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69 魔剣 クサナギの剣

【登場人物】

 中臣鎌足(カマ様)

人間に転生した天魔の神『天狐(あまつきつね)』東国の獣神である。


 額田姫王(ぬかたのひめみこ)・鏡王女

中大兄皇子の元妻であり、神の歌「言霊」を使う少女。龍王女の転生体である。


 チカタ(中臣真人、定恵)

カマタリたちの長男。聖徳太子の孫。

聖者にして魔神となる運命の子


 葛城皇子(中大兄皇子)

女性と見まごう白く美しい外観に凶悪で残酷な内面を持ち合わせる。

額田姫王や倭姫王の夫であり魔族を率いる魔王でもある。


 チビコマチ(小野小町)

額田姫王に歌を学ぶため飛鳥時代に連れて来られた平安時代の少女。

巫女舞風の装束を身にまとい「言霊」を使う。


 厳 (ゴン)

春日の森で「鬼神の塚」を守る片目の野守。

なぜかチビコマチのお供をしている


 鈴鹿御前(倭姫王)

天照大神の依代であり第六天魔王の一人。

なぜか高位天魔を人間に転生させて飛鳥の都に集結させている。

ちゃっかり自分も皇女に転生した。だがまだ子供である。


 小狐丸

黒い戦闘魔獣。

魔物を斬る『神刀』を鍛える刀工でもある。


 お玉(玉藻)

百済王妃に化けた九本尻尾の妖狐の少女。

幻覚を操り、人間を魔物化させる能力を持つ。


 (ワン)

高志才智に化けて大和朝に使えていたカマタリの友人の漢人。

紫微宮(北極星)を守護する最強軍神、天蓬元帥(てんほうげんすい)の転生体。


 武照(ウー・ジャオ)

唐の皇后にして魔道女皇。

世界を征服するために人間に転生したが、遠い昔から御前をライバル視していた様子。

 飛鳥川原宮。

先日のカマタリたちの戦いのせいで板蓋宮(いたぶきのみや)が燃えてしまったので、近くの寺院を改造して仮の皇居としたようだ。


 極彩色にド派手に(いろど)られた山門を見上げる。

「こりゃ寺というより河内で見た道教寺院だな」


 元は仏教の寺だったようだが、建物はかなり手が加わり、中では僧侶と道士が混在してた。

 唐では「仏教も道教も儒教も同じ神仙の教えである」として三教一致とされていた。

つまり仏も神も天魔も道教では同じ神仙なのである。

 現代の日本の仏教や神道に道教の風習が多く残されているのはこのためであろうか。


 神仙思想はかなり古いが、現在の道教が完成したのは5世紀ころと言われる。

この飛鳥時代では最新の新興宗教という感覚だろうか。

 道教の主神である老子の本名は「李」だったと言われる。

唐の皇帝も同じく「李」である。

 武照(ウー・ジャオ)はこれを利用して「老子は大唐の皇帝の祖先である」と主張する事で道教を取り込み、日本もこれに習う形で道教、仏教が混じりながら取り入れられ現代の神道になる。


 この寺院の仮宮で間人皇女(はしひとのひめみこ)が母親である寶皇女(たからひめ)に譲位をする予定だ。


 寺院には続々と皇族や太夫(だいぶ)たちが集まって来て道路にまで従者や荷物運びたちがひしめいている。難波宮に比べるとだいぶ手狭(てぜま)に感じる。


 額田姫王(ぬかたのひめみこ)は久しぶりの国家イベントなのでキンキラに着飾って宮廷歌人として登殿している。

 もともと大海皇子が見初めたほどの美人なので、化粧すると会場の中でもひときわ華やかだ。太極殿に集まった王侯貴族や采女(うねめ)たちまで「あれが額田王か」と、ため息混じりに振り返る。


 かく言うカマタリも思わず見惚(みと)れてしまっていた。

「なんか普段の姿とはえらい違いだよな」


「何か言った?」


「いえ、べつに」

 この日のために一晩中、カマタリも衣装合わせに付き合わされたワケだが…まぁ何も言うまい。


(かがみ)

