後編
この時りんごとぶどうは油断をしていました。
ここに来るまでに3つの罠を潜り抜けたのです。
それらはお兄ちゃんとお父さん、そしてお姉ちゃんのことでした。
実質一つは華麗にスルーされましたが、それでも罠は十分効果があったのです。
もう無事な猫は、りんごとぶどうの2匹しか残っていないのですから。
家族の中で会っていないのは、お母さんだけなのです。
だからもう罠は無いはずでした。
お母さんの所に行くだけのはずでした。
しかしその考えは打ち砕かれました。
2匹は知らなかったのです。
すぐそこに最大の罠が待ち受けているとは、思いもしませんでした。
先に気づいたのはぶどうでした。
ゴロゴロ鳴く2匹から目を逸らした先に、見慣れぬものを発見しました。
それは中に四角い箱でした。
箱の中には赤い光が抱かれていました。
その周りを自分たちのお部屋の様な物で囲んでありました。
その箱の前に少し間を開けて、5枚の新しいふかふかが置かれていました。
「昨日までなかったものがある」
ぶどうは警戒をしました。
見たことのないものは警戒する、これぞ野生の知恵。
いやまあ、自分飼い猫なんですけどね?
リンゴも箱に気が付きました。
「何だこいつは」
2匹は箱を観察することにしました。
危険がないか、家族に危害が及ばないかを確認しようとしたのです。
2匹は知りませんでした。
寒くなったので、お母さんがストーブを出してくれていたのです。
そして猫たちが暖まれるように、ストーブの前に新しいクッションも用意してくれていました。
もちろん猫たちがストーブに近付きすぎて毛を焦がさないよう、ガードも設置してくれていました。
これには某猫もにっこり『良し!』と言ってくれるでしょう。
なんということでしょう。
お母さん自身が最後の罠を張っていたのです。
そんなことは思いつきもしない2匹は、暫く箱を観察していました。
そしてついに気づいてしまったのです。
箱からぽかぽかが放たれていることに!
それはまるで、お日様がそこに降りてきたかのようでした。
そのぽかぽかに気が付いてしまえばもう堪りません。
その魔力が2匹を誘います。
しかもおあつらえ向きに、箱の前には寝心地のよさそうなふかふかがあるではありませんか。
もうお判りでしょう。
「あったかーい。あたたかいよー」
「あああああああああ」
2匹はあっさりぽかぽかの魔力に負けました。それはもう見事な即落ち2コマでした。
「くっころせ」
「このままご飯食べたい」
足を大きく開いておっさんみたいにクッションに埋もれている猫は、何を言っているのでしょうか。くっころを言うには、もう少し綺麗な格好で埋もれて貰いたいものです。
こうして猫たちの冒険は終わったのです。
猫の一党は全滅しました。
お母さんを探し当て、その元へ辿り着くことは出来なかったのです。
1匹はカバンの中で液体になり、2匹は名状し難き生物になり、最後の2匹はクッションの上で置物になってしまいました。
猫の王様が居ればきっとこう言ったでしょう。
「おお、5匹よ全滅するとは情けない。でも猫だし仕方ないよね」
そうだよね!猫だしね!
全滅してしまった5匹は、同じ部屋に集められました。
お兄ちゃんは、なしをカバンから出すことを諦めて、なしの入ったカバンを持ってきました。
お父さんはお兄ちゃんの荷物を代わりに持って、部屋に来ました。
なしがカバンに入っている所為で、カバンからあふれた荷物たちです。
おねえちゃんは謎生物で遊んでいます。
負け猫たちはお母さんを探すことを忘れ始めました。
いつの間にか、外の音も止まっていたからです。
暖かいやら楽しいやら。
幸せになった5匹は大抵のことには動じません。
満足猫です。
りんごとぶどうは暖かくて満足。
いちごとももは遊んでもらって満足。
なしは眠って満足。
大変なのはお兄ちゃんです。
出かけないといけない時間が近くなっています。
お兄ちゃんが焦り始めた時です。
お母さんが魔法の音を鳴らしました。
カシュッ!
その音が部屋に響いた瞬間、猫たちは ( ✧Д✧) カッ!! となり音の方へ一目散に走りだしました。
「「「「「ごはーん!!!」」」」」
もう猫たちの頭の中には、ご飯のことしかありませんでした。
そしてお母さん会う事が出来たのです。
ちょっと忘れていましたがお母さんには会えたのです。
「「「「「うまままままま」」」」」
こうして猫たちはお腹も満足になりました。
ぽかぽかクエスト END
猫たちがいなくなった後、お姉さんとお兄ちゃんは出かける準備を済ませました。
そしてお父さんの車で学校まで送ってもらい、遅刻せずに済んだそうです。