14 地獄へ
【登場人物】
小野タスク
平凡な高校生。
悪霊を斬る霊剣『韴霊剣』を目覚めさせる能力がある。
自宅の裏山が、なぜか地獄に繋がっている。
コマチ(小野小町)
平安時代の鬼退治師であり和歌の言霊を操り自由に空間を変化させ、炎や水を操る能力を持つ少女。
・パンツを履くという概念が無い
猟師コマチ(チビ助)
鬼と戦う少女。蝦夷風の装束を身にまとい半弓と毒薬を使う。
・パンツを履くという概念が無い
川崎カヲル
年齢不詳の女性民族学者。
裏山の古墳を発掘するため移住して来てそのまま学校の司書になった変人。
・南軍流剣術の宗家である。
柳生十兵衛
山奥で修行中に、なぜか現代に召喚されてしまった剣豪。
立烏帽子の霊刀『小通連』に片目を食われた。
タスクのお婆ちゃんの友達。
立烏帽子(鈴鹿御前)
将軍塚にある地獄の門を開放する妖女。
魔王軍随一の女性剣士である。
餓鬼阿弥とテルテ
男女の熾燃餓鬼。強健な身体能力を持ち、炎の属性魔術を使える武士
「お前にこれははもったいないのう」
といきなり現れた御前が十兵衛から太刀を奪い取る。
十兵衛は「あっ?」と言った時にはもう御前は太刀を奪い取り、金ピカの鞘にスルリと納めた。
十兵衛ほどの名人が全く何もできずに太刀を奪われてしまうとは、恐るべき使い手だ。
「こ、これは鬼御前!」
十兵衛は再び地面に平伏する。
コマチも片膝を着けてかしこまる。
鬼御前?
やはりミツヨシさんと御前は知り合いだったのか?
ひょっとして『ミトリヶ池』で、ミツヨシさんをこの世界にタイムスリップさせた鬼というのは、やはり御前なのか?
「違うのう、十兵衛をこの世界に呼んだのはワシでは無いぞ、そこなコマチとタカムラじゃ」
まるでひとりごとの様に御前はつぶやいた。
真っ赤なドレスに銀髪がなびいている。間近で見るとこの世のものとは思えない美しさだ。
タカムラ?
あの猫を連れた魔術師っぽい人か。
「そうじゃ」
御前は即答する。
え?
まさか考えが読めるのか?!
御前はこをらを向いて赤い唇をニヤリとつり上げた。
やはりトンデモない鬼のボスキャラだ。
「ワシは鬼では無い、最高位の神じゃぞ童」
「なぜそんな最高神が俺を狙うんですか?」
御前は「ははは」と笑い出した。
「狙うまでもない。お前ごときの命などワシのまばたき一つでこの世から永遠に消し去れるのじゃぞ」
コマチはビクリ!として顔を上げた。
御前とは、あのコマチさえも恐れる存在なのか。
もし御前の言う事が本当なら確かに神だ。人間なんかに敵う相手では無い。
だがそれは理由にはならない。
「じゃあ何で学校に鬼を…」
「タスク!神前なるぞ、控えよ!」
コマチが厳しい口調でたしなめる。
「ん……」
よく分からんが口答えはまずい様だ。
まがりなりにも最高神だからな。
とりあえずコマチの横に正座する。
御前はイタズラっぽくニヤリと笑った。
「お前にはこれから地獄に落ちてもらう」
「え?言ってる意味がよくわからないんですけど」
御前は神社を指差すと、扉がひとりでに開いた。
「コマチ、一緒に寝てやれ」
「はい」
御前の言葉にコマチがうなずく。
ええっ?!一緒に寝るとは??!
コマチは俺の手を引きながらズンズンお宮の中に入って行く。
いや待て!まだ心の準備がっ!
二人がお宮の中に入ると、ひとりでに扉がパタリと閉まった。
お宮の中はミツヨシさんが寝泊まりしているせいか意外ときれいだ。
「タスク、寝るぞ!」
コマチはゴロリと寝転がる。
え?コマチさん、いったい何を!
「サッサとここへ来て寝んか!」コマチは床をバンバン!と叩く。
なんだふつうに雑魚寝しろと言う意味らしい。
とりあえずコマチさんが怖いので隣にゴロリと寝ると小町は寝ながら俺の手を握ってくる。
あヤバい、ちょっと心臓がドキドキする。
よけい寝れないんじゃないかな!
「タスク息を数えろ。ひとつ…ふたつ…みっつ…」
五十ほど数えたころコマチは静かに歌を詠み始める。
かぎりなき 思ひのままに 夜も来む
夢路をさへに 人はとがめじ
『夢路……』
コマチの言霊を聞いた瞬間、ふと貧血のように意識が遠くなり、目の前が真っ暗になった。
ふと気づくと、右も左も上も下も真っ暗な、まるで深い穴のような闇の中にいた。
(なんだ、ここは?!)
「夢の中だ」
横には手を握っているコマチがいる。
「夢?」
この闇の中でコマチの姿がハッキリ見える。
しかしこの落下する様な不安感は何だろう。
「心だけが神界に飛んでいるのだ」
コマチの言葉に合わせて身体が宙に浮いた。
二人はいつのまにか闇の空を飛ぶ。
「神界?この闇の世界が?イメージと違う。まるで闇の地獄だ」
「地獄も神の世界の一部だ」
「地獄…『地獄の井戸』か!」
鬼たちが出現し、あのタカムラという男とコマチが消えた地獄への入り口か。
「生きた人間が現世から根の国に行ったら戻れない。だが夢の中であれば心のままに地獄へ行くことも可能だ」
「つまりここは死後の世界か?」
「そうだとも言える。ここでは時間も空間も距離も生命も存在しない。だから絶対に手を離すな。闇の中を二千年かけて落下していく。そしてお前の心は再び現世の世界に戻れなくなるぞ」
コマチは強く手を握ってきた。
心だけが別世界に転移しているのか。
たしかに夢のようだ。
というか悪夢にも思えるけど。
「ここから地獄に入る。鬼や死者に会っても心を乱すな」
コマチの横顔が厳しくなる。
地獄の鬼?そうか、鬼の本拠地でまた戦うのか。
腰に差したカマ様の鎌を手に取ろうとしたが、右手はコマチの手を握っているため動かせない。
ふと左手を伸ばして身体をひねる。
その時。
「あっ!」
コマチが驚いて振り向く顔が見えた。
何か叫んでいる。
コマチの姿はゆっくり遠のいて行き、そして闇の中に消えた…
俺の身体はぐるぐると上へ下へと回り、いつまでも闇の中を落下して行き、意識は遠のく。
二千年の落下。
これが延々と続くのか…
その時、フワリと誰かに抱き止められた。
コマチが来てくれたのか?
小柄で細い腕。着物を厚く着ている。
長い髪が顔に触った。
よく分からないが女性だろうか。
ダメだ。
身体が動かない。意識が戻らない……
顔に水がかかった。
気づくと暗闇に赤い雲が薄くかかっていた。
ゆっくりと目を開けると海が見えた。波が見える。
どうやらどこかの浜辺らしい。
時空を移動したのだろうか?
誰かが上から見下ろしていた。
長い白髪のみすぼらしい老婆が顔を近づけて来る。
何だ?
白髪から老婆の顔がのぞく。
黒い。
顔が黒く目玉がギョロリとむき出していた。
「鬼?!」
〜14 「地獄へ」〜 完
(=φωφ=)あとがき。
>最高神
鈴鹿御前は天上界の神々の中で人間界に最も近い六欲天の中で最高位、第六天の一人ですね。