 横から声を掛けられ振り返ると大海皇子(おおあまのみこ)がいた。

「まあ!あなた」

 額田姫王(ぬかたのひめみこ)は恋する乙女のように大海皇子(おおあまのみこ)に駆け寄る。


「あなたぁ?」カマタリが何か引っかかる表情で顔をしかめた。

 もともと二人が夫婦だったのは聞いてはいたが、ここまであからさまの仲だとカマタリの表情もこわばる。


「やあ失礼。つい昔のクセで」

 大海皇子(おおあまのみこ)は好青年のように申し訳なさげに頭をかく。

「いいのよ、いつもこんな感じだから」

 額田姫王(ぬかたのひめみこ)は恋人のように大海皇子(おおあまのみこ)の腕に寄り添った。


「それ、今いう事かなあ…」

 けっきょく三人で会場を歩くが、どう見てもカマタリが恋人を皇子に取られた負け組にしか見えない。まぁ当然だが。


 儀式にあたって高御座(たかみくら)の前にまで行くと、その奥に三種の神器が飾られていた。

 真ん中でギラリと輝いているのは伝説の秘宝「草薙の剣」だろうか。抜き身のまま立てかけてある。


「あれがヤマタのオロチの…」

 ヤマタのオロチの尻尾から取り出されたと言われるその巨大な剣は不気味に輝き、大蛇のように左右に蛇行してウネリ、稲妻のように枝分かれしている。


 大海皇子(おおあまのみこ)が不思議そうな目で草薙の剣を見る。

「変だな。『アレ』はふつう表には出さないはずだけど…」


 たしかに変だ。宮殿奥に(まつ)られている御神体は、直接民衆に見せるものではないと父の中臣御食子(なかとみのみけこ)も言っている。

 そういえば神祇長官である御食子(みけこ)の姿もここに見えないが、まだ多武嶺(たむのみね)に居るのだろうか?


 会場に間人皇女(はしひとのひめみこ)が現れる。

皇女は古代から伝わる大王の宝冠をかぶり、有馬皇子や采女たちを引き連れ高御座(たかみくら)に上った。


 軽大王こと孝徳天皇の死から三ヶ月。皇后の間人皇女(はしひとのひめみこ)中皇命(なかつすめらみこと)として難波宮をまとめていた。

 いろいろあったが、軽大王の治世も悪い世の中ではなかった。カマタリは「お疲れ様でした」と心中で二人に頭を下げる。


皇祖母尊(すめらみおやのみこと)さまの御成(おなり)

 幕間から警備の帳内(トネリ)たちの声が上がり寶皇女(たからひめ)が現れる。


 寶皇女(たからひめ)の姿に会場がどよめいた。

 寶皇女(たからひめ)は星座や神獣が描かれた真っ赤な道服を着て道教の冠を羽織っていた。

すでに六十歳を過ぎているはずだが、その容姿は娘の間人皇女(はしひとのひめみこ)そっくりだった。

 若い親娘が二人並ぶと、どちらだか分からないほどだ。


続いて東宮(皇太子)の中大兄皇子が道士たちを引き連れて現れる。

 最後に道士たちの背後からカラスの黒い羽根の団扇を持った(ワン)の姿があった。

(カラス羽根の表…手の内を見せないつもりか)

 何が目的だ?


 寶皇女(たからひめ)たち一行は会場の中ほどで立ち止まる。

 (何だ?)

何かの手違いだろうか?

 太極殿の真ん中で動かなくなった皇祖母尊(すめらみおやのみこと)たちの異様な行動に会場がザワめいた。


「お母様」

間人皇女(はしひとのひめみこ)高御座(たかみくら)から降りて静かに近づくが、寶皇女(たからひめ)は何も言わず、娘の黄金の王冠を奪い取って横に控えていた帳内(トネリ)に渡し、娘を置き去りにして高御座(たかみくら)へと向かう。


「な?!」

まるで母親が娘の皇位を簒奪(さんだつ)したかのような光景に臣下一同が目を疑う。


 カマタリの目の前を寶皇女(たからひめ)が通り過ぎる。

次に中大兄皇子がカマタリに少女の様に小首をかたむけニコリと笑顔を向けて通り過ぎて行った。

 皇子の袖が片方だけたなびいていた。


 (ん?中大兄皇子の片腕が無い?何でだ)

