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63 空白の都(みやこ)

【登場人物】

 中臣鎌足(カマ様)

人間に転生した天魔の神『天狐(あまつきつね)』東国の獣神であり人間体でも魔物を圧倒できる身体能力を持つ。


 額田姫王(ぬかたのひめみこ)・鏡王女

中大兄皇子の元妻であり、神の歌「言霊」を使う少女。

琵琶湖の龍王女の転生体である。


 葛城皇子(中大兄皇子)

女性と見まごう白く美しい外観に凶悪で残酷な内面を持ち合わせる。

額田姫王や倭姫王の夫であり魔族を率いる魔王でもある。


 チビコマチ(小野小町)

額田姫王に歌を学ぶため飛鳥時代に連れて来られた平安時代の少女。

巫女舞風の装束を身にまとい「言霊」を使う。


 厳 (ゴン)

春日の森で「鬼神の塚」を守る片目の野守。

なぜかチビコマチのお供をしている


 鈴鹿御前(倭姫王)

天照大神の依代であり第六天魔王の一人。

なぜか高位天魔を人間に転生させて飛鳥の都に集結させている。

ちゃっかり自分も皇女に転生した。だがまだ子供である。


 小狐丸

黒い戦闘魔獣。

魔物を斬る『神刀』を鍛える刀工でもある。


 お玉(玉藻)

百済王妃に化けた九本尻尾の妖狐の少女。

幻覚を操り、人間を魔物化させる能力を持つ。


 654年(白雉三年)

軽大王(孝徳天皇)は、皇妃の間人皇女(はしひとのひめみこ)と姉である皇祖母尊(すめらみおやのみこと)の母娘が飛鳥に遷御(せんぎよ)(※天皇が別の都に移動)した事を耳にした。


「まさか…」と軽大王(かるのおおきみ)は絶句した。


 中大兄皇子が飛鳥を拠点として活動しているため、地方豪族をはじめ、朝廷の太夫や官吏たちまで飛鳥に参じているのは知っていた。

 だが、まさか自分の姉と妻が天皇である自分を見捨てて中大兄皇子の元へ行くとは思わなかったようだ。


 そんなある日、久しぶりにカマタリは軽大王(かるのおおきみ)に呼ばれた。

「また変なこと思いついてなけりゃいいんだけど」


 内裏(だいり)の中は荒れていた。

軽大王(かるのおおきみ)の足元には国内外の法令や古典の紀伝を書いた大切な木簡がバラバラに解けて散らばり、部屋には酒の甘い臭いがした。


「カマタリか…」

 軽大王(かるのおおきみ)は酒の入った(しゃく)を置くと力無く言った。


「どうなさったんです急に」


(ちん)政治(マツリ)を誰も理解しようとしないものだな…」と独り言のようにつぶやく


「そんな事ありませんよ。以前に比べると太夫たちが勝手に他国の百姓を徴用したり、墓の大きさを誇示したりできなくなりましたからね。効果は出ています。

その分、百姓たちの負担もだいぶ減りましたよ。少しづつ民たちも理解してくれるとはずです」


「それではイカンのだ」


「はあ?」


(ちん)は天皇であるぞ、なぜ太夫どもはいちいち飛鳥にうかがいを聞きに(もう)でるのか。まるで(ちん)(ちょく)に判を押すだけの存在ではないか!」


「いいじゃないですか、統治は専門家の官吏たちに任せて、大王(おおきみ)は国家の象徴として国の儀式を取り行えば。平和である事はすばらしい事っすよ」


「知った風な事を言うな!」


 軽大王(かるのおおきみ)はカマタリに酒の(ビン)を投げ付ける。(ビン)は床に当たり粉々に飛び散った。

 カマタリは避けもせずに少し冷めた目で見ていた。


「キサマ!何様のつもりだ!そのような目で(ちん)を見るな!」

 軽大王(かるのおおきみ)は席を立ち、荒い声を立ててカマタリに殴りかかる。

 カマタリはスッと体を開いて避けると軽大王(かるのおおきみ)の拳は空をきり、その勢いで倒れた。


「陛下、酔っておいででは」


「うるさい!………うっ!」

 いきなり軽大王(かるのおおきみ)が胸を押さえて苦しみ出した。


 (まさか!また誰かが毒を盛ったのか!)

