった。

「あ、そうか」

 と天然なボケをかました山田に

「じゃ、一つずつもらっていっていいですか? クラスの子達とお弁当食べることになってるんで、おかずにしますね」

「ああ、いいよ。持って行って」

「山田さんも食べた感想、後で聞かせてくださいね」

「分かった、分かった」

 聖来が妙に強く勧めてきた。一応の返答をする山田に、女子二人は手を振って、朝と同じように駆けて行った。

「じゃ、幸喜行くぞ」

「行くってどこへ?」

「反町太助のところだ」

「飯は?」

「歩きながら食うに決まっているだろ。ほら」

 戸内が空の手を出す。

「はいよ」

 ビニル袋から容器と割りばしを渡す。

 山田は開けた蓋をビニル袋の中に入れ、割りばしで麺を持ち上げる。焼きそば色のそれにミートソースの赤が絡み合っている。味が想像できなかった。が、一口。

「あ、イケるね、これ」

「だろ」

 と答えた戸内はすでに食べ終わっていた。

「幸喜、遅いぞ」

 どんどん進む戸内の背中を、イタリアーノを頬張りながら山田は追った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