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37 鎌足

【登場人物】

 小野タスク

なぜか魔王と呼ばれる地味で平凡で貧弱な高校生。

悪霊を斬る霊剣『韴霊剣(ふつのみたまのつるぎ)』を目覚めさせる能力がある。


 コマチ(小野小町)

平安時代の鬼退治師であり和歌の言霊で自由に時空間を変化させ、炎や水を操る能力を持つ少女。

・パンツを履くという概念が無い


 猟師コマチ(チビ助)

鬼と戦う少女。蝦夷風の装束を身にまとい半弓と毒薬を使う。

・パンツを履くという概念が無い


 柳生十兵衛 平 三厳 (ミツヨシさん)

なぜかタスクの家でお手伝いさんをしている剣豪。

鈴鹿御前の霊刀『小通連(しょうとうれん)』に片目を食われた。


 カマ様(中臣鎌足)

人間に転生した古代の天狐(あまつきつね)であり、十兵衛やコマチたちのはるか昔からの主人でもある。


 餓鬼阿弥とテルテ

男女の熾燃餓鬼(しねんがき)。鬼の身体能力を持ち、炎の属性魔術を使う魔界の武士(もののふ)


 鈴鹿御前(立烏帽子)

第六天魔王の一人。リアル魔王

三振の霊剣を持つと言われる。


 タカムラ(小野篁)

コマチの父。

地獄の高官であり自由に地獄と現世を行き来でき、強力な呪術を使う。

お供に降魔の化け猫(この子猫の子)を連れている。


 川崎カヲル

年齢不詳の女性民族学者。

裏山の古墳「将軍塚」を発掘するため移住して来てそのまま学校の司書になった変人。

・南軍流剣術の宗家である。


「藤原の千方(チカタ)とは何者なんですか?」


「チカタは(みかど)皇子(ミコ)だ」


(みかど)……天皇かな?


「そうだ、チカタは中大兄皇子様の御子だったが、まだ母親の胎内にいる赤子の間に、母親ごと我が家に下賜されたんだ」


 母親ごと下賜って…なんか人を物みたいに家来にあげちゃうのか。

古代も魔界と変わらないな。


「その代わり我が家は(ミカド)と同じ同胞(ハラカラ)の『不二胎(フジハラ)』になって、裏の皇統を残す使命を受けたってこった」


 裏の皇統?…それが藤原氏、魔王藤原チカタの原点なのか。

「藤原チカタはなぜ魔王になったんです?」


「もともとチカタは病弱だったんだ。俺があの時、天魔の力を与えなければ…」


分御霊(わけみたま)ですか!」

チカタはカマ様の天魔の力を持っていたのか!


「あれは…あの日は暑かったな…」

 カマ様は少し遠くを見た。


伊勢の港。

広大な港町には漁師や異国の舟、全身に入れ墨をした蝦夷などの人々がひしめき合っていた。

カマタリは、はるか東国の果てから紀国(きのくに) の舟で伊勢まで海を渡ってきた。


「迎えが来ると御前は言っておられたが…さて」

 見回せば正面奥に輝くような銀の巫女装束の少女が片目の大男を従えて真っ直ぐこちらに向かって歩いて来るのが見える。

 …あれか。

カマタリは直感した。

 (この時代の衣装では無いな)

おそらく別世界から来た娘であろう。


「お迎えにあがりましたカマ様」

 驚くほどの美しい少女であった。銀糸の千早(※神楽舞の衣装)を羽織り、髪は短く肩に垂らし「禿(かむろ)」の姿である

 歳のころは十と少しであろうか、宮中の采女(うねめ)になるのは十五、六とは聞くが、それにしてはまだだいぶ幼く見える。


 背後に控えた片目の男は木樵であろうか。

片目には眼帯をしていた。袴も履かず裾を端折っ足を出し、腰に短い太刀(※タチ:片刃の剣。ナタのようなもの)を差している。

 (この男…強いな)


「名は?」

「コマチとお呼びください」

少女はフワリと微笑んだ。

 (この娘も常人ではないな。特殊な霊力を感じる)


 中臣鎌足は鹿島の神職である。

中臣(なかつおみ)とは神と人をつなぐ能力を持つ者である。

 さらに昔の中臣雷(なかとみのいかつ)は、亀卜(きぼく)など占いの始祖でもあり、また神がかった神功皇后の神を審神者(さには:神からの啓示を判断する霊術師)もしていた。