 阿倍内麻呂(あべのうちのまろ)の死が頭をよぎった。


 軽大王(かるのおおきみ)は血走った目を()きながら手を伸ばしカマタリの衣をつかむ。

「そうか!やはりお前たち!お前たちが左大臣を殺したのか!」


「何を言ってるんですか!」


「出て行け!出て行けえ!!」


 軽大王(かるのおおきみ)は手当たり次第に床に散らばった木簡を投げ付けて暴れ回る。

 とっさにカマタリは入身(いりみ)して「()ッ!」と(はらい)の言霊を気当てすると軽大王(かるのおおきみ)は意識を失いその場に倒れた。

 カマタリは大王(おおきみ)の腹を膝の上に乗せると背中をドン!と叩き、胃の内容物を吐き出させた。


薬師(くすし)を呼べ!あと大量の水と卵もだ!」と采女(うねめ)帳内(トネリ)たちに指示する。


「もう良い!もう良い!」軽大王(かるのおおきみ)は咳き込みながらカマタリの手を押し退け、そのまま床にゴロリと寝転がりイビキをたて始めた。


 カマタリは軽大王(かるのおおきみ)をかついで寝所まで運び、後宮の(きさき)を呼んだ。


「あら、来てたの」と声を掛けられる。

 小足媛(おたらしひめ)だ。

だいぶ疲れた表情をしている。あの太陽のような明るい女性が影が薄く見えた。

「陛下の最近のご様子は?」

「……」

 小足媛(おたらしひめ)は無言だった。

だいぶ以前から荒れていたようだ。


「お酒の飲み過ぎでございますな」

「はあ?」

 診察した漢人の薬師(くすし)の診断では毒では無く、ただの酔っぱらいの錯乱らしい。


「だいぶ臓腑(ぞうふ)を酒で痛めておられますな。そして何より気が衰弱しておられる。今は養生なさる事です」


「衰弱?」


「次に発作が起きたらもう手の施しようがございません」

薬師(くすし)は一礼すると退出した。小足媛(おたらしひめ)はそっと涙を拭いた。


(ちん)も葛城皇子の手で殺されるのか…有馬皇子も殺される…」

 軽大王(かるのおおきみ)は震えていた。


「陛下…」


「お前は!お前は!私を見捨てないよな!」


「俺はずっとここに居ますよ。あなたには小足媛(おたらしひめ)様も有馬皇子さまもおられるじゃありませんか。いずれ国の民も大王(かおおきみ)に感謝しますよ」


「くうう……」軽大王(かるのおおきみ)はカマタリの袖にしがみついて泣いた。

その背後で小足媛(おたらしひめ)も涙をぬぐっていた。


「………すまぬ」

軽大王(かるのおおきみ)小足媛(おたらしひめ)の肩に震える手を添えた。



 この年、カマタリは軽大王(かるのおおきみ)(ちょく)により大紫冠を授かる。

式典には小足媛(おたらしひめ)と有馬皇子も来てくれていた。

 高御座(たかみくら)の玉座には、まるでガイコツのようにやつれた軽大王(かるのおおきみ)が静かに微笑んでいる。

 いろいろあったが、思えば軽大王(かるのおおきみ)も最初の出会いからずっと行動を共にして来た人物である。


 カマタリへの授与の式典が終わると軽大王(かるのおおきみ)は病のため床に伏せった。


「温泉にでも行きたいものだな」

寝所(しんじょ)軽大王(かるのおおきみ)(ひと)り言をつぶやく。


「いいですねえ、知り合いの紀の(むらじ) 朝雄(ともお)の話では紀国(きのくに)に良い温泉があるとか」


「そうだな」軽大王(かるのおおきみ)は黄昏れるように目を閉じた。


 (気の病か…)

 誰も居なくなった広大な朝廷でカマタリはつぶやいた。

 真新しい太極殿の広さが虚しかった。


 突然、皇妃の間人皇女(はしひとのひめみこ)と先帝の皇祖母尊(すめらみおやのみこと)(皇極天皇)の母娘が飛鳥を出発し難波の近くまで来ているとの話を聞いた。

 彼女たちが来る。という事は…

 (中大兄皇子が来る!)

今この病状で中大兄皇子に会ったら、心身の衰弱した軽大王(かるのおおきみ)は耐えられるのだろうか?


