33 不器用くん
【登場人物】
小野タスク
なぜか魔王と呼ばれる地味で平凡で貧弱な高校生。
悪霊を斬る霊剣『韴霊剣』を目覚めさせる能力がある。
コマチ(小野小町)
平安時代の鬼退治師であり和歌の言霊を操り自由に時空間を変化させ、炎や水を操る能力を持つ少女。
・パンツを履くという概念が無い
猟師コマチ(チビ助)
鬼と戦う少女。蝦夷風の装束を身にまとい半弓と毒薬を使う。
・パンツを履くという概念が無い
柳生十兵衛 平 三厳 (ミツヨシさん)
なぜかタスクの家でお手伝いさんをしている剣豪。
鈴鹿御前の霊刀『小通連』に片目を食われた。
餓鬼阿弥とテルテ
男女の熾燃餓鬼。鬼の身体能力を持ち、炎の属性魔術を使う魔界の武士
鈴鹿御前(立烏帽子)
第六天魔王の一人。リアル魔王
三振の霊剣を持つと言われる。
タカムラ(小野篁)
コマチの父。
地獄の高官であり自由に地獄と現世を行き来でき、強力な呪術を使う。
お供に降魔の化け猫(この子猫の子)を連れている。
川崎カヲル
年齢不詳の女性民族学者。
裏山の古墳を発掘するため移住して来てそのまま学校の司書になった変人。
・南軍流剣術の宗家である。
「うるさい!お前など鬼に食われてしまえ!タスクのバーカ!バーカ!」
チビ助はありったけのボギャ貧な罵詈雑言を俺に浴びせながら古墳の坂道を駆け上がって消えた。
ホントにガキんちょのケンカみたいだな。
しかし俺がコマチとの神婚を拒否したから、コマチは別な男に抱かれ、悪魔の生け贄になっているという意味なのか?……どういう意味だ?
あの日からずっとコマチに会っていない。
もうすでに別な男の所に嫁に行ってしまったというのか。
いや、それなら悪魔の生け贄という意味が分からない。
だけどコマチが俺の前から去ってしまったことは理解した。
コマチといっしょに居た日常はもう二度と戻って来ないのか。
なんか一気に気が抜けてしまった。
足取りも重く裏山の坂道を登る。
「あ…」
坂道の上を見るとコマチが居た!
コマチの前に駆け寄ると、コマチはいつもの大きな瞳でこちらを見ていた。
何を言えばいいのか分からない。
…もう誰かと結婚してしまったのだろうか? 悪魔の生贄って何だ?
チビ助の言っていた言葉が出かかる。
だが聞けなかった。
二人で見つめ合っていたがコマチはクルリと背を向けて神社に向かって歩き出した。
考えてみたら俺は今までコマチの話を何も聞いたことがなかった。なぜもっと話をしなかったんだろう。
やはり声を掛けないと…
「……なあ」
「何だ」
いつものコマチの調子で返事がくる。
「あのさ、今までどこに居たんだ?」
「仕事だ」
「宮廷の巫女の?」
「そうだ、次の女孺に儀式の引き継ぎがある」
「引き継ぎ?」
「男に抱かれてしまうともう巫女の御役目はできなくなるからな」
「ぶっ!抱かれるって…」
「時間が無いのじゃ」
思わず立ち止まってしまったが、コマチはかまわず神社に向かって歩いて行く。
時間が無い…
そういえばミツヨシさんも同じ事を言っていた。
「もうコマチ様には時間がありませぬ」
どういう意味だ?…
神社にはカヲルさんとミツヨシさんとコマチ、そしてなぜか御前さまが仲良くコーヒーを飲んでいる。
何をやってるんだあの最高神は?
御前さまが手招きする
「お前も一服しろ」
というかコーヒー飲んでる場合じゃないんだけど…
「御前さまの仰せだ、参ろう主人」
餓鬼阿弥とテルテが姿を現した。
姿を隠して居たのか!
餓鬼阿弥がコーヒーを渡してくれる。
「あ、ありがとう」
餓鬼阿弥とテルテは無言でうなずいた。
まるで友人みたいだ。
彼らが居てくれてよかった。
カヲルさんとミツヨシさんはベタベタのラブラブである。
未成年の前で何をやってるんでしょうかね。ウチの師匠たちは。
御前さまがコーヒーをフーフーしながらカヲルさんに言う。
「お前たち、報告があるのではないか」
報告?何だろう?
