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65 狂心(たぶれごころ)の都

【登場人物】

 中臣鎌足(カマ様)

人間に転生した天魔の神『天狐(あまつきつね)』東国の獣神であり人間体でも魔物を圧倒できる身体能力を持つ。


 額田姫王(ぬかたのひめみこ)・鏡王女

中大兄皇子の元妻であり、神の歌「言霊」を使う少女。

琵琶湖の龍王女の転生体である。


 葛城皇子(中大兄皇子)

女性と見まごう白く美しい外観に凶悪で残酷な内面を持ち合わせる。

額田姫王や倭姫王の夫であり魔族を率いる魔王でもある。


 チビコマチ(小野小町)

額田姫王に歌を学ぶため飛鳥時代に連れて来られた平安時代の少女。

巫女舞風の装束を身にまとい「言霊」を使う。


 厳 (ゴン)

春日の森で「鬼神の塚」を守る片目の野守。

なぜかチビコマチのお供をしている


 鈴鹿御前(倭姫王)

天照大神の依代であり第六天魔王の一人。

なぜか高位天魔を人間に転生させて飛鳥の都に集結させている。

ちゃっかり自分も皇女に転生した。だがまだ子供である。


 小狐丸

黒い戦闘魔獣。

魔物を斬る『神刀』を鍛える刀工でもある。


 お玉(玉藻)

百済王妃に化けた九本尻尾の妖狐の少女。

幻覚を操り、人間を魔物化させる能力を持つ。



  【年表】

◼ 637年武照、太宗の後宮に入る

◼ ︎643年。山背大兄王死去

  中臣真人(藤原チカタ)誕生

◼ ︎645年。蘇我入鹿暗殺

◼ 653年。第二次遣唐使。道昭とチカタ(定恵)入唐

◼ 654年

 ・中大兄皇子 飛鳥に戻る

 ・孝徳天皇崩御(654年 - 10月)

◼ 655年 1月、寶皇女が即位(斉明天皇)

 ほのかに赤黒い黄昏の空。

足元には透明な水が巨大な海のように果てしなく広がっている。

 三途の川。

根之堅洲國(ねのかたすくに)と、現世を隔てるはるかなる大河。ニライカナイである。


 あの赤い空間から戻って来たカマタリの魂はそこに立っていた。

 しかしあの赤黒い光の世界。あれはいったい何だったのか?


「あれは…」


「私どもが近づけるのはあそこまででございます」

 小野篁(おのたかむら)は頭を垂れた。


 カマタリは三途の川に入り死のケガレを洗い流すために(みそぎ)を始める。


 その時、周囲の水面が紫に光り始めた。

「な!なんだ?」

 すると紫の光から黒い地獄の井戸が開き、中から赤い珊瑚の(くし)を挿し、貝や翡翠などの古代のド派手装飾を身につけた美しい姫神が現れた。

下半身は大蛇であり、水中に隠れている。

 かなり高位の霊に感じる。


「だれ?」

 カマタリの問いに小野篁(おのたかむら)(かしこ)みながら答える。

「こちらは井光姫(いひかひめ)様にございます」


「イヒカ姫?」


「この根之堅洲國(ねのかたすくに)の水底に()まう龍神にございます」


 ※井氷鹿(いひか):神武天皇が吉野を通過するさい出会った吉野の国つ神。

川の「井」から現れ、尾が生えていたと言われる。


 イヒカ姫神は両手に鎌を持っていた。

鎌の柄には古代の紋様が掘り込んである。


「あ!それは」


「お前が持っていたのはこの金の鎌かえ?それともこちらの黒い鎌かえ?」


「そちらの金の鎌を下さい」


「ウソをつくでない!」


「すいません…というか、なぜ貴女(あなた)様がそのカマを持っておられるのでしょうか」


「仮面をかぶった魔獣がこれを(わらわ)に奉納して行ったのじゃ」


「小狐丸が?」


「どうしても我が宝剣を見たいとの話でな。少し遊んでやったらこれをくれたわ」


「我が宝剣?」

カマタリは首を傾げる。


「お前も持っているではないか」


「え?俺が?いや宝剣なんて何も」


「バカ者、お前ではない。お前の………」


 …そこで目が覚めた。


 ハッ!と目を開けると、目の前に間人皇女(はしひとのひめみこ)の美しい顔があった。

 当然全裸である!


 間人皇女(はしひとのひめみこ)はカマタリの胸元に指を沿わせる。

「今回も良かったわ激しくて。こういうの好き」


「ははは…」

 カマタリは苦笑した。

(つい断りきれずまたヤッてしまった!)

