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25 隠形鬼

【登場人物】

 小野タスク

地味で平凡で貧弱な高校生。

悪霊を斬る霊剣『韴霊剣(ふつのみたまのつるぎ)』を目覚めさせる能力がある。


 コマチ(小野小町)

平安時代の鬼退治師であり和歌の言霊を操り自由に時空間を変化させ、炎や水を操る能力を持つ少女。

・パンツを履くという概念が無い


 猟師コマチ(チビ助)

鬼と戦う少女。蝦夷風の装束を身にまとい半弓と毒薬を使う。

・パンツを履くという概念が無い


 柳生十兵衛 平 三厳 (ミツヨシさん)

山奥で修行中になぜか現代に召喚されてしまい、なぜかタスクの家でお手伝いさんをしている剣豪。

鈴鹿御前の霊刀『小通連(しょうとうれん)』に片目を食われた。


餓鬼阿弥とテルテ

男女の熾燃餓鬼(しねんがき)。鬼の身体能力を持ち、炎の属性魔術を使う魔界の武士(もののふ)


 立烏帽子(鈴鹿御前)

第六天魔王の一人。リアル魔王

魔王軍随一の女性剣士である。


 タカムラ(小野篁)

コマチの父。

地獄の高官であり自由に地獄と現世を行き来でき、強力な呪術を使う。

お供に降魔の化け猫(この子猫の子)を連れている。


 川崎カヲル

年齢不詳の女性民族学者。

裏山の古墳を発掘するため移住して来てそのまま学校の司書になった変人。

・南軍流剣術の宗家である。


 犬山、猿田、鳥飼

三年生のちょいワル三人組。


 餓鬼たちは路地裏へ散って行った。

逃すわけにはいかない。

追いかけて路地裏に入る。

 古びた民家の壁と工場のコンクリートの万年塀(まんねんべい)に挟まれた路地の奥。

鬼はいない。

さらに深くに入ると雑草がまばらな薄暗い路地の奥には見慣れた制服の女子がうずくまっていた。ウチの生徒だ。

鬼に襲われたて逃げ込んだのだろうか、制服もスカートもボロボロで肌が露出し下着まで見えていた。

警察を呼ぶべきか?ここに放置するわけにはいかない。


「だいじょぶ?」と声をかけてみる。彼女が顔を上げて見ると驚いた、学校一の美少女のマキさんだった。

「わあっ」と泣きながらマキさんは俺に抱きついてきた。

思わず抱きとめると破れた制服の隙間に手が入り、直接肌に触れてしまった。

あ!ヤバい!あわてて肩に手を回す。


あ、あ、あ…この髪、この香り、この抱きごこち、何という柔らかさ。自分が求めていた少女像とはまさにこれではないか!


「小野!そっちはどうだ!」塀の向こうから犬山さんたちの声が聞こえる。

「あ!こっちです犬山さん!こっちに人が……」

あれ?居ない?

マキさんの姿が消えていた。

そうだよな、あんな姿を学校の生徒たちに見せられないよな。

いつもガサツで乱暴な美少女といっしょに居るせいで、ふつうの美少女の乙女心に気がつかなかった。

マキさんに逃げられた事でなんかものすごく後悔した。ものすごく後悔した!


街中に戻ってみるとパトカーや救急車が来ている。マジで大事件だなこれは。


反対車線を見ればカヲルさんがバイクの横でミツヨシさんに腕を組んでジャレついている。

ミツヨシさんはまんざらでもなくニヤけている。

何やってんだ?あの人たちは。


ふと見上げれば餓鬼阿弥たちが屋根の上に居るのが見えた。あの二人が姿を現すという事は鬼退治は終わったという事だろう。

俺に姿を見せると、二人はスッと姿を消した。コマチが使った春雨の『音無し』とか言う言霊の術か。


思えば不思議だよな、あの二人や犬山さんの仲間たちといっしょに、こうして戦う日が来るだなんて。


ようやく帰宅するとすでにチビ助がおばあちゃんと仲良くメシを食っていた。

ミツヨシさんが居ない…やはりカヲルさんに捕食されたか?やれやれ。


「そういえばコマチは戻って来なかったな」


食卓で晩飯を食っていたチビ助が言う

「アヤツは父(とと)さまのケガのお清めをしている」


「お前、「アヤツ」って自分を他人みたいに」


「だってタスクはいつもアイツの話ばかりしているし」

ははあ〜コイツ、自分にヤキモチ妬(や)いているのか。しょうがねぇな。


「というかお前の親父さんは病気だったのか?」


「ちがう。先ほどの鬼どもに襲われて深傷(ふかで)を負ったが、鬼の傷ゆえ巫女の祓(はら)い清めが必要なのじゃ」


コマチの親父さんもあの現場に来て戦ってたのか。

というかコマチの父親より強い鬼………考えもつかない。

そんな相手に俺は勝てるのだろうか?


