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27 巨獣!鼠頭牛首

【登場人物】

 小野タスク

地味で平凡で貧弱な高校生。

悪霊を斬る霊剣『韴霊剣(ふつのみたまのつるぎ)』を目覚めさせる能力がある。


 コマチ(小野小町)

平安時代の鬼退治師であり和歌の言霊を操り自由に時空間を変化させ、炎や水を操る能力を持つ少女。

・パンツを履くという概念が無い


 猟師コマチ(チビ助)

鬼と戦う少女。蝦夷風の装束を身にまとい半弓と毒薬を使う。

・パンツを履くという概念が無い


 柳生十兵衛 三厳 (ミツヨシさん)

なぜかタスクの家でお手伝いさんをしている剣豪。

鈴鹿御前の霊刀『小通連(しょうとうれん)』に片目を食われた。


 餓鬼阿弥とテルテ

男女の熾燃餓鬼(しねんがき)。鬼の身体能力を持ち、炎の属性魔術を使う魔界の武士(もののふ)


 立烏帽子(鈴鹿御前)

第六天魔王の一人。リアル魔王

魔王軍随一の女性剣士である。


 タカムラ(小野篁)

コマチの父。

地獄の高官であり自由に地獄と現世を行き来でき、強力な呪術を使う。

お供に降魔の化け猫(この子猫の子)を連れている。


 川崎カヲル

年齢不詳の女性民族学者。

裏山の古墳を発掘するため移住して来てそのまま学校の司書になった変人。

・南軍流剣術の宗家で、タスクの師匠である。


 妖怪婆さん

三途の河原に住む婆さん。

強力な呪術が使え、鈴鹿御前の使いをしている。

顔半分にドス黒い地獄の虫がうごめいている。


 小野忠明

なぜか修羅道に住む手加減無用の剣豪。

タスクの師匠の一人でもあるが、修羅や鬼より怖い。


『鼠頭牛首(そとうごしゅ)』とは大小に姿を変化できる巨大怪獣だ。

ふだんは森に潜んでおり、

静かなる時は深い淵のごとく深く静かに身を隠し

攻撃する時は巨大な身体で大波のごとく押し寄せるのだっ!


婆さんの話をまとめるとそういう事らしい。


「というか巨大怪獣なの…?」


「だがネズミのように小さい」


どっちやねん!


まぁ、とりあえずこのカマの刃で切りさえすれば、どんな巨大な怪物でも一撃で倒せるのだから的(まと)が大きければ狙いやすい。

それに小さい時はネズミぐらいの大きさならどうにかなるだろ。

俺はノープランのまま山に分け入った。


森を進むといきなりその怪物は現れた。

白い牛みたいな頭、そこには巨大なツノが生え、身体は丸くモコモコした巨大ネズミみたいだ。足は数本あり、大きさは二階建ての家ぐらいある。

以前アニメで観た牛鬼みたいな巨大怪物だ。


鼠頭牛首(そとうごしゅ)がこちらに気づくとグモ〜!と牛のような鳴き声を上げて進んで来た。森の木々がバキバキとなぎ倒される。

マジで怪獣やん!!

こんなのとどう戦えばいいんだっ!

俺は一目散(いちもくさん)に逃げた。


…いやまて、走りながら考えてみれば、これだけ大きいならてきとうにブーメランを投げれば当たるんじゃないかな!

 走りながら前方に向かってカマを投げる。

「飛べ!フツのミタマ!」

 カマはブーメランのように曲線軌道を描いて背後に飛んで行く。あとはこちらの思念誘導で自由に飛び回るはずだ!


カマは木々を薙(なぎ)倒し、岩を砕き飛び回る。すごい!やはり畜生界のような思念世界では現実世界よりも威力が増大している。これなら一撃で勝てる!……あれ?

振り向くと鼠頭牛首(そとうごしゅ)は消えてブーメランだけがむなしくクルクルと飛び回っていた。


「消えた?…」

そんなバカな。あの巨体が?

