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22 開く魔界

【登場人物】

 小野タスク

地味で平凡で貧弱な高校生。

悪霊を斬る霊剣『韴霊剣(ふつのみたまのつるぎ)』を目覚めさせる能力がある。


 コマチ(小野小町)

平安時代の鬼退治師であり和歌の言霊を操り自由に時空間を変化させ、炎や水を操る能力を持つ少女。

・パンツを履くという概念が無い


 猟師コマチ(チビ助)

鬼と戦う少女。蝦夷風の装束を身にまとい半弓と毒薬を使う。

・パンツを履くという概念が無い


 柳生十兵衛 平 三厳 (ミツヨシさん)

山奥で修行中になぜか現代に召喚されてしまい、なぜかタスクの家でお手伝いさんをしている剣豪。

鈴鹿御前の霊刀『小通連(しょうとうれん)』に片目を食われた。


餓鬼阿弥とテルテ

男女の熾燃餓鬼(しねんがき)。鬼の身体能力を持ち、炎の属性魔術を使う魔界の武士(もののふ)


 立烏帽子(鈴鹿御前)

第六天魔王の一人。リアル魔王

魔王軍随一の女性剣士である。


川崎カヲル

年齢不詳の女性民族学者。

裏山の古墳を発掘するため移住して来てそのまま学校の司書になった変人。

・南軍流剣術の宗家である。



「次は俺が相手をしてやろう」

餓鬼阿弥(がきあみ)が派手な装飾の日本刀を取り出す。

うぎゃ!やめてくれ!


カヲルさんが制した

「あん、ちょいまち。タスクにはまだ試合は早いわ」


じゃあなんで試合やらせたんすか?


「そうか、従おう」

餓鬼阿弥(がきあみ)はあっさり引いた。

素直と言うか、クソ真面目と言うか、さっぱりしていると言うか。

餓鬼阿弥(がきあみ)の前世は知らないけど、なんかこの人もいかにもサムライっぽい。

昔の武士ってみんなこんな感じなのだろうか?


さてカヲルさんの話では今日から技手付(わざてつけ)に入るらしい。

つまり形稽古だ。


カヲルさんは南軍流の手筋を解説する。

「この手筋はねえ、こちらが右を狙いに進むと、相手は防ごうとしてこう構えるでしょ。相手が打ち返す太刀を、上から打ち落として突き返す」


なるほど、詰将棋(つめしょうぎ)みたいに攻防の手順があるのか。

今まで疑問だった攻略法もディフェンスも知らずに迷っていた部分があっさり解決していく。踊りみたいに見えたけど形稽古って意外に便利だ。


何手か教えてもらっているうちにふと気づいた。

「あれ?これって攻めも守りも決め技も一打三手っすよね?」


「そう、ほぼ一打三手の応用技なのよね」


「ずいぶん便利な技だったんすね」


カヲルさんはチッチッチッ!と指を振って否定する。

「一打三手は万能技ではないわ。まず相手を絶対的な条件に誘い込み、こちらの思い通りに働かせて、攻めさせて、その攻める瞬間の虚実を一打三手で勝つ。それが兵法よ」


「兵法?」


「そ、兵法。

孫子いわく『虚で敵を誘い込み、実で身を守る』だね。相手が誘いに乗ってくれたら勝ったようなもんよ!」


なるほど虚で敵を誘い込む。敵を誘い込む…誘い込む……


「もし…こちらの心が読める相手でも兵法で勝てるんすか?」


「それってサトリの事?」


カヲルさんの口からいきなりサトリが出てきて驚いた。

「な、なんでカヲルさんがサトリを知ってるんですか!」


「有名な妖怪よお、柳生宗矩(やぎゅうむねのり)兵法家伝書(へいほうかでんしょ)にも出てくるわねえ」


柳生宗矩(やぎゅうむねのり)?どこかで聞いた名前な気がするけど…誰だっけ?


「その柳生宗矩(やぎゅうむねのり)は、どうやってサトリに勝ったんです?」


木樵(きこり)の斧がスッポ抜けて、たまたまサトリに当たって勝ったとだけ書いてあるわねえ。無意識の勝ちという教えね」


「無意識の勝ち……夢想剣!」


 わかった!

そうか!あの婆さんや小野忠明先生は無意識の戦い方を教えてくれていたのか!

 天魔は人間の欲を喰う。

 だけど無欲の人間の心は食えない。

なぜ夢想剣でサトリを倒せたか。

なぜ有無一剣が鬼を成仏させられるのか。


天魔は人を惑わせ欲望へと導いて喰らう。

だけど無心の剣には天魔の魔力が通じないんだ!

