開拓して欲しいと言われても、俺には無理だ!
「…………」
どうも、俺は秋葉英雄です。顔を真っ青にしています。
俺は少し前から今に至るまで、不可思議な体験をしています。VRの被験者を受ける感覚に陥っています。
と、言っても、VRのバイトはしていませんし、手には牛丼があります。
ほかほか、では無く、少しぬるくなっているみたいです。
チーズがあったら、かちかちになっているくらいです。VRではそんな経験はありませんし、それを受けた覚えもありません。
では、俺は何故、不可思議な体験をしているかって? 簡単です——俺は今、和風が特徴的な広間に通され、少し先には段差がある場所では、一人の羽振りのいい中年男性に頭を下げられているからです。
俺は悪いことはしていません……ああ、もう! 敬語疲れた! つ——か、帰りたい! 何でこんな場所にいるの俺は!?
好きなアニメを観ながら牛丼を食べたり、ビールを飲むのが楽しいのに! 今はこの状況を嫌だから(心の中で)吐いているよ!?
しかも何!? この場所は何処なのさ!? 大河ドラマの撮影をしているの今!? 目の前にいる人は誰!? 織田信長!? 徳川家康!?
カメラマンやアシスタントとかは!? ってか、俺の服装を見て誰も咎め無いの!?
白いタンクトップに水色のトランクスだよ!? いつまで恥辱プレイみたいなことを受けなきゃならないの!?
「(どうしょう……そのことを誰かに、愚痴をこぼしたいのに……そんな状況じゃないし……!)」
俺はどうすればいいかで目を閉じていた。
「驚いたのかもしれませんが、私達の町を救うために来てくださり、ありがとうございます」
頭を下げている人の声が聴こえて、俺が目を開けると、頭を下げている人はいつの間にか顔を上げていた。
ちょんまげ——まあ、頭を見れば分かるし、額が広いなんて言ったら打ち首もんだろうな?
それに、俺はどうしてここにいるのかも知らないし、夢なのかもと思ったけど、そんな雰囲気じゃなかった。
「ま、町を救うって……そ、その前に此処は何処だ?」
俺は一応、平然を装った。文句言われると何をされるかは分からないから。
俺の言葉に反応したのか、その人は頷いた。
「説明が遅れましたね。私は千代田秋丸。この千代田の当主であり、此処は大和です」
「……ハッ?」
大和? 大和ってあの戦艦大和のこと? 此処は戦艦大和の中? この人は戦艦大和の艦長?
服装は色々と可笑しいし、艦長って雰囲気じゃない。ここも、戦艦の中って雰囲気じゃない。
色々とツッコミたいけど、その人は先を続けてくれた。
「此処は大和であり、首都の江戸であり、私達がいる場所は江戸二十三町の内の一つ、千代田です」
「大和、江戸……千代田!?」
俺は驚きのあまり、手に持っていた牛丼を落とさないように両手で持ちながら叫んでしまった。
江戸? 千代田? 此処は千代田であり、江戸なの? えっ——徳川幕府が治めているの?
誰なの? 家康、秀忠? 家光? 綱吉? 吉宗? 後はあんまり覚えていないから分からない。
理由は簡単。歴史の授業で徳川関連はそれしかしなかったから! だ。
俺は江戸だと分かりつつも、今は何年かと訊ねる。
「い、今は何年だ?」
「何年……ああ、泰平六年です」
「た、泰平六年?」
俺は耳を疑った。泰平? それって家康が天下泰平を願っていたって話は分かるけど、泰平って元号かなんかか?
家康の時代か? だったら泰平って元号を付けたのも納得いくけど、そう簡単に付けるか、普通?
家康の時代かどうかは分からないけど、それだけじゃあ足りない。もっと、情報が欲しい。
俺は目の前にいる秋丸、さんって人にもっと情報を貰おうと、訊ね続けた。
名前で呼ぶのは可笑しいと思われても、俺は何も分からないし、見た目で判断する気はないけど、悪い人には見えないから。
「泰平六年って、家康、様が治めているのか?」
俺の言葉に秋丸さんは不思議そうに首を傾げていた。
「家康? いいえ、康家様のことですか?」
「や、康家?」
康家? それって誰だ? 徳川幕府の誰かのことか? 家康は知っているけど、康家は知らない。
江戸幕府を開いたのは徳川幕府——これは知ってる——康家は知らない。当たり前だ。
俺は色々ツッコミたいけど、その人は何かに気づいたかのように、あっとした顔をしていた。
「ほ、本題から逸れてしまいました! お、折ってお願いがあります!」
「お、折り入ってって、俺に何をさせるの?」
秋丸さんは姿勢を正すと、頭を下げた。土下座、っていうのかな?
