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23 もう一人の将軍

【登場人物】

 小野タスク

地味で平凡で貧弱な高校生。

悪霊を斬る霊剣『韴霊剣(ふつのみたまのつるぎ)』を目覚めさせる能力がある。


 コマチ(小野小町)

平安時代の鬼退治師であり和歌の言霊を操り自由に時空間を変化させ、炎や水を操る能力を持つ少女。

・パンツを履くという概念が無い


 猟師コマチ(チビ助)

鬼と戦う少女。蝦夷風の装束を身にまとい半弓と毒薬を使う。

・パンツを履くという概念が無い


 柳生十兵衛 平 三厳 (ミツヨシさん)

山奥で修行中になぜか現代に召喚されてしまい、なぜかタスクの家でお手伝いさんをしている剣豪。

鈴鹿御前の霊刀『小通連(しょうとうれん)』に片目を食われた。


餓鬼阿弥とテルテ

男女の熾燃餓鬼(しねんがき)。鬼の身体能力を持ち、炎の属性魔術を使う魔界の武士(もののふ)


 立烏帽子(鈴鹿御前)

第六天魔王の一人。リアル魔王

魔王軍随一の女性剣士である。


 タカムラ(小野篁)

コマチの父。

地獄の高官であり自由に地獄と現世を行き来でき、強力な呪術を使う。

お供に降魔の化け猫(この子猫の子)を連れている。


川崎カヲル

年齢不詳の女性民族学者。

裏山の古墳を発掘するため移住して来てそのまま学校の司書になった変人。

・南軍流剣術の宗家である。



急いで街に戻ると無数の餓鬼が走り回っているのが見えた。


「また御前さまが餓鬼を放したのか?」


「鈴鹿さまは人の世に鬼を放つようなバカげた事はやらぬ」と、空中から餓鬼阿弥(がきあみ)の声が聞こえた。


(いや、前にやってたじゃん!)


歩行者や自転車に餓鬼が襲いかかり悲鳴が上がる。

これはマズイんじゃないか。


俺は腰に差した鎌を引き抜いた。

「飛べ!フツのミタマ!!」

餓鬼の群れめがけて鎌を投げ付けるとブーメランのように鎌は回転して、右へ左へと思い通りに飛び回り、次々と餓鬼を薙ぎ払う。

たちまち餓鬼の群れが消滅した。

すごい!

だんだん鎌の軌道を自由にコントロールできるようになってきたが、そうなるとまさに魔法兵器レベルだ。


また街の奥から次々と叫び声が聞こえる。

しまった!まだ餓鬼が居るのか。


コマチが手をかざして歌を詠む。

 人に逢はむ 月の無きには 思ひおきて

   胸「はしり火」に 心焼けをり

    『走り火!』

コマチの手から無数の炎が飛び出し、四方に走り回る。

街中から炎が上がり、驚いた車が衝突し、あちこちで叫び声が響く。

あちゃ〜被害が拡大しとるがな。

「コマチ!火炎の言霊は使うな!」


「そうか、だがタスク、どうやって倒す?」


「人間と鬼の距離が近すぎて飛び道具は使えない。接近して一匹ずつ斬るしかないよ」

俺は鎌を取る。

 有るは無く

 無きは数添う 世の中に

 あわれいづれの日まで嘆かん

  『有無一剣(うむいちけん)』


シャッ!と鎌がツルギに変形する。

剣を手に走り出すと、ひっくり返った自転車に取り憑いていた餓鬼を一匹切り、次は倒れたおじさんに取り憑いた餓鬼を切る。

だが餓鬼は次々と現れて走り回る。

「ダメだ!キリがない!いったい何匹居るんだ!」再び鎌のブーメランで餓鬼の群れを薙ぎ払った。


「奥は我らに任せろ主人(あるじ)」

餓鬼阿弥(がきあみ)とテルテは姿を現すと腰の太刀を抜刀するなり次々と餓鬼を切り裂くと、さらに左右に分かれてすごいスピードで二人は走り出した。

早っ!

さすがに人間ではあの動きはできない。

あの二人が居てくれて助かった。


「タスク!父(とと)さまを呼んでくる!」

コマチが再び手をかざす。

 霜枯れは 侘しかりけり 秋風の

   吹くには荻の おとづれもしき

    『おとづれ』

紫の光の輪が現れ、地獄の口が開くと、コマチは地獄の井戸の中に飛び込んだ。


コマチの父親って…コマチ以上の言霊を使えるという魔術師か!