カヲルさんはモジモジしながら言いだす。
「あのねえタスクくん」
「は?はい?」
「じつは赤ちゃんができちゃったのお」
カヲルさんがキラキラしている。
ブッ!とコーヒーを吹き出した。
正面に居た餓鬼阿弥がコーヒーまみれになってしまった。すまぬ。
「かっ…カヲルさんが伝えたかった事って南軍流の極意じゃなかったんですか!」
「え?何それ?」
カヲルさんは素でキョトンとしている。
なんだそりゃああ〜
そうか、道場でやけにおとなしいと思っていたら、そういう事かあああ〜
マジで頭痛が痛いし。
「フッ…私は縁結びや安産祈願も受け付けているから安心いたせ」
御前さまがコーヒーをすすりながら言う。
「やだあ!御前さまったらあ!」
カヲルさんは御前さまの肩をバーンと叩くとコーヒーがこぼれた。
最高神を叩いていいのかねぇ…
というか御前さまって安産祈願まで手広く事業拡大してたのか。
「名前は何にしたい〜ねぇダーリン」
「そうでござるのなあ〜又八郎などはいかがでござるか?」
「いや〜ん、女の子がイイ〜い」
あ〜頭痛が痛いし…
「タスクどの、鎌を使ってみられよ」
ミツヨシさんに言われて鎌を開く。
「投げてみられよ」
「飛べ!フツノミタマ」
鎌はブーメランになって手元に戻って来る。
「それを素早く切り返せますかな」
あのキツネ仮面が使っていた技か。
もう一度投げるがやはり変わらない。ある程度の操作はできるが、ふつうのブーメランだ。とてもあの様な素早い軌道変化はできそうに無い。
「カヲルどの、鎖鎌をお貸し下され」
「いいわよ〜ちょっと待っててえ」
カヲルさんはいつものリュックをゴソゴソかき回す。
持ち歩いてるんかい!
教育者としてどうなのかと今さら思うが。
ミツヨシさんは横に張り出した木の枝の上に拳ほどの石を乗せると、そのまま後ろに下がり、大きな御神木の裏に回った。
?何をする気だろう?
ミツヨシさんは鎖鎌の分銅鎖をヒュンヒュンと振り回して立木に向かって投げ付ける。
すると、分銅は手前の御神木をすり抜けて、奥の石ころをパチン!と弾き落とした。
すごい!
何か操作したのだろうけど分からない。すごく自然にカーブした!
ミツヨシさんはもう一度石を枝の上に乗せる。
「タスクどの、鎌で落とされよ」
俺は御神木の裏から石を狙って、おもいっきり鎌を投げるが、鎌は御神木に突き刺さった。
あちゃ〜
「我が家の御神木を傷つけるとは天罰をくださねばならぬな」
御前さまがコーヒーをすすりながら怖い事を言う。
やめてください。
「タスクう〜!それじゃただ漠然と投げてるだけじゃん!残心が足りない!」
「え?残心?残心って形稽古の最後にやる構えじゃないの?」
「残心は構えじゃないよお、『位』取りだよお」
「え?位取りって…構えの事じゃ無いんすか?」
「心の形が気勢になって太刀の形に現れたのが『位』取りだよお。心法の現れた形が『位』であり残心なのさ」
あ、なるほど。ただ漠然と構えただけでは『位』にならないのか。
「じゃあ鎌ブーメランの場合はどうなるんです?」
「たとえば手裏剣は投げる前から剣を押さえて投げるしい、印字※は投げる前から手を離すわ。心気は相手を狙いながら身体は剣を遣うのさ」
「あ…なるほど!気持ちは相手から離さず、身体は気持ちとは別に使うのか!」ちょっとヒラメいた。
(※印字:投石。紐を回して石を飛ばす、いわゆるスリングショット)
「そう。投げる前も、投げてる最中も、飛ばした後も心持ちは同じなのさ。アンタはただブンブン投げてただけじゃん!」
う!…言われてみれば、ただ飛ばしていただけの気がする。
「意識が途切れてるのよ。投げる前から投げ終わった後まで同じ心法なの。その形が変化しただけ」
「同じ心法って?」
「それが無心であり彼我一体でござるな」
ミツヨシさんが話を引き継いだ。
「彼我一体」
「タスクどの、相手から心を離してはなりませぬ。手字手裏剣は身も心も相手に向けて、ただ一剣を働かせるのでござる。剣から心を離さず。心は剣を離れて剣と一体、自由自在となる。できますかな?」
心は剣を離れて剣と一体となる…あ…有無一剣かな?