「コマチちゃんはお父さんといっしょに居なくていいの?」

母さんが心配そうに言う


「かまわぬ。刀傷や矢傷など蝦夷(えみし)の砦(とりで)ではよくある」

そう言いながらチビ助はビールをあおった。

 母さんたちは目を丸くしていた。まぁそりゃそうだよな。


酔っ払ったチビを寝かせると、俺は床に寝転ぶ。

しかしチビ助のヤツ、父親に対してずいぶん薄情だな。ひょっとして父親が嫌いなのかな?

窓の外を見れば三日月が見え、チビ助のイビキが聞こえる。

しかしまるで我が家に居るみたいに無防備だな。とても鬼と戦っている人たちとは思えない。

チビ助がこの家に住み着いているのも安心して甘えられる場所だからじゃないかな?…何となくそんな気がする。


しかし何で俺ん家なんだ?

そういえば地獄の婆さんや善鬼坊さんは俺のことを将軍と呼ぶ。

どういう意味なんだろう?

考えながらいつのまにか寝てしまった。


朝起きるとやはりチビ助のヤツが布団の中でいっしょに寝ていた。

「コラ!毎回何考えてんだお前は!」


「おいタスク」急にチビ助が真剣になった。


「何だよ?」


「お前、鬼の臭いがしたぞ」


「鬼?…そりゃ昨夜(ゆうべ)は餓鬼と戦ってたんだし」


「いや違う、餓鬼などではない。本物の悪鬼の臭いだ」


「本物の鬼?」


「お前、鬼に魅入(みい)られたな」


「?………」


そう言うと黒い穴が勝手に開いたのでチビ助はサッサと帰ってしまった。

 不思議なのはチビ助が言霊を使っている気配が無い事だ。というかアイツが言霊を使えるとは思えない。

ひょっとして以前見たタカムラという猫を連れた人がチビ助をこの世界に行き来させているのだろうか?なぜだ!


しかし…鬼に魅入(みい)られたって…どういう意味だ?

あまりにチビ助が真剣に言うのが少し気がかりだった。


 朝の司書室。

今朝もコマチは戻って来なかった。

そんなに父親の具合が悪いのだろうか?

コマチが居ないとこの部屋も何か寂しく感じるな。


 カヲルさんはなぜかご機嫌でルンルンである。そういやミツヨシさんもあの後帰って来なかったな。まぁそれはいいけど。

 ふと見れば壁に掛けてあった日本刀が無い。

カヲルさんの話では「刀は研ぎに出したのよ〜ん」とか。

いつまた再び鬼が現れないとは限らないからな、まさか「あの刀」が町内の平和と安全を守る切り札になるとはね。


「あれだけの大事件なのにテレビにもネットにも出てこないけど、あの鬼の大群はやはり御前のしわざなんですかね?」


「私はそのような事はせぬ」

ん?だれ?……うわっ!

振り返ると花魁(おいらん)みたいなキンキラキンの和服を着た鈴鹿御前が横でコーヒーを飲んでいた。

しかしこの最高神はなんで毎回衣装が違うんだ?

いつの間にか餓鬼阿弥とテルテまで現れて部屋の隅っこでひかえている。

あの二人も姿を隠してこの部屋に居たのか!


恐る恐る御前さまに聞いてみる。

「ひょっとしてまた御前さまがみんなの記憶を消したんですか?」


「うむ、記憶を消したのは私だ、気が利くであろう」

鈴鹿御前はキンキラ衣装のままコーヒーをフーフーしている。


いや、知らぬ間に記憶改変させられるなんて、すごく怖いんですけど。


「鬼の出現も御前さまがやったんですか?」


「それは違うのう」


「じゃあ誰が?」


「アヤツらは地獄から勝手に出て来たのだ」


「ええ?あの異世界からどうやって??」


御前は一瞬顔を曇らせる

「チカタの手によってだな」

そう言うと御前は消えた。

あ、ちゃっかり砂糖を三本ほど持ち去っているし。


あれ?チカタというのはどこかで聞いたな。何だっけ?