とりあえず鎌をパシっ!とキャッチして周囲を見回す。

 どこかに隠れているなら岩や木ごと薙ぎ払った方がいいか?…いや森ごと切り払うか。


 森に向かってもう一度カマを投げる。

森の木々は吹き飛ばされなぎ倒される。

無数の鳥や小動物が森から飛び出して逃げ回る。

…なんか悪いことしてる気はするがかんべんしてくれ。ブーメラン鎌をキャッチして、また別方向へ投げる。

 あの巨体ならそのうち当たるんじゃないかな。などと、てきとうに考えていた。


 ふと見れば、逃げ回る小動物に混じり、こちらに向かってチョロチョロと小さなネズミのような動物が走って来るのが見える。

 ん?…

 小動物は俺の足に飛び付くと、いきなり巨大な怪物に変わって俺の足にかみつき、咥えたまま左右にブンブン振り回した。

身体は宙に浮き、左右に振り回される。


「うぎゃあああ!痛い!痛い!死ぬ!死ぬ!死ぬ!」

十メートルぐらいの高さがある。地面に叩きつけられたら終わりだ!

「戻れ!フツのミタマ!」

 カマが回転しながら戻って来たが、ダメだ!こんなに振り回されては上も下も分からない。カマが受け取れない。


「バカ者!さっさと自分の足を切り落とさぬか!」

そんな事できるワケないでしょ!…って誰?


鼠頭牛首(そとうごしゅ)はボリボリと俺の足を噛みつぶしはじめた。

「うぎゃあああ!痛い!痛い!マジで痛い!」やっぱりさっきのアドバイスを聞いて足を切り落としておけば良かった!今さら遅いけど!


 鼠頭牛首(そとうごしゅ)がひときわ高く首を持ち上げると俺の身体は空中に飛び上がった。

(地面に叩きつける気だ!)

やはり足を切り落とししかない。

「戻れ!フツのミタマ!」


とは叫ぶがカマはどこを飛んでいるのかすら分からない。

グン!と身体が引っ張られ身体が下向きに降下していくのを感じた

 あ…地面が見えた。死んだ…


と、思った瞬間、鼠頭牛首(そとうごしゅ)の首が切り飛ばされ、俺は空中に放り出されて薮(やぶ)の中に突っ込んだ。

鼠頭牛首(そとうごしゅ)の胴体はズズン!と音をたてて倒れていた。


「痛たた…」薮(やぶ)から這(は)い出て見ればすでに鼠頭牛首(そとうごしゅ)は退治されていた。


「痛いのは生きてる証(あかし)じゃ!大タワケが!」


…この怒鳴(どなり)声。

誰かと思えば小野忠明先生である。

鼠頭牛首(そとうごしゅ)の巨体の横で刀を拭っている。

どうやら一太刀であの巨大怪獣を倒してしまったようだ。この人もたいがい怪物だと思う。

というか修羅界に居た小野忠明先生がなぜこの畜生道に?


「先生は修羅世界の住人ではなかったんですか?」


「ふん、あれは善鬼坊が修羅道に堕(おち)たゆえ、遊びに行っておるだけじゃ」


へえ、案外優しいんだな、ちょっと意外。

「そういえば善鬼坊さんは?」


「善鬼坊は修羅なので修羅道からは出れぬ」


「先生って修羅では無かったんですか?」


「バカを申すな、ワシは修羅や鬼では無い」


……そうかなあ…


「次は助けてやらぬぞ、準備しろ」


え?何を?


そう言い残すと小野忠明先生は妖怪婆さんと二人で消えてしまった。

「え!ちょっと!」

俺一人が畜生界に残された。

やっぱあの人鬼だ!


その時、死んでいたはずの鼠頭牛首(そとうごしゅ)の巨体がムクリと起きて重い声で吠(ほ)える。

 なぬっ?!

ズズっと起き上がるとネズミのような頭に変わっていた。

えええ?頭が二つあるのか?!


逃げようとしたが足がシビれて動かない。

夢の世界とはいえ骨は砕けて魂にダメージが残っているのだ。


ダメだ、こうなったら自力で鼠頭牛首(そとうごしゅ)と戦って倒すしか無い。

 だが鎌で倒すのはムリだ、

ならば先ほどの小野忠明先生みたいに、怪物がこちらに近づいたところを剣で斬ればいいはず。

よし!決まりだ!