今までの修羅界でのムチャクチャな修行が一気に理解できた。


だけどまだ疑問がある。

「無心で戦えるんですか?」


以前ミツヨシさんに聞いた話を再度カヲルさんにも振ってみた。カヲルさんなら何か答えを知っているかもしれない。


「ワタシたちだって日常生活でも無心になる事はあるわ、

木樵(きこり)だって無心で斧を振っていたんじゃない」


「そうか、無心で木が切れるなら、無心でも戦えるのか…」

なるほど、さすがカヲルさんだ。学者さんだけあって解説がシンプルで的確だ。


「無心で戦うのはねえ、南軍流では『微塵(みじん)』という教えが有るね」


微塵(みじん)?」


微塵(みじん)とは色も無く、形も無く、味も無く、香りも無し。つまり自分の『意識』の働きを無くして無意識で剣を使う。最高位の極意よ」


やっぱり夢想剣だ!

直感した。

表現は違うけど、同じ剣道の極意が形を変えて昔から語られてきたんだ。

帰宅したらミツヨシさんに聞いてみよう。


その帰り道、南軍流の手筋を確認しながらコマチと二人で歩く……いや、なぜか餓鬼阿弥(がきあみ)とテルテが付いてくるんですけど…


(この二人、家まで来る気かいな?)

さすがに家にはミツヨシさんとチビ助が居るのにこれ以上増えたら親父も母さんも頭を抱えるな。おばあちゃんは喜ぶだろうけど。


「あ、あの〜今夜はどこに泊まる予定ですか?」


主人(あるじ)の住まいだ」


やっぱり!

「…それは困ります」


「わかった。外に居よう」


え?外に居るのも気の毒だな…

「どこか寝る所は無いかなあ、裏の神社とか」


「あれは鈴鹿(すずか)さまのお(やしろ)だ、我々は(のぼ)ることはできない」


そうだよな、この人たちは御前の神社には絶対に入れないだろうな……

もっともミツヨシさんは勝手に寝泊まりしてますけどね!


「ならばお前たち、姿を消して表で(はべ)りおれ」

コマチが腕組みしながら偉そうに言う。


「え?姿を消せるの?」


「かんたんだ」

コマチは手をかざし歌を詠みはじめる。


 春雨の さはへ降るごと 音も無く 

   人に知られで 濡るる袖かな


    『音無し』


コマチが歌を詠むと餓鬼阿弥(がきあみ)とテルテの二人の姿がスッと消えた。まるで魔法だ。


「え?マジで居ない」

思わず手を伸ばすと何か柔らかいものにぶつかった。

あ、ホントだ、見えないけどここにいる。というかこの感触は…

「そこは私の胸だぞ主人(あるじ)

テルテの声が聞こえた。


「うぎゃっ!すいません!すいません!すいません!」


ジャンピング土下座であやまりながらふと思い出したが、この術はあの三途の川の婆さんも使っていたよな?


「なあコマチ、この歌の言霊って他にも使える人っているのか?」


「いる。神々がそうじゃ。

歌はスサノヲの(みこと)から始まり、もとは鬼神の幽情や天人の恋心の霊力を伝える力があると言われる。

人間であれば我が父も言霊を使える。

じゃが古来より最強だったのは紀朝雄どのと言われる」


「コマチより強い魔法使いがそんなに居たのか!」


「紀朝雄どのは『四鬼』の魔力すら封じたと言われる。我が(とと)さまでも(かな)わぬ」


「四鬼?」


「おそれ多くも天智帝の御代(みよ)に、この世を滅ぼさんとした魔物の手下どもだ」


「え?何その悪のボスキャラ」


「藤原千方という魔人だ。

その藤原千方の手下に四人の鬼がいる。

・鋼鉄より硬い身体を持ち、あらゆる武器を跳ね返す『金鬼(きんき)

・城郭すら吹き破る大風を放ち撃つ『風鬼(ふうき)

・激流をあやつり、軍勢を押し流し、おぼれさせる『水鬼(すいき)

・あらゆるものに姿を変え、姿を消し、相手を惑わして殺す『隠形鬼(おんぎょうき)

朝廷に(あだ)なす、これな悪鬼どもをカマ様は成敗なされたのだ」


いかにもトンデモない魔人だな……って、え?カマ様ってその藤原千方や四鬼と戦った人なの??


「キャア!!」

遠くから悲鳴が聞こえた、何だ?

道路の向こうから、無数の小さな鬼たちが駆け回って来る。


餓鬼?!

まさか餓鬼の群れが街を襲っているのか!!


〜22 「開く魔界」〜 完



(=φωφ=)あとがき。


 >虚で敵を誘い込み、実で身を守る

・攻めて必ず取るは、

    其の守らざる所を攻むればなり。

・守りて必ず固きは、

    其の攻めざる所を守ればなり。

孫子「虚實篇」ですねえ。


 >スサノヲと和歌

 八雲立つ 出雲八重垣 妻ごみに

   八重垣作る その八重垣を

素戔嗚が八岐大蛇を退治し、櫛名田比売(クシナダヒメ)をめとったさいに詠まれた歌が和歌の始まりと言われます。

つまり神の言霊の再現でもあるのですね。


 >藤原千方

太平記などにも登場すると言われる伝説の魔人ですね。

というかなぜに藤原?


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