 と、いうのはウソである。じつはギンギンに期待していたのは言うまでもない。


「でもお兄様にはかなわないけどね」


「ははは……今でも皇子さまと?」


 間人皇女(はしひとのひめみこ)は少し寂しそうに目を伏せた。

「お兄様、今はお母様とばっかりよ」


「なるほど………へっ?!」

彼女たちの母親である寶女王(たからのひめみこ)はもう六十歳を過ぎているはずだ。


「また明日もいらっしゃい。(ちん)の命令ですよ」

 間人皇女(はしひとのひめみこ)は裸のまま子猫のように軽く伸び上がった。

 とてもかわいい!


「はっ、ははっ!」

 すっかり間人皇女(はしひとのひめみこ)(とりこ)になってしまったようである。

 (とりこ)といえば義子である有馬皇子もこの後通って来て朝まで居るようだ。

 政敵となりかねない人物は全て凋落(ちょうらく)してしまった。やはり恐ろしい女性、いや恐ろしい兄妹である!


 彼女にあまり深入りしなければ良いが…と、カマタリは自分の事は棚に上げて十六才の皇子の身を心配する。


 しかし不思議だ。間人皇女(はしひとのひめみこ)と居る時だけ根之堅洲國(ねのかたすくに)の記憶を思い出す。

 何か記憶を操作されてるような気もするけど…まぁいいか。今夜も間人皇女(はしひとのひめみこ)様の所に行けば、またナニか思い出すだろ。


 などと都合の良いことを考えながらカマタリはフラフラしながら内裏を出た。

もう深夜だろうか。


「さて、と」

 カマタリは星空を見上げると飛鳥へ向かって走り出した。

 (中大兄皇子がただ漠然(ばくぜん)と母親にくっつくとは思えない。最強の神巫(かんなぎ)である皇祖母尊(すめらみおやのみこと)を利用して何かを始めようとしているはずだ)

 闇の中を切り裂くように風が(はし)った。


 飛鳥の都。

「なんじゃ?こりゃあ」

 久しぶりに見た古都の風景を見てカマタリは思わず声を上げた。


やつれた幽霊のような人波がゾロゾロと歩いている。

 飛鳥には大量の民衆が集められて、通りや市場、果ては河原にまで人があふれ返っていた。


「おい、こりゃ何だい?」


男はめんどくさそうに答えた。

「香具山に石を運ぶための水路(みぞ)だとさ」


水路(みぞ)?何のために?」


「知るか!寶大王(たからのおおきみ)は、気が狂われたんだ。あれは『狂心渠(たぶれごころのみぞ)』だ」

 男は叫びながら去って行った。

朝廷の舎人(とねり)がこちらを睨んでいる。


 カマタリが難波に居る間に巨大な運河の工事が始まっていたのだ。


 『狂心渠(たぶれごころのみぞ)

文字通り民衆は斉明天皇が狂ったのではないかと考えた。

 水路(みぞ)を掘るために三万人

 石垣を作るため七万人

舟200隻が行き交い明日香から石を運んだと言われる。

(ひょっとして飛鳥に戻ったのはこれをやらかすためか…)


「カマどの、いや内臣(うちつおみ)さまではございませんか」

 振り返ると紀朝雄(きのともお)であった。


紀朝雄(きのともお)どの、なぜここに?」


「我らにも建設のための健児(チカラヒト)をよこせとのご指示が皇祖母尊(すめらみおやのみこと)よりありました」


※ 健児:兵士の事。この時代は「チカラヒト」後に律令制では「こんでい」と呼ばれる


寶女王(たからのひめみこ)本人から?」


布留(ふる)の『石上山(いそのかみやま)』の石を香久山の西までの渠(水路)を掘り、山から山へ舟を通すとか」


「饒速日命(神武天皇)の御神域の石じゃないですか!飛鳥に舟を通してどうするつもりなんです?」


「石上山から霊石を積み込み、舟に乗せて飛鳥の宮殿の東に運び、それを山と積んで『天宮(あまつみや)』を造るとの話です」


「何それ?」


「何でも唐土の神術とかで地霊の力を得て“天皇”の徳を高めるためだとか」


「“天皇”?」


「唐土ではこれより大王(おおきみ)を天上の存在。天皇にするのだとか。その儀式でしょう」


 このころ中国ではウー・ジャオ(武照)の手により皇帝を“天皇”とする計略が進んでいた。

 これはその実験段階なのだろう。


  布留(ふる)石上(いそのかみ)

饒速日命(神武天皇)が初めに鎮座した地域であり、日本最初期の霊的城砦とも言える。

 それ故か人の出入りを禁じた禁足地であり朝廷の武器庫であった。

 石上神宮の神宝とは霊剣『布都御魂ふつのみたま』だと言われる。

 倭姫(やまとひめ)の兄の五十瓊敷入彦命(いにしきいひびこのみこと)も一千口剣を作り、石上神宮へ納めている。


 言い換えれば中大兄皇子は石上(いそのかみ)の霊石を必要とした何かを飛鳥に作ろうとしているかもしれない。


「畿内に調(税金)を届けに来た百姓どもまで捕まって徴用されております」


「こりゃ蘇我氏より酷いんじゃないか」

 これでは何のためにイルカやエミシたちは殺されたのか?

