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15 奪衣婆

【登場人物】

小野タスク

平凡な高校生。

悪霊を斬る霊剣『韴霊剣(ふつのみたまのつるぎ)』を目覚めさせる能力がある。

自宅の裏山が、なぜか地獄に繋がっている。


コマチ(小野小町)

平安時代の鬼退治師であり和歌の言霊を操り自由に空間を変化させ、炎や水を操る能力を持つ少女。

・パンツを履くという概念が無い


猟師コマチ(チビ助)

鬼と戦う少女。蝦夷風の装束を身にまとい半弓と毒薬を使う。

・パンツを履くという概念が無い


川崎カヲル

年齢不詳の女性民族学者。

裏山の古墳を発掘するため移住して来てそのまま学校の司書になった変人。

・南軍流剣術の宗家である。


柳生十兵衛

山奥で修行中に、なぜか現代に召喚されてしまった剣豪。

立烏帽子の霊刀『小通連(しょうとうれん)』に片目を食われた。

タスクのお婆ちゃんの友達。


立烏帽子(鈴鹿御前)

将軍塚にある地獄の門を開放する妖女。

魔王軍随一の女性剣士である。



「バッカも〜ん!誰が鬼じゃ!!」

婆さんが怒り出した。

「すんません」


見れば婆さんは右側の顔が真っ黒で、目玉がギョロギョロしてはいるが、他はふつうのシワシワ顔の婆さんだった。

身なりはボロボロの着物を着ている。

言葉も通じているし感情も豊かだから鬼とも思えない。


「鬼ではないのですか?」

「見れば分かるじゃろうが!」

いや、わかんないっす。


見渡す限り、真っ黒な空、薄赤い雲。

果てしない巨大な黒く透明な海。


「ここはどこです?」

「地獄の入り口じゃよ」


え??地獄!

何で俺が地獄に??

いや考えてみたらコマチと二人で地獄に向かって飛んでいたんだ。


「コマチは…女子高生の服を着た娘を見ませんでしたか?」


鬼婆さんはジッと俺を見ていたが、プイと横を向いて「知らん」と言った。


呆然と見れば見渡す限りの海原で、足元まで波が来る。


「海…」


「海ではない三途の川じゃ。あの向こうが現世(うつしよ)じゃな」


これが死後の世界か。


「お前には御前様から与えられた使命があるであろう」


「え?お婆さん御前の事を知っているんですか!」


「だいたいの事は知っておる。ワシは、もう1000年もここにいるからのう」


「1000年?!1000年も生きているんですか?」


「バカもの!もう死んでおるわ!」


あ、そうだった。ここは死後の世界だった。


「お前は御前様から命じられた使命を果たすのじゃ、付いてまいれ」

婆さんは手を差し出す。

え?手を握れという事か。恐る恐る婆さんの手を取ると、婆さんは歌を詠み始めた。


 かぎりなき 思ひのままに 夜も来む

   夢路をさへに 人はとがめじ

    『夢路(ゆめじ)

婆さんは顔に似合わず美しく朗々と歌を詠む。

あれ?この歌は?

フワリと身体が浮いた。

言霊が使えるのか!


飛んだと思って着地した所は、質素な木造の建物が並ぶ昔の日本の様な場所だった。

こんなに簡単に異世界に行けるのか!

この婆さん、ひょっとしたらコマチよりすごい術が使えるのかもしれない。


「ここは?」

「修羅の世界じゃ」


「修羅?鬼の国ですか?」

「人間の世界じゃよ。お前たちと何ら変わらん」


「人間と同じ?」


修羅の国とは聞くが、行き交う人たちは皆整然としていて歩く姿も美しい。

鬼や悪魔でもなくふつうの人間に見える。

奇妙なところといえば、見ればみな刀を差している事だろうか。

刀を差していても丁髷(ちょんまげ)は結ってない。ふつうの人たちだ。


「ここって…江戸時代ですか?」

「今に分かる」婆さんはプイと背中を向けた。

今に分かる…?何が?


いきなりドカン!という爆発音とともに、無数の人が雪崩のように刀を振り回しながら突進して来た。

目がギラギラして赤い口を開き叫んでいる。


「なっ?何だあ?!!」


「つかまれ、死にたくなければな」

婆さんの差し出した手を掴むとフワリと身体が浮いた。


まるで人間の雪崩のように人がもみ合い斬り合っている。

何が起こったんだ?


「合戦じゃよ」

「合戦!?なんで?」


「たいした理由ではない。歩いていたらぶつかったとか、目つきが気に入らないとか、そんな理由じゃ」


「えええ!そのていどの理由で殺し合っているんですか?」


下では数百の人たちが斬り合い殴り合い、血飛沫(ちしぶき)が散り、手足や指が飛び、血まみれの人が転がり回る。


「すでに死人じゃ。戦っても滅びる事も無い。永遠に憎しみ合い殺し合って行くのじゃ」


「これが…修羅…」


「修羅もまた人間じゃ。そして神もまた修羅になる。ふだんは秩序や義理を重んじ、清く正しい人間であっても、また偉大な神であっても、人を許さず慈悲を持たずば修羅道に突き進む者もおる」


…それが神の世界なのだろうか?

まるで人間のむき出しの業欲そのものだ。


「怒りや欲情に心を奪われてしまうと神々との戦いには勝てぬ。良いな、タスク」


「はい…って何で俺の名前知ってんの?」


また婆さんはプイと横を向いた。

何か隠してるな。

ふと御前が思い浮かんだ

そういえば俺を地獄に送り込んだのはそもそも御前だ、この老婆もきっと御前の配下か何かなのだろう。


「あれを見よタスク」

老婆が群衆を指差す。

荒れ狂いながらもがく群衆の一角が崩れて行く。

ん?何だ?


人だ。

たった一人の老人が群衆をバタバタと薙ぎ払って行く。

恐ろしく強い!

群衆は徐々に散り散りに分散して行き、やがてまた先ほどの静かで秩序正しい世界に戻った。


すごい!あの人が修羅の群れを制してしまったのか!


「修羅の世は強さが全てじゃ。強ければ秩序も生まれ、正道も行われる」

なるほど強ければ正しい、そして平和にもできるのか。


「降りるぞ」

気がつくと老婆と共にたちまち地上に降りていた。早い!


「心は…」

老婆が語り出す。

「心は空を飛び、時を越え、どこまでも自由に行けるものなのじゃ」


かぎりなき 思ひのままに 夜も来む

   夢路をさへに 人はとがめじ


老婆はトツトツと語る様に歌を詠んだ。

この婆さんも歌を詠むのか。

なんか寂しそうな歌だ。


「ほう、小野小町の歌だな」

先ほどのめちゃくちゃ強い老人が歩み寄って来た。

というか見た感じ、まるで本物のサムライみたいだ。


「コイツをたのむ、小野忠明」と、老婆は俺を突き出した。


え?…小野忠明?


強い老人はガハハと豪快に笑い出した。



〜15 「奪衣婆」〜 完




(=φωφ=)あとがき。


> 奪衣婆

三途の川に居て亡者の衣服を剥ぎ取るため奪衣婆と呼ばれます。

閻魔大王(ヤマ天)の嫁、鬼女とも言われます。

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