助かる。今は一人でも人手が欲しい。


人気(ひとけ)の無い寂れた町の外れ

空中には黒い穴がポッカリと空いており、その穴から続々と餓鬼が湧き出ている。

地獄の井戸である。


餓鬼の走り回る街中をタキシードを着た紳士が猫を抱いて歩いている。

地獄の官吏タカムラである。


タカムラが子猫を離すと猫は白いドレスの猫耳娘に変身し、猫娘が金と銀の両目で睨(にら)み付けると餓鬼たちの動きが金縛りで止まった。


タカムラはトランプの様なカードを取り出すと刀印で空中に文字の様なものを描き始める。

「これ魔王尊天の掟により幽界の門を塞ぐ者なり、闔(とざす)べきその令旨(れいし)かくの如し急急如律令」

カードを黒い空間めがけて投げ付ければ、ズン!と地鳴りが響き渡り空中の黒い穴は消えた。


急急如律令。つまり地獄の法令にしたがい、すみやかに実施せよという第三天魔王の掟(おきて)なのであろう。

天魔王の掟に逆らえる死霊はいない。


タカムラは青年に向かって声をかける。

「地獄の口を開いたのはお前か?」


背が高く髪の毛は真っ白で、まるでミイラのように痩せた青白い顔の青年だった。

風も無いのに長い白髪がユラユラと揺れ、うつろな眼でタカムラを見つめていた。


猫娘が金銀両目(オッドアイ)で青年をニラミ付けると青年は直立し金縛りになる。

青年はもう動けなくなったはずだ…

が、不意に突風が吹き出す。

小石が舞い飛び窓ガラスが割れ、電線がちぎれた。


「む!」ガラスの破片が皮膚を裂き、飛礫がビシッ!っとタカムラを打つ。


「きさま『風鬼(ふうき)』だな!」

タカムラは身構えた。


青年はうつろな眼で見つめながら風を巻き起こす。やがてそれは集まり、猛烈な竜巻となって蛇行しながらタカムラに迫って来る。


背後からも小石が身体に当たる。

ハッ!っと振り返ると後方からも竜巻が迫って来た。

(前後から竜巻で挟み討ちにする気か!)

竜巻は石やゴミや破片を巻き上げ、ノコギリのようなすさまじいスピードで壁や電柱を削る。

(この竜巻に巻かれたら最後だ)