 カマタリが天魔から人間に転生するには絶好の一族だったと言える。


 そのカマタリが鹿島から伊勢に向かうさい

同船していた紀国(きのくに) の神官より聞いた話がある。

 「伊勢には朝廷に采女(うねめ)として仕える天鈿女(アメノウズメ)の末裔がおり、その姿は天女のごとく美しく、光や水を操る霊験を持ち、巫女として生まれ変わり続けるのです」と聞く。


 そしてその巫女たちは『コマチ』と呼ばれていると。


中臣(なかつおみ)も朝廷の祭祀に関わる家である。だが鹿島でも斑鳩でもコマチの存在を聞いた事は無かった。

 (朝廷の祭祀をする巫女がなぜ御前の元に?)


 コマチは銀糸の千早をヒラリとなびかせると背を向けて歩き出す。

「おいで、ゴン」

大男は無言でうなずくとコマチの後に着いた。

ゴンというのか。


 山また山の岩場をコマチはヒラヒラと飛び回る様に駆け抜けていく。

 まさか天魔王の転生体であるカマタリより早いとは、驚いたお嬢ちゃんだ。都に来る以前は東国の砦に居たらしい。


 カマタリが岩場を抜ける頃にはコマチは沢で足を冷やしながら歌を詠んでいた。

透き通るような美しい声だ。


「いい声だな。歌が好きかい?」

コマチはうなずくと大きな目を細めて微笑んだ。

額田王(ぬかたのおおきみ)様に教わりました」


 額田王(ぬかたのおおきみ)

やはりコマチと同じ朝廷の采女(うねめ)なのであろう。

 ひょっとしたらその者も御前が呼び寄せた巫女か天魔か…


「なんだ、まだガキじゃねぇか」

下品な男どもの声がした。

「ありゃ高く売れるぜ、衣装も上物だ」

ゾロゾロと武装した男たちが薮から出てくる。見れば短弓や剣を手にしている。

 盗賊のようだな十人ほどか。

港町から斑鳩(いかるが)の都へ上って行く旅人を狙っているのであろう。


 …コマチが狙われたようだな。

カマタリからすれば人間どもが百や二百集まったところで雑作なく倒せる相手だ。

 だが弓は厄介だ。もしコマチを狙われたら守りきれるか…

 カマタリは気づかれぬ様に腰の鎌に手を掛けた。


 その時、ゴンが真っ直ぐ男たちに向かってズンズン歩き出した。

盗賊どもは剣を抜くが、ゴンの方が素早く斬りつけている。

 盗賊たちの持つ剣は弾け飛び、手や指がバラバラと水面に落ちた。返す刀で左右を切り捨てる。

まるで数羽の鷹が一斉に獲物に襲いかかるかの様な光景だった。

 盗賊どもの悲鳴が上がる。

その時、数人の盗賊が弓を取りながら横に走り出した。

「まずい!横から射つ気だ」カマタリはカマを開いた。


 もろともに 立たましものを みちのくの

   衣の関を よそに聞くかな


   『(ころも)の関!』


コマチの歌と共に霧の壁のようなものが現れ、男たちをまとめて吹き飛ばし、奥の木々が爆風と共に薙ぎ倒された。

 「何っ?」

カマタリは手を止めた。


 圧縮された空気の壁が霧を含んでいるようだ。

衝撃波の壁である。これを食らったら人間どころか家屋でもたちまち吹き飛んでしまうであろう。

 おそらくこの娘は雨や風や光という天地の法則を操作している。

 まさか人間ごときがこの様な技が使えるとは驚いた話だ。

 しかし「面白い」。

さすが御前さまが寄こした人間たちだ。

 カマタリは腕を組んで傍観することに決め込んだ。


またコマチが歌を詠み始める。

 おろかなる 涙ぞ袖に 玉は成す

   我は(せき)あへず たぎつ瀬なれば


  『激瀬(たぎつせ)!』

足元の水が竜巻の様にウネリながら盗賊どもを薙ぎ払って行った。


「勝負ありだな。そろそろ行こうか」

カマタリは腕を下ろした。

コマチとゴンは振り返ると微笑んだ。


 鈴鹿峠。日本の西と東の分岐点である。

コマチの話では、そこに倭姫(ヤマトヒメ)は居られるという。


 険しい山々の手前の森に白木でできた砦の様な建物が見えてきた。

外壁は朱の紋様で彩られている。

 あれが倭姫(ヤマトヒメ)の神殿か。

妙な事に、この神殿には門が見当たらない。これでは内部に入るには翼が必要ではないか?


