職務
午前の競技種目が終わった。山田は店のスタッフと交代になり、休憩に入ることになった。結局、戸内はあれきり戻ってくることはなく、一人で売り子をする羽目になった。
法被のままフラフラと歩く。
「山田さーん」
聖来と唐檜が駆けて来た。その後ろには戸内もいる。
「何してんだよ、お前」
「それより腹が減った。幸喜、食事にしよう」
まるで答える様子もなかったが、
「これ、店の人から渡された。聖来ちゃんと唐檜さんも食べる?」
蓋つきの発泡スチロールの容器がいくつも入ったビニル袋を掲げる。
「あ、イタリアーノじゃないですか」
「え? 何それ」
山田は聖来の嬉々とした声とは対照的だった。どうやら有名なのらしいが、山田はその辺りに疎かった。
「山田さん、買ったんじゃないんですか?」
「店の人の差し入れ。たくさんあるからいっぱい食べろって。これって有名なの?」
「ええ、B級グルメというヤツです。開けてみれば分かりますよ」
促され、人通りを避け、袋から取りだし、蓋を開けた。
「何、これ?」
見れば、麺が中太の焼きそばの上に、ミートソースがかかっている。容器の脇には紅ショウガ。
「いろんなバリエーションがあるんスよー」
唐檜がタッパを取り出していくつか蓋を開く。
「ほら、ホワイトソースとか、こっちは塩焼きそばの上にミートソースです」
揚々としている女子二人に対して、山田は「これありなの?」と言わんばかりの顔つきである。
「だって、うどんの上にカレーはかけないでしょ」
と言う山田だったが、そこにいた一同、数秒の後、
「「「いや、それカレーうどんでしょ」」」
戸内も交じってのツッコミとなった。
「あ、そうか」
と天然なボケをかました山田に
「じゃ、一つずつもらっていっていいですか? クラスの子達とお弁当食べることになってるんで、おかずにしますね」
「ああ、いいよ。持って行って」
「山田さんも食べた感想、後で聞かせてくださいね」
「分かった、分かった」
聖来が妙に強く勧めてきた。一応の返答をする山田に、女子二人は手を振って、朝と同じように駆けて行った。
「じゃ、幸喜行くぞ」
「行くってどこへ?」
「反町太助のところだ」
「飯は?」
「歩きながら食うに決まっているだろ。ほら」
戸内が空の手を出す。
「はいよ」
ビニル袋から容器と割りばしを渡す。
山田は開けた蓋をビニル袋の中に入れ、割りばしで麺を持ち上げる。焼きそば色のそれにミートソースの赤が絡み合っている。味が想像できなかった。が、一口。
「あ、イケるね、これ」
「だろ」
と答えた戸内はすでに食べ終わっていた。
「幸喜、遅いぞ」
どんどん進む戸内の背中を、イタリアーノを頬張りながら山田は追った。