カマタリは自分が魔王の片腕を切り落とした事も忘れて、ノンキに死んでいたので記憶の時間流がまだ混乱しているようだ。


 寶皇女(たからひめ)は有馬皇子の目前を素通りして高御座(たかみくら)に上ると玉座に着いた。


 呆然と見ていた有馬皇子の前に中大兄皇子が立つ。

 目が合った。

「うわっ!」と叫んで有馬皇子は尻餅をついた。

 中大兄皇子は振り向きもせず前方に向き直る。


 横に居た大海皇子(おおあまのみこ)額田姫王(ぬかたのひめみこ)が助け起こすと有馬皇子は小刻みに震えていた、


 そして最後に(ワン)がカマタリの目の前に立つ。

「あ、羊さん」

 (ワン)はニヤリと笑うとカマタリに背を向け、御前に向かって歩き出す。


 (ワン)が中央に立ち、黒いカラスの(おうぎ)を掲げる。


「これより大王(おおきみ)は天帝である天皇(てんのう)となられる。そのための即位式を取り行う。皆の者は道士どもに就いてここで儀礼を取り行え」


「新しい儀式?」

初めて聞く言葉に殿上の諸氏がキョトンとした顔する。


「それは聞いていない。式典の打ち合わせも何もないぞ」


「大唐の封禅の儀をこの邪馬台(ヤマト)で執り行うとの天皇の御心(みこころ)ですよ、内臣(うちつおみ)カマタリどの」

 (ワン)はカラスの黒い羽根の団扇をカマタリに向ける。


 おそらくこの黒い羽根には黒い墨で神呪が描かれている。一枚一枚が強力な呪符であろう。

あの呪符の魔法発動は言霊より早くて複雑だ、おそらく防御しきれないだろう。


 今この場でこれ全部を使われたら国家が滅びる。


 中大兄皇子はカマタリにニコリと微笑むと片手でヒョイと草薙の剣を持ちかかげた。

 長大で奇っ怪な大剣は薄暗い室内でギラギラと輝く。

その不気味さに殿中のザワめきは静まり返る。


「儀式を始める。神巫(かんなぎ)の女たちは私に続け」

 中大兄皇子は草薙の剣を軽々とゆらしながら歩き出した。


神巫(かんなぎ)?何の事だ?」


 数人の采女(うねめ)たちが間人皇女(はしひとのひめみこ)額田姫王(ぬかたのひめみこ)を取り囲んで引き連れようとする。

「ちょっと!なんでえ?」

 なんと百済王子の妃に化けたタマモまで連れて行こうとしている。


「放しなさい!無礼者!」

 額田姫王(ぬかたのひめみこ)は叩くように手を振り払うが、采女(うねめ)たちは全く動じる気配がない。


 大海皇子(おおあまのみこ)が女たちを制する。

「おい!何のつもりだ」

 だか逆に弾き返されてドスンと尻餅をつく。

「あなた!」

 思わず額田姫王(ぬかたのひめみこ)が叫ぶ。

 采女(うねめ)たちの目が金色に光った。


(あれは…魔人!)


 中大兄皇子がクルリと振り向く。

「おとなしくしていろ」


「う………」

 中大兄皇子の言霊が太極殿に響き腹を貫く。

大海皇子(おおあまのみこ)は立ち尽くしたまま目線を逸らし動かなくなった。


 額田姫王(ぬかたのひめみこ)の表情が絶望の色に染まり、つぶやく。

「また私をお見捨てになられるのですね…」


 中大兄皇子は巨大な剣を持ったまま女たちや道士を引き連れ山に向かって歩き出す。

 (ワン)もまた暗く笑うとカマタリに背を向けて一団に続いた。


「あの方向は………」

深い山々が連なって行く先に中大兄皇子たちは消えて行った。


「あの先は…多武嶺(たむのみね)?」


はるか彼方で草薙の剣が稲妻のようにキラリと光る。

「いったい多武嶺(たむのみね)で何が始まろうとしているんだ?」

 カマタリたちは戦慄し、中大兄皇子たちを見送っていた。


 〜 69 魔剣 クサナギの剣 〜完

  【年表】

◼ 637年武照、太宗の後宮に入る

◼ ︎643年。山背大兄王死去

  中臣真人(藤原チカタ)誕生

◼ ︎645年。蘇我入鹿暗殺

◼ 653年。第二次遣唐使。道昭とチカタ(定恵)入唐

◼ 654年

 ・中大兄皇子 飛鳥に戻る

 ・孝徳天皇崩御(654年 - 10月)

◼ 655年 1月、寶皇女が即位(斉明天皇)



 (=φωφ=)あとがき。

ようやく斉明天皇の重祚ですね。皇極天皇、皇祖母尊、寶(宝)姫…いろいろ呼び名が変わりますが全部同一人物です。

さすがにまぎらわしいので今後は寶姫にしようかと。


 > 多武嶺(たむのみね)

現在の談山神社から登った所でしょうか。

ちなみに主祭神の中臣鎌足と正妻の鏡女王(かがみのおおきみ)がこちらに祀られてます。

ちなみに別名『恋神社』とか。

きっと仲睦まじかったんでしょうね。


 > 飛鳥川原宮は近くの寺院を改造した

すいませんウソです。

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