 「…なるほど、そういう事か」

倭姫(ヤマトヒメ)もまた自分と同じという事だ。


 倭姫(ヤマトヒメ)は垂仁天皇の皇女であり大日孁尊(オオヒルメのミコト)の神を祀る古代の皇族の姫と聞く。

 垂仁天皇は在位期間九十九年間。百四十歳で崩御したと言われる。 超人的な人物である。

 (※ 大日孁尊(オオヒルメのミコト):天照大神の事)


 もし倭姫(ヤマトヒメ)が生きておられたら数百歳を超える。

(おそらく自分と同じく人間ではあるまい…)

カマタリは白く輝く神殿を見上げた。

 「待たれよ」

いきなり覆面をした黒装束の男女に囲まれた。警護のサエキ(※遮る者、下級兵士)であろうか…いや

 鬼?!

黒装束に刀を背負っているが、こいつらはまぎれもなく鬼人だ。

(なるほど倭姫(ヤマトヒメ)は鬼人も使うのか…)


 「貴様、何者だ。人間では無かろう」

黒装束の頭目らしき鬼が金色に光る瞳を向けて来た。


 ほう、俺が天魔なのを見破るか。なかなか優秀な門番だな。

「俺は鹿島の中臣(なかつおみ)カマタリだ。倭姫(ヤマトヒメ)様のお招きにより参った」


 いきなり倭姫(ヤマトヒメ)の名前を出されて黒装束の鬼たちが一瞬どよめいた。


「さて、入り口はどこだい?」

カマタリは砦の様な神殿に近づくが入り口が見当たらない。


 「動くな!」

黒装束の鬼の一人が背後から短剣を投げ付けたが、カマタリは振り返りもせずにヒョイと短剣をつかんだ。


一斉に鬼たちはカマタリの周囲を取り囲み抜刀する。


 「おい、こりゃどういう事だ?」

カマタリが呆れ顔で振り返るとコマチはニコニコとこちらを見ている。

(このガキんちょめ、楽しんでいやがるな)


 やれやれ…カマタリは帯に挟んだ鎌をいきなり空に放り投げると、鎌は高速で回転しながら左右に飛び回った。

 鬼たちがとっさ飛び退くところをカマタリはスタスタと鬼の頭目の目の前まで進み出る。

 鬼の頭目は驚いて刀を構えたがカマタリに腕を捉えられて動けない。

 鬼の頭目は火を吐こうと牙を剥いた瞬間、カマタリに顎を押し上げられ、首にピタリと鎌を押し付けられた。

いつの間にか空中に飛び回っていた鎌を手にしていたのだ。

 全て計算されていたのか!

鬼たちは驚愕した。


「そこまでですカマタリ」


 目を向ければ砦の壁に黒い穴が開き、そこから髪を結いきらびやかな裳をまとった美女が現れた。

 「ほう…」

あまりの美しさにカマタリも息を飲んだ。


 「あなたが倭姫(ヤマトヒメ)か?」


 「違いまする」

コマチが女性の隣に着いた。


「このお方が額田王(ぬかたのおおきみ)さまにございます」


額田王(ぬかたのおおきみ)?」


「最強の言霊を使われるお方です」


「言霊?」


ゾッとするほど美しい瞳がカマタリの姿を映していた。


〜36「鎌足」〜 完



 (=φωφ=)あとがき。

いきなり飛鳥時代に話が飛びました。

いったいどうなるんでしょうね(考えてない)


 >ゴンさん

柳生十兵衛は三厳(みつよし)、柳生石舟斎は宗厳(むねよし)と読むのですが、石舟斎の「兵法百首」では宗厳(そうごん)と自称していたので、先祖の名前は『ゴン』さんにしました。

 ちなみに中臣鎌足が鹿島神宮を奈良に迎えたのが春日大社で、その春日の(そま)の土豪が柳生氏です。

 十兵衛さん、じつはカマ様の関係者でした。

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