「カヲルさん、チカタって知ってます?」


「藤原千方(ふじわらのちかた)かしら。鬼を操る魔人で太平記にも出てくるわねえ。天智天皇のころ藤原千方は四人の鬼を従えて朝廷に反乱を起こしたとか」


あ、思い出した。先日コマチが言ってた鬼のボスキャラの名前だ。

 そういやカヲルさんは兵書や軍記を読み込んでいるから太平記は当たり前に知っている。それ以外は全然ダメな古文講師だけど。


「藤原千方って太平記の時代の人なんですか?」


「違うわよお、天智天皇はもっと大昔よ。中臣鎌足と大化の改新を行った中大兄皇子の事よお」


「あ、大化の改新むしころすで645年ですね」


「平安時代初期のコマチさんよりさらに150年ぐらい古い時代の人ね。もっとも藤原氏の祖先が中臣鎌足だからあ、その時代に藤原千方が中臣鎌足と戦うのも変な話なんだけどお」


「中臣(なかとみ)と藤原が戦ったんですか?」


「『中臣(なかとみ)』とは「中(なか)つ臣(おみ)」つまり神と人との仲介をする者という意味ね。

さらに古代の雷大臣命 (いかつおみのみ)は神の声を聞き占いをして後世に中臣烏賊津 (なかとみのいかつ)と呼ばれてるから何か特殊な役目を負った人物かもねえ」


「中臣鎌足……カマタリ……あ、カマ様?」

俺は直感した。

ひょっとして藤原千方と戦っていたカマ様とは中臣鎌足のことではないか?


「カヲルさん!その中臣鎌足はどうやって四鬼(シキ)を倒したんですか!」


「藤原千方を討伐(とうばつ)したのはカマタリでは無いわ、紀朝雄(きのともお)の和歌により四鬼(シキ)は退散したと太平記にあるわ」


 和歌で四鬼(シキ)を倒した!


そうか、わかった。なぜコマチが和歌で戦っているのか。

なぜ御前さまが俺と鬼を戦わせたのか。

紀朝雄(きのともお)もまた言霊が使える戦士だったんだ。そして数百年後、同じ能力を使えるコマチがカマ様によって選ばれ神器を託された。

人間の武器が通じない四鬼の魔術と戦うために!


「小野小町(おののこまち)が鬼と戦っていた記録はあるんですか?」


「そんなものあるわけないじゃなあい」

 そりゃそうだよな。


「でも小町さんのひいお爺さんあたりは副将軍だったと聞くわねえ。彼女が武芸に達者(たっしゃ)なのは、そのせいかもねい」


「将軍!コマチのおじいさんも鬼と戦っていたんですか?」


「まさかあ、征夷副将軍、戦っていた相手は蝦夷(えみし)よ」


「蝦夷(えみし)?」


「東国の先住民族ね。

アイヌみたいな感じだけど、馬や蕨手刀や毒矢などの強力な武器も使うし、なかなか手強かったみたいね」


アイヌ?そういえばチビ助はアイヌみたいな服を着ていたな。

昨夜もチビ助が、父親たちと砦(とりで)で蝦夷(えみし)と戦っているみたいな言い方だった。


「コマチも蝦夷(えみし)と戦ってたんですか?」


「んん〜それは分からないわ、コマチさんのお父さんは嵯峨天皇に仕えた有名な貴族だし」


コマチの父親。

強力な魔術が使えるという親父さんか。

「やはり有名な魔術師だったんですか?」


「魔術師…そうねえ、小野篁(おののたかむら)は有名な歌人だけど地獄を行き来して閻魔大王に仕えたとか言われる人だからねえ」


小野タカムラ!

そうか!コマチの父親はタカムラだったのか!