そうだ、剣理を忘れていた。鎌もブーメランも同じ剣理、同じ心法、同じ剣なんだ。
もう一度鎌を構える。
鎌と一体、相手と一体、心を離して自由自在
いろいろ考えながら鎌を投げたが、スルリとすっぽ抜けてフラフラと飛ぶ。
「あ…」
あちゃ〜失敗した。
ふと見ればミツヨシさんとカヲルさんはこちらをジッと見ている。
あ!しまった!失敗したからと言って鎌から心を離してしまった。
あわてて鎌に向けて気合いを入れるが鎌はヨロヨロと戻ってくる。
「鎌との縁が切れましたな」
「はい…」
ダメだ難しい。コントロールしようと意識するほどダメになる。
「意識が偏り過ぎですな。鎌に心が偏れば腕は足りず、腕に心が偏れば心は敵から離れる」
「どうすれば良いんでしょう?やはり回数をこなさないと無理なのでは?」
「鍛錬だけではムリでござる。よくよく吟味いたさねば」
「吟味?」
「よく味わい判別すると申す事にござる」
「タスク、これをごらん」
カヲルさんが100円玉を指の先に乗せている。
何だ?
カヲルさんが手を傾けるが100円玉はなかなか落ちない。
ユラユラと揺れながら指先から落ちない。
100円玉の動きを見れば貼り付けたワケでは無さそうだ。
「やってみそぴ〜」
カヲルさんは100円玉を投げ渡す。
100円玉を指先に乗せて傾けるとポロリと落ちた。
あれ?意外と難しい。
「今度はこっちね」
板の上に何個かのドングリが乗せてある。
「板を動かして、このドングリ一個だけ動かしてごらん」
カヲルさんが板をゆらすと一つだけドングリがコロコロ転がり回る。
へえ〜と思いつつ、やってみるといきなりドングリをぶちまけてしまった。
「んもう!無器用くんねえ」
トホホ…
「これって武道の練習になるんすか?」
「意識的な無意識の操作の訓練かな」
「無意識?」
「人間って案外無意識に動いてるもんよ。例えば雨の中、傘を持とうと考えなくても傘を持ち続けるとか、自転車に乗っても勝手にバランス取るとか。
本来なら操作できないはずのものを意識的に操作するには、無意識的な意識操作を訓練する必要があるワケなのさ」
「無意識的な意識操作の訓練。なんか難しいんすけど」
「単純に、集中力を具体化する練習だと考えてかまわないわ」
集中力の具体化。
なるほど、飛んでる鎌を操作するための基礎訓練か。
なんだかんだ言ってもカヲルさんとミツヨシさんのアイデアと知識はすごい。
「こういうイメトレなら一人で練習できるでしょ。ん〜あとはコレとか」カヲルさんは今度はヒモにぶら下げた50円玉を取り出す。
「催眠術?」
「ダウジングよお」
ダウジング
ヨーロッパでは古くから水脈や水道工事、鉱脈探しの方法として木の枝を無意識に動かす事でその反応の変化を見て占ってきた。
占いとしても用いられる。
カヲルさんが指先の糸の長さを調節すると50円玉はクルクルと回転するスピードが変わる。
「占いもできるのよお、生まれて来る赤ちゃんは女の子。YESなら右回転、NOなら左回転」50円玉はクルクルと左に回った。
「いや〜ん、女の子がイイ〜い」
…何やってんだこの人は
「あ〜タスク!お前疑っておるな!よし!タスクの恋愛運も占ってやるぞ!」
「いや、いいっす」
カヲルさんはイヒヒとアホっぽく笑いながらダウジングを始める。
「タスクはコマチさんに惚れているYESなら右回転、NOなら左回転」
コインはクルクルと右に回った。
「ほら!当たった!」
「いや、ちょ!何やってんすか!」
前言撤回。
やっぱ遊んでるだけだは、この人。
「どれどれ、コマチさんも占ってあげるわね!コマチさんはタスクの彼女になりたい。YESなら右回転、NOなら左回転」
コインはクルクルと左に回った。
「あら?」カヲルさんの手が止まった。
え?
チラッとコマチを見たが、コマチはコーヒーを持ったままうつむいている。
十兵衛も目線を伏せる。
しばらくしてコマチは目線を落としたままつぶやいた。
「カヲルどの、赤子を身ごもるとは、どのような気持ちだ?」
「え?幸せに決まってるじゃなあい」
「それが魔物の子でもか?」
カヲルさんが飛び上がって驚いた。
「ちょ!ちょっとそれどういう意味なの?」
魔物の子をコマチが身ごもる…だって…
〜33「不器用くん」〜 完
(=φωφ=)あとがき。
はい、スポ根剣道小説必須のいつものトンデモ特訓回です。
今回の剣術の秘密特訓は……ダウジングです!(なんでやねん)
>カヲルどの妊娠。
作者も知らん間に四鬼の襲撃から数ヶ月も過ぎていたようです。
設定ガバガバですな。