俺はそんな人にさせた覚えはないし、クレームなんて入れてない。
ってか、土下座を強要していない——名誉毀損で訴えられるから。
俺は何も分からない中、秋丸さんは突然、こう言った。
「お願いです! この町を、この千代田を救ってください!」
「……えっ?」
秋丸さんの発言に俺は恍けてしまった。
町を救って欲しい? それって、どういう意味で、と俺は思ってしまった。
——すると、俺は全身、鳥肌が立った。自分でも分かるように、顔を青ざめているかもしれない。
町を救って欲しい=この町に脅威となる輩がいるから、それを退治して欲しい、と(勝手に)解釈してしまったからだ。
……待って待って! 俺にそんな力はないよ!? 俺は平凡なアルバイト店員だし、秋葉原在住の一般人だよ!?
チートなんてないし、異世界転生なんてラノベの中で充分だわ!! 妄想的な発言は兎も角、俺に何をさせるのさ!?
魔王を倒せ!? それとも、徳川幕府とかを倒して明治維新でもしてくれってか!?
嫌だよそんなの! そんなの西郷さんとかに任せればいいじゃん!
やったとしても、打ち首の未来しか無いじゃん! 時代劇ドラマを観ていたから良く分かるよ!
俺は秋丸さんの発言に怯えていた。
任せても、きっぱり断るしかないと思っていた——打ち首の未来しかないとも思っていた。
「どうか、貴方の力で町を発展させて下さい!」
「……へっ?」
秋丸さんの発言に俺はまた恍けてしまった。秋丸さんは言葉を続けていた。
なんでも、この町は寂れており、江戸の中では知られていないらしい、名産品は……うん、俺はあまり知らない。
秋丸さんは千代田を有名で、しかも少しでもいいから他方の方々にも知られたいと。
当主としての悩みは良く分る——良く分るけど、俺は千代田を良く知っているよ? だって、秋葉原があった場所だし、秋葉原は世界で有名だから。
俺はそのことを言わなかった……だって、それで町が有名になるとは限らないから。
その前に、俺はてっきり魔王か倒幕して欲しいと思っていたから、開拓と言う言葉に不意を突かれていた。
「お願いです! 貴方の力で町を、千代田を救ってください!」
「……待って、ちょっと待って」
俺は自分の顔を片手で覆い隠すと、もう片方の手を秋丸さんに向けていた。
「整理しているけど、町を救えって、俺に出来るとは限らないじゃんか」
「いいえ、貴方が召還されたのも、千代田を救ってくれると思ったからです。賭けでした。」
そのために召還か賭けって……俺はソシャゲのキャラじゃないし……。
俺は、何処のゲームのピックアップキャラ扱いだよ……。出たとしてもNだろうな……。
「……そもそも、他に人はいなかったの? 俺よりも町を発展させられそうな人に頼めばいいじゃんか」
「それが……だめでした。頼んでも、鼻で笑われるだけでした」
俺は手をどかすと、秋丸さんは寂しそうに俯いていた。
「この町を救うとしても、産まれた町ではないのと、そんな義務は無いからでした」
「……そうなの?」
「周りの地域のこともありますし、献上品もありますからね」
「……この町、千代田には献上品は無いの?」
秋丸さんは首を左右に振る。
「ありません……献上どころか、それさえも浮かびません、私にはそう言った考えは乏しく、周りに迷惑をかけるだけです」
「自分を悲観しているって……そのために、俺を呼んだのかよ……」
「はい……どうか、お願いします」
秋丸さんは不安そうで、何処か決意した顔で頭を下げた。
「この町を救ってください! 貴方の手腕で、この町を救ってください!」
秋丸さんのお願いに俺は悩ん……でない。直に決まった。
開拓能力は、俺には無いから、そう言った理由だ。
「否、無理です。俺にはそんな力はありませんし、開拓能力もありません」
「大丈夫です! 町の者達にも出来る限りのことをさせますんで!」
「否、だから無理ですって」
「そんな! お願いします! どうか!」
「だから……本当に無理だって」
「大丈夫です! 町の者達にも出来る限りのことをさせますんで!」
「だから……って、無限ループになる発言にしか見えなくなってきたんだけど!?」
人物紹介、その二
千代田 秋丸(40歳)男性。
『千代田の町を愛し、千代田の為に動く弱小当主』
身長、170cm。体重、70キロ。
5月9日。好きな食い物、おそば。嫌いな物、うどん。
一人称は私。二人称は秋葉君。他は○○ちゃん、家来は○○。三人称はお前達。
次回、ヒロイン登場!