タカムラは猫娘に手を当てて言霊を唱える。

「この子、獅子(しし)の子、獅子(しし)の子、子獅子(こじし)!」


すると猫娘は髪の毛が逆立ち渦巻き、眼は赤く光り、黒いドレスのライオンのような少女に変わった。


獅子(しし)娘は「ギャアアア!」と炎を吹きながら咆哮(ほうこう)すると、一直線に竜巻を突き抜け『風鬼(ふうき)』の片腕をバシッ!っと切り飛ばした。

さらに急角度でターンすると、背後から風鬼(ふうき)首を切り飛ばす。すさまじいスピードだった。

風鬼(ふうき)の首はアスファルトの上を転がり竜巻はおさまった。


…が、ふいに風鬼(ふうき)の首が空中にフワリと浮かぶ。


「何っ?!」


風鬼(ふうき)の首はまるで歩き回るかのようにフラフラと自分の身体へと戻ってピタリとくっついて元の姿に戻ってしまった。

シュルシュルと切り飛ばされた腕が再生する。


「バカな!」

切り落とした首が飛んで戻って再生した。

タカムラほどの魔術師でも初めて見た光景である。

そのような鬼は聞いた事も無い。


風鬼は何ごとも無くまた青白い顔を向けながらヒョロヒョロと歩き出す。


タカムラが呪符(じゅふ)のカードを取り出し身構えたその時、背後にズン!と衝撃が走る。


タカムラが振り返ると、空中に銀色の刃が浮かび上がり、血がしたたり落ちていた。

いつの間にか何者かが背後から忍び寄りタカムラの脇腹を刺していたのだ。


「しまった!」タカムラはヒザを着いた。


「キャハハハハ」姿は見えないが、どこからか女の笑い声が聞こえる。

銀色のナイフが空中に浮かび、ユラユラとタカムラに近づいて来る。


獅子(しし)娘が「ギャアア!」と吠え、銀色のナイフに飛びかかろうとする。

その瞬間、風鬼の放った衝撃波で獅子(しし)娘は弾き飛ばされ、そのまま竜巻にクルクルと巻き上げられてしまった。


「む…」

タカムラは風鬼と見えない敵の二人に挟まれ、腹を刺されて身動きできない。

おそらく鬼どもはタカムラを嬲(なぶ)り殺しにするつもりだろう。


その時である。


 たずね行く 道のあるじや 夜の杖

  突くこそ要らね 月のい出づれば


闇の奥からカツン!カツン!と杖の音が聞こえてきた。


風鬼が闇へ向けて衝撃波を発射すると、闇の中から細身の竹杖がビュウ!と飛び出し、銀色のナイフを弾き飛ばした。


「ギャッ!」という悲鳴とともに天女のようなヒラヒラの布をまとった美しい女が姿を現す。

竹杖は女の手首を貫通していた。


  『柳生仕込み杖』

竹杖に擬装(ぎそう)しているが、祖父柳生石舟斎が作り伝えた十兵衛の鉄杖である。


闇の奥から十兵衛が現れた。


「柳生十兵衛!」

女の眼が金色に光る。


十兵衛は身を沈めてスラリと脇差を抜き、正面に脇差を突き出すと風鬼に向かってスタタタと風のように走り出す。


風鬼が十兵衛に向けて衝撃波を発射する。

空間がドン!と歪み周囲の窓ガラスは弾け飛び、アスファルト道路が割れる。

だが十兵衛は衝撃波を切り裂いてそのまま走り込んで来る。


風鬼はさらに衝撃波をドン!ドン!と続けざまに発射するが、盾のように構えられた十兵衛の小太刀によって風は切り裂かれてしまう。


 新陰流、小太刀二寸五分(こだちにすんごぶ)の事

「二寸五分」とは小太刀を握る拳の事である。

切っ先をグッと突き出して攻め懸れば小太刀が我が盾となる。これを「拳を盾に付く」と言う。


十兵衛は小太刀で風を切り裂き駆け抜けていたのだ。


女が十兵衛の脇差の魔力に気づいた。

「に!逃げろ風鬼!その刀は『小通連(しょうとうれん)』だ!」


とっさに風鬼は風に乗って飛び上がるが、十兵衛も同時に飛び上がり小太刀を左右に切り返す。

  「新陰流『逆風!』」

風鬼の両足が切り飛ばされた。


新陰流『逆風』

十兵衛の叔父、柳生五郎右衛門が城門に押し寄せる大軍勢を、逆風の太刀を使いただ一人で食い止めたと言われる伝説の剣である。


「ヒイイイイイ!」

風鬼は声にならぬ声で、か細い悲鳴を上げながら夜空へと逃げ去って行った。


「ああっ!風鬼いい!」

女は風鬼の名を呼び泣き叫びながら十兵衛をにらむ。

「おのれ柳生十兵衛!この恨み忘れぬぞ!」


カラリと仕込み杖が投げ落とされ、女の姿は消えていた。


十兵衛は小太刀を納め、杖を拾うとタカムラの元へ歩いた。

「篁(タカムラ)どの」


タカムラは自嘲(じちょう)ぎみに笑った。

「不覚(ふかく)であった。昔、砦で蝦夷(えみし)の毒矢をくらって以来だ」


「四鬼どもも、いよいよ動き始めたようですな」


タカムラはうなずいた。

「お前を呼んでおいてよかったぞ十兵衛。おそらくあの隠形鬼(おんぎょうき)と戦えるのはお前だけだ。頼んだぞ」


「はっ将軍さま」十兵衛はタカムラに頭を下げた。



〜23 「もう一人の将軍」〜 完



(=φωφ=)あとがき。


 > この子獅子(しし)の子

小野篁(おののたかむら)のトンチ話に出てきます。

 漢字で書くと「子子(このこ)、子子(ししの)子、子子(ししの)子、子子子(こじし)」ですね。

 ちなみに猫の子は「子子(このこ)、子子(ねこの)子、子子(ねこの)子、子子子(こねこ)」

同じですやん。


 > 新陰流『逆風』

「はらえ(祓え)の太刀」を左右に切り返す技だと言われます。

 米子藩の客将だった柳生五郎右衛門宗章が飯山城に攻め入って来た敵を逆風の太刀で十八人も切り倒したと言われますね。

 十兵衛さんの叔父さんにあたる人です。


 >征夷副将軍

じっさいに副将軍だったのはタカムラの祖父小野岑守(おのの みねもり)ですね。

 まぁ読み物ですので気にしない、気にしない。

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