 有るは無く…

 無きは数添う 世の中に

 あわれいづれの日まで嘆かん

  『有無一剣!』

鎌がフツのミタマの剣(ツルギ)に変形する。

この霊剣に斬られた鬼や妖怪は一撃で成仏する。


鼠頭牛首(そとうごしゅ)がこちらに迫って来る。

俺は剣を構え………あれ?


 (消えた??)

今ここにいた鼠頭牛首(そとうごしゅ)が目の前から消えた…。


左右を見回しても森を見てもどこにも居ない。

まさか!と思って足元を見るとネズミのような小動物がササササッとこちらに向かって来る。

 うわあああ!!

あわてて飛び退きながら剣を振り下ろそうとした瞬間、巨大な怪物が目の前いっぱいに広がった!

俺は剣を振りかぶったまま固まってしまった。


鼠頭牛首(そとうごしゅ)はいきなり上から俺の両手に食らいつき腕を噛みちぎった。

「うぎゃあああ!」

両腕はもぎ取られ有無一剣が地面に落ちた。

 (しまった!)


鼠頭牛首(そとうごしゅ)の身体からさらにもう一つの牛の首が現れ、俺の足に食らいつきガブガブと下半身まで飲み込む。

 ぶほっ!

腹が潰されて口や鼻から真っ赤な血反吐(ちへど)が噴き出る。

 (死ぬ…)

今度はネズミ頭の尖った歯が俺の首にザクリ!と食い付いた。

ゴリっと首の折れる音がした。目の前が暗くなり激しい痛みが走り胴体の感覚が無くなった。

 (もうダメだ…)


   『恋火(こひ)』

言霊の声が響いて鼠頭牛首(そとうごしゅ)の全身が炎に包まれる。

 コマチか!来てくれたのか!

炎は俺の身体を素通りして鼠頭牛首(そとうごしゅ)の胴体を焼き尽くし、たちまち灰となり崩れて飛散するのが見えた。


   『衣の関』


落下する俺のボロボロの身体をベッドの様なバリヤが受け止めた。

フワリと誰かが抱き寄せてくる。

うっすら目を開けると長い黒髪の十二単衣(じゅうにひとえ)を着た女性だった。

あの香(こう)の香りがする。

かすかに彼女の横顔が見えた。

 (コマチ…)

そのまま気を失ったようだ。



 夕暮れの司書室。壁には奇妙な仮面やら日本刀やらが掛かっているのが見えた。

 そうか、あれからずっと寝ていたのか…

ゆっくり起き上がろうと思ったが身体が動かない。

夢の中で魂が鼠頭牛首(そとうごしゅ)に全身を噛み砕かれたためだ。

「痛つっ…」

激痛が全身を走った。


誰かがそっと俺の身体を抱き寄せた。

ふと見れば横にはコマチが俺を抱きかかえてくれていた。

その目はいつもの元気さが無かった。

 ずっと俺を見守っていたのか…

「ありがとう…」

そうつぶやくと、コマチの大きな瞳からボロボロと涙があふれてくるのが見えた。

コマチの腕にそっと手を添えると、コマチは俺の肩に顔を押し付けてくる。

柔らかな髪が頬をなで、シャツに冷たい涙がにじんで来たのを感じる。

不思議だな。いつもケンカばかりしてるのに、不思議だな…

まるで恋人というより…


コマチの着ている巫女装束からは淡い香(こう)の香りがした。


この香りは……

……そうか…


窓の夕陽が暮れようとしていた。




〜27 「巨獣!鼠頭牛首」〜 完



 (=φωφ=)あとがき。

ようやく今回、十二単衣の女性のが誰なのか判明します。

ではなぜ彼女は正体を明かさないのか?

それはまだ謎という事で。


 > 鼠頭牛首

これはじつは怪獣の名前ではなく宮本武蔵の教えですね。

「鼠頭牛首」とて大小に関わる事〜〜また一滴となり蒼海となるもまたこの義なり。袖中蔵日月 掌内握乾坤、これ流儀の鼠頭牛首の心なり。


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