地獄を行き来できコマチ以上の魔法が使える父親。

そしてチビ助が何か反発する父親。

あの魔法使いの人がそうだったのか。


教室に戻る途中、廊下の奥から歩いてくるマキさんを見つけた。

かわいい!さすが学園のアイドル。ひときわ目立つな。


「あ、昨日(きのう)は…」

と、声をかけたがマキさんは横目でチラッと俺を見ただけで歩調も変えず歩き去ってしまった。


何あのウザいモノを見る目は。

考えてみれば街中の人たちの記憶は全部鈴鹿御前さまが改変してしまったので、誰も俺の働きを覚えていないんだよな。

もちろんマキさんも俺のことを覚えていない。トホホのホ。


 夕方、カヲルさんの稽古が終わった帰り道。いつもの坂道を一人で帰る。

形稽古の技手付けに入ったので整理しながら薄暗くなった道を歩いていた。


「小野くん!」

いきなりマキさんに声をかけられた。

学園のアイドル的な存在のマキさんが俺に声をかけて来るのが驚きだった。


「昨日はありがとう、怖かったわ」

マキさんはいきなり俺に腕を組んでしなだれかかってきた。

なんだやっぱり俺のこと覚えていたのか。

ついデレっとなる。マキさんの長い髪が目の前にある。

あああっ、いい香りがする。

頭がクラクラする。

思わず気持ち良くなって宙に浮くような……

……あれ?変だな?たしか御前さまは全ての人の記憶を改変しているはずなんだけど、なぜマキさんは昨夜の事を覚えているんだ?

なんか少し…眠く…


「離れろ!タスク」

いきなり矢が飛んで来た。

マキさんの長い髪をかすめて、後方の樹木に矢が突き刺さる。

マキさんは後方をジロリとにらんだ。


この声、この矢はチビ助か?!


「キャッ!!小野くん助けて!怖い!」

マキさんが抱きついて来た。

美少女なら毎日飽きるほど見ているのだが、マキさんに抱きつかれると何かうれしい。

ニヤけながら思わず抱き返そうと…あれ?動けない。

ものすごい力でマキさんは俺に抱きついていて動けない、というか苦しい。痛い痛い痛い!折れるううう!

ミシミシと全身の骨がきしむ。


チビ助は弓を構えたまま怒鳴る。

「わらわという美少女がおりながら鬼に魅入(みい)られてしまうとは、このバカ者め!」


「え?鬼?マキさんが?」


マキさんの顔を見ると…別人?!

マキさんはいつの間にかヒラヒラした異国の衣装を身体に巻いたエキゾチックな顔立ちの美女に変わっている。


「だれ?!」


 いきなり背後から餓鬼阿弥とテルテが姿を現しすごいスピードで女に斬りつけて来るのが見えた。

 美女はグルリと首を後ろにねじると「ブッ!」と紫色の毒霧を吐き出す。


 餓鬼阿弥とテルテは、とっさに、左右に飛び別れる。毒霧を浴びたアスファルトの路面が、強烈な刺激臭と白煙を上げて溶け出した。

なんじゃこりゃあ!

 美女は俺を抱いたまま「ドン!」と空中へ飛び上がる。空が広がり家の屋根が足下に見えた。


「ええええ?!」


ズズン!と轟音を立てて女は着地する。衝撃でアスファルトがめくれた。

これは「鬼」か?!

さすがの俺も気づいた。


「何をしておるタスク!早くカマをつかえ!」チビ助が怒鳴る。

んな事言ったって…


美女は耳元まで裂けるような口を開くと

「カマとはこれの事かえ〜」と、俺のベルトからカマ様の神器を奪い取って見せる。


しまった!カマ様の神器を奪われた!


「バシッ!」

その時、女の腕に矢印形が三本突いた変な手裏剣が刺さる。

女の腕がゆるんだ瞬間、女をつき飛ばしてなんとか脱け出す。


「もどれ!フツのミタマ!」

手をかざすとカマ様の神器は女の手を弾き、飛び帰ってきた。

良かった!やはり戻って来た。


女の鬼はマントのようにヒラリと衣装を背後に回すとこちらに向かって身構えた。


振り返ると坂の向こうから刀の鍔を眼帯にしてエプロンを着けたミツヨシさんが歩いて来るのが見える。

「ミツヨシさ…」


「柳生十兵衛!」


「え?」

美女の顔がいきなり金色の毒蛇のような目に変わり、顔は真っ赤な醜い鬼の顔に変わる。

ぎょええええ?!

さっきまで抱き合っていたのは、この鬼だったんかい!


ミツヨシさんはスッと身を低くして脇差を抜き走り出すと、鬼はビュン!と飛び上がり空中で闇に消えた。


消えた?


脇差を納めながらミツヨシさんが近づいて来る。

「あれは隠形鬼(おんぎょうき)でござる。油断めさるなタスクどの」


「隠形鬼(おんぎょうき)?」


「人の心を喰う太古の魔物にござる」


太古の……魔物?



〜25 「隠形鬼」〜 完

 (=φωφ=)あとがき。

ようやく鬼との決戦が近づいてきましなねえ。


 > 矢印形が三本突いた変な手裏剣

柳生流の「三光」という手裏剣ですねぇ


 > 刀の鍔を眼帯に

まぁそうなりますわな。

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