 夕方ごろ皇后たちを乗せた行列が到着した。

 カマタリは真新しい紫冠をかぶり、皇妃と皇祖母尊(すめらみおやのみこと)輿(こし)を最敬礼で出迎える。

 (ひげ)ヅラの佐伯子麻呂(さえきのこまろ)が緊張してガチガチに固まっているのが見えた。

 見渡すと、どうやら中大兄皇子の姿は見えない。

カマタリはホッと胸を()で下ろした。


 輿(こし)から現れた間人皇女(はしひとのひめみこ)を見て、出迎えの太夫や舎人(とねり)たちが「うっ」と息を止めた。


 透き通るような白い肌にきらびやかな唐衣をまとった姿は、少女のころの(はかな)げな幼さは消え、まるで女神のような神秘的な美しさだ。

 溶けるような瞳を向けられてカマタリは息を飲む。


 間人皇女(はしひとのひめみこ)輿(こし)から降りずカマタリに手を差し出す。

カマタリは「あ!」と、気づくと走り寄り、手を取ってエスコートする。


 輿(こし)から降りても間人皇女(はしひとのひめみこ)は手を離す気配が無い。

しかたなくそのまま後宮まで付いて行く。

 (いや、いくら皇后さまとはいえ、ここは男子禁制なのでは…)

 通り過ぎる采女(うねめ)たちの視線が痛い。

…というかこんな状況をもし鏡さん(額田姫王)に見られるたら●されるのではないかな!


 宮殿に上がると間人皇女(はしひとのひめみこ)は歩きながら唐衣の帯を解き始める。

「え?」カマタリは驚いて思わず声が出た。


額田姫王(ぬかたのひめみこ)とはちゃんとやってるの」

いきなり間人皇女(はしひとのひめみこ)の方から声を掛けてくる。


「?ちゃんとやるとは?」


「こういう事よ」

いきなり間人皇女(はしひとのひめみこ)

衣を脱ぎ捨て、全裸となり抱きついてきた。

 壁沿いの一室が開いて二人は中に倒れ込むと、皇后付きの女官たちが慣れた手付きで扉を閉めた。

 皇女(ひめみこ)は全裸のままカマタリの上にまたがり衣を脱がせる。

「ちょっ!誰かに見られますよっ!」と、言うそばから、いきなり口づけされて口を塞がれた。

 夕闇の中で潤んだ瞳がきらめいている。

口の中を小さな舌が動き回り、軽やかに乳房が踊る。

皇女(ひめみこ)の手が下半身を握ると頭の奥まで快感が突き抜ける。

 (あ…もう…いいや)

カマタリは思わず皇女(ひめみこ)の細い身体を抱き寄せた。


 そのころ軽大王(かるのおおきみ)の寝所の中央の空間に紫の光が走り、黒い穴が開いた。地獄の井戸である。

その闇の中から中大兄皇子が現れ、静かに地を滑るように枕元に近づいて行く。


「待っていたよ、我が弟よ」


 軽大王(かるのおおきみ)は天井向いたまま声を掛けた。

 中大兄皇子の足がピタリと止まった。


「不思議なものだ、(ちん)はもう闇夜の中も怖く無い。お前の事もな」


 中大兄皇子は無言で見つめていた。


 軽大王(かるのおおきみ)は痩せこけた顔をゆっくりと向ける。

「皇子よ、お前はなぜ闇の中に潜み、闇を恐れているのか」


 やはり中大兄皇子は無言だった。


(ちん)はお前を救いたいのだ」


 中大兄皇子は小首をかしげ機械のように微笑(ほほえ)むと、片手を持ち上げ、手首を水鳥のクチバシのように尖らせる。


 軽大王(かるのおおきみ)は静かに中大兄皇子を見つめていたが、皇子はためらわず軽大王(かるのおおきみ)の胸に腕を突き刺した。


「キャア!」と、女性の声が響いた。

 (しまった!あの声は小足媛(おたらしひめ)だ!)カマタリの神眼が異変をとらえた。


 カマタリは獣神体に変わると間人皇女(はしひとのひめみこ)を抱えたまま飛び起き、彼女を下ろすと壁を貫いて走り出した。


 寝所の入り口に飛び込むとすでに軽大王(かるのおおきみ)は胸に大穴が空いて血まみれだった。小足媛(おたらしひめ)の目の前に中大兄皇子は浮かんでいる。


 カマタリの獣神体は超音速で中大兄皇子に飛びかかるが、その瞬間、地獄の井戸が開いて中大兄皇子の姿が消えた。

 カマタリは壁を貫通し、大内裏の朝庭の広場に飛び出し、数百メートルほど滑って止まる。音速の轟音が後から土埃(つちぼこり)を巻き上げた。


 (消えた…?)