 大化の改新そのものの否定ではないか。


 伝説の巫女であった寶女王(たからのひめみこ)はもうすぐ天皇の地位に戻る。

この事業も正式な国家プロジェクトになるであろう。


 軽大王(かるのおおきみ)は民を無闇に使役したりせず、墳墓は薄葬にせよと(みことのり)なされた。

 民衆のためだ。

 建前や理想論ばかり語る見栄っ張りでわがままな大王だったが、それでも「民のためだ」と頼めば改めてくれる人ではあった。

 左大臣の阿倍内麻呂(あべのうちのまろ)が期待していたのは彼のそういう部分だったのだろう。

 だが、これは違う。改新の詔とは違う。

(だから中大兄皇子は軽大王殺したのか?)


 カマタリは皇祖母尊(すめらみおやのみこと)のおられる飛鳥板蓋宮へと向かう。


 飛鳥板蓋宮「太極殿」

蘇我のイルカの暗殺現場である。あまり良い思い出では無い。

 あの雨の中、打ち捨てられたイルカの死体があった現場を横目で見ながらカマタリは太極殿に上がり込んだ。


 広間の奥には神巫(かんなぎ)たちを横にはべらせ、高御座(たかみくら)には皇祖母尊(すめらみおやのみこと)である寶皇女(たからひめ)が座しているのが見えた。


「陛下!」カマタリが叫んだ瞬間、不意に地獄の井戸が開き、中から中大兄皇子が現れてカマタリの腹を蹴り倒した。

 カマタリは大量の血を吐きその場にうずくまる。


「これから国師の謁見が始まる所だよカマタリ。そこで静かに観ていなさい」

 中大兄皇子は片腕だった。


「国師だって?」

言うなりカマタリは血を吐いた。呼吸すると激痛が走る。また内臓を潰されたのか。


 カマタリの横を道服を着けた老道士が平然と歩いて行く。あの(さかい)の道院で見た老人だ。

 (さかい)の老道士は高御座(たかみくら)の前に立つと深く礼をする。


「本日は唐土より高位の道士をお呼びしました」

 金糸の装飾が施された黒い道衣に身を包んだ背の高い道士が現れる。少年の行者(従者)がカマタリの横を通り過ぎて行く。

 高志才智(こしのさいち)こと(ワン)である。


 少年行者の一人はいつもの(ソン)少年だが、もう一人はなんとチカタだった。

 留学僧として日本を出たころより少し背が伸びている。


「チカタ!」

 カマタリが声を出すと再び蹴りが入った。

カマタリは血を吐きながらのたうち回るがチカタは振り向きもしなかった。


 (ワン)はカマタリを見下ろしながら暗い笑顔を向けると高御座(たかみくら)に向かって拱手(きょうしゅ)する。

 ※ 拱手:敬礼


(ヤマト)の王に永遠の不老不死をお伝えするため参りました」


「よく参られました(ワン)どの」

皇祖母尊(すめらみおやのみこと)高御座(たかみくら)より降りる。

 だがそこに現れたのは、難波宮にいるはずの間人皇女(はしひとのひめみこ)だった。


「まさか…」


 いや違う。よく似ているがあれは間人皇女(はしひとのひめみこ)ではない。

 六十二歳になる寶皇女(たからひめ)は二十歳ほどの姿に若返っていたのだ。



 〜 65 狂心の都 〜完

 (=φωφ=)あとがき。


> 五十瓊敷入彦命

倭姫のお兄様ですね。朝廷の武器を管理していたと言われます。

 ・垂仁天皇30年

五十瓊敷命と大足彦尊の兄弟に望みを聞けば

五十瓊敷命は弓矢を、大足彦尊は皇位を望む

 ・垂仁天皇39年

剣を一千口作り石上神宮へ納める。

 ・垂仁天皇87年?!

五十瓊敷命は老齢のため、石上神宮武器の管理を大中姫命に託し、大中姫命は物部に任せた。


 長男の五十瓊敷命が老化して働けなくなった後、垂仁天皇は99年間在位して140歳で崩御なされましたとか…

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