 すると頭上の空間に黒い穴が開き、中大兄皇子が空中から飛び出しカマタリの頭に腕を叩きつける。

「があっ!」

 カマタリが血を噴いて地に叩きつけられると、皇子は着地しながら軽く脇腹を蹴り飛ばした。

 カマタリは変身が解けて血を噴きながら全裸で地面を転がった。

 軽く叩かれただけなのに頭蓋骨は砕かれ内臓も潰されている。身体も動けない。


 カマタリがうっすらと目を開けると、中大兄皇子が少女のような白い柔和な笑顔を浮かべながら近づいてくるのが見える。

 もう意識が無い。

カマタリは身動きもできず地に伏していた。


 中大兄皇子は地に片膝を突くと、手首を水鳥のクチバシのように持ち上げ、カマタリの背中を突き刺そうと狙う。


 その時、空中を緑色の光の輪が空中を走り、カマタリの目の前に半透明のガラスのような緑の刃が突き刺さった。

 カマタリはその柄を見てハッ!とした。

母の残した鎌である。

 カマタリは無意識に鎌をつかんて中大兄皇子の腕をスルリと切り飛ばす。

 皇子は地を転がった。


 中大兄皇子は平然と起き上がると切り飛ばされた腕を拾い上げ元の位置にくっつけた。だが腕は、ポトリと地面に落ちる。

 中大兄皇子は目を見開いた。

  『夢想剣』

カマタリは無意識に夢想剣で魔王の腕を切り飛ばしていたのだ。

 夢想剣に耐えられる天魔は居ない。

知らず知らずのうちにカマタリは最強の天魔になりつつあった。


 後宮の奥。

誰も居ない部屋にカマタリは寝せられていた。

頭蓋は砕かれ内臓はつぶれている。意識は朦朧として手足は動かない。

まるで死体のようだ。

 闇の中でなお白く肌が光る女の裸体が近づいて来る。

全裸の間人皇女(はしひとのひめみこ)はカマタリに覆いかぶさり長い口づけをする。

 そして顔の上にまたがると性器を押し付けて腹ばいになりカマタリの下半身に手を伸ばして口に含んだ。

 彼女の性器の奥から一筋の潮のしずくがスッと流れ落ち、カマタリの口に入る。

すると、カマタリの死体はうっすらと目を開けた。


  ウムギヒメの術

ウムギヒメはハマグリの女神と考えられている。

古事記では、大火傷をした大国主を救うためウムギヒメが(おも)乳汁(ちしる)を塗って復活させたと言われる。


 まるで薬を得るかのようにカマタリは間人皇女(はしひとのひめみこ)の尻にかぶりつく。

 闇の中で裸身が蟲のようにうごめいている。二人の裸体は何日もの間、延々と絡み合っていた。



 〜 63 空白の都 〜完



   【年表】

◼ 637年武照、太宗の後宮に入る

◼ ︎643年。山背大兄王死去

  中臣真人(藤原チカタ)誕生

◼ ︎645年。蘇我入鹿暗殺

  玄奘、シルクロードより帰還。

◼ 648年頃。玄奘、大慈恩寺に移る

◼ 649年

 ・阿倍内麻呂死亡

 ・太宗皇帝が崩御。

 ・武照、道士となる。

◼ 653年。第二次遣唐使。道昭とチカタ(定恵)入唐

◼ 655年

・中大兄皇子 飛鳥に戻る

・中臣鎌足大紫冠を授かる白雉五年

・孝徳天皇崩御


(=φωφ=)あとがき。

 嗚呼、わりとお気に入りだった軽天皇が崩御なされてしまわれました。

この難波京がその力を発揮するのは皮肉にも百済支援の戦争でしょうか。

 そして難波京は火災で全焼し、聖武天皇のころ新しいシン・難波京が建造されます。


 > 知り合いの紀の連

名前だけ登場、歌聖紀の朝雄(ともお)です

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