24ピース
ありがとうございます。
その目から涙が流れていた。
目の前にある膝にしがみつこうとしているルイに、座ったまま手を伸ばしていたときだった。セイは、その流れた涙がルイの背中に落ちるところを見た。
「セイくん!ここがロシマ片と軸層を結ぶ場所よ。話は軸層でゆっくり聞くから、早く戻ってきてよ。でも、戻る前にすることがあったわよね。覚えてる? そう! ロシマ片の欠実を持ってくること! まだ、持ってないみたいだから、手に入ったら、糸の光を触って「あまみちゃん。会いたいよ」って大きな声で呼んでくれたら、すぐ迎えにくるわよ。待ってるわー」
セイは驚いた。ルイの背中に落ちた涙から光が出てきたからだ。
「あまみちゃん、何で糸の光がでてきたとね?」
セイが急に出した言葉で周りにいた人も驚いてしまった。
「あまみちゃん! あまみちゃんて!」
何度も、糸の光に向かって繰り返していたが、答えはなかった。
「セイ。急に誰かの名前を何度も呼んで、どうしたんじゃ?」
セイが焦っている姿にグレトも他の3人も驚いていた。ルイはリベラの胸に顔を埋めて、セイが見えないようにしていた。セイはグレトの声を聞いて、みんなには、糸の光が見えないことと、あまみの声が聞こえない事を思い出した。
「セイちゃん。私の顔から流れたのは、涙だったのですの?」
リベラはルイを優しく抱きしめながら、セイの近くに歩いてきた。ルイはリベラの胸に顔を埋めたままだった。
「なんじゃと? リベラ、本当かの?」
「はい。私があの部屋にいる小さな命の事をわかろうとしていたのかなと考えていたら、目の前にルイちゃんが来てくれたですの。そのルイちゃんの目が「わかってくれてるよ」って言ってくれているような気がしたですの。私はもっと小さな命とわかり合って生活していかないとと思ってルイちゃんに手を伸ばしていたら」、目から何かが流れたですの」
「セイ。リベラは涙が流れたのかよ?」
「どうなんだ?」
3人は涙が流れたのか聞いているが、セイにはリベラと一緒に移動しているルイの背中の近くを糸の光が一緒に動いてきている事に、目を取られてしまっていて答えることができなかった。セイに、わからないことが何個も起きていてグレトたちの大きな声も耳に入っていなかった。近くにきたリベラとルイの背中から浮かんでいる糸の光に左手を当ててみると、クオカの時と同じように温かくなってきて、左手が光り始めた。あまみが言っていたように手を離してみると、その温かさと光は消えていった。
「セイちゃん。ルイちゃんの背中が、どうかしたですの?」
リベラにはセイがルイの背中のあたりに手を添えているように見えたのだろう。「なんもなかよ」と言いながらセイはグレトの方を向いた。
「リベラから涙が流れたとよ。ルイは、自分をわかってくれたリベラの近くに行ったとよ。その時リベラは、ルイが自分の事をわかってくれようとしてくれていると思って、嬉しくて涙がでたとやないやか。その本当の気持ちはリベラにしかわからんとけど、ルイがリベラの感情を高めたのは、間違いないやろね」
「ルイがの……この小さな命は、今までずっと育ててきたと思っていたが、わしたちを育ててくれていたのかもしれないの」
「私もそう思うですの」
「「…………」」
4人はルイを見ながら、微笑んでいた。ルイも顔を動かしながら4人を見て笑っていた。
「がははははは。しかし、セイが、ロシマを他の片と結ぶために涙を流さないといけないわしは、まったくじゃ。リベラ、どうしたらいいかの? そうじゃ! 見たらできるかもしれんの。もう1度涙をだしてみるのじゃ。がははははは」
「私も、自分から流れたものですが、見えなかったですの。もう1度流すなんてできないですの」
「はぁー」
右手で頭を抱えているブリテ。その後ろでアーツも同じ動きをしていた。
「がははははは。セイ、どうしたらいいかの?」
大きな笑い声にセイも「ははははは」と笑ってしまった。
「もう大丈夫よ。リベラの涙がルイの背中に落ちて、そこに糸の光っていう、このロシマと僕が他の片を結ぶために必要な物がでてきてると。だから、グレトは涙を流さなくても大丈夫とよ」
「そうなんですの?」
「そうなのかよ?」
「そうなのか?」
「がはははは」
「ははははは」
ルイも手を動かして笑っていた。ブリテとアーツは「その、糸の光ってのはどんなものか」「あまみとはだれなのか」をセイに聞いていた。リベラはルイを抱いたまま静かに日の火から離れて歩いて行った。
「ルイちゃん。私、もっとみんなの事をわかろうとするですの。セイちゃんが言ってた、誰かが自分の事をわかってくれること、ができるようになるですの」
ルイはリベラの顔に可愛らしい手を伸ばして頬を触っていた。歩きながら、まるで独り言のように呟く声がだんだんと小さくなる。その言葉は、ルイにしっかり聞こえているようだった。
「ルイちゃん。あなたたちは、これからのロシマの命ですの。私が必ず守っていくですの」
その目からはたくさんの涙が流れていた。伸ばして頬に触れていた手はいつのまにか小さな身体に収まっていた。その小さな身体から、心地よいリズムの寝息が聞こえていた。
セイとグレトは日の火の前で2人になっていた。「まだ、セイに聞きたい事が」と言っていた2人も、リベラがいないことに気づくと家に戻っていった。
「セイ。よかったの。これでロシマが結ばれるのかの」
「そうやね。あとは」
セイは広いロシマを見ながら、「欠実を」と言いそうになったが言えないでいた。何でかはわからないが、グレトに言ってはいけないと感じていた。
「これで、結ぶことができるのじゃろ?」
その言葉と一緒に、大きな手から、欠実がセイの前に出された。
「これは、グレトの?」
「そうじゃ。お前はお前の思ったことをしたらいいんじゃ。もしかしたらお前はクオカでもロシマでも、これから出会う、たくさんの片や人にとっても変わっている者かもしれんの。しかしじゃ、その者がこのロシマを変えようとしているのじゃ。片が、人が変わるということは、凄いことなんじゃよ。セイ! ロシマはこれからもっと良くなるの。がははははは」
「そうやね。ははははは」
セイの片手に入りきらない大きな欠実を両手で包み込んで、2人は広いロシマを見下ろしながら、大きな声で笑っていた。
「226本目じゃ」
ロシマのみんなが森に、部屋に行く前にグレトがみんなをを呼び止めていた。
「みんな、セイはこのロシマを変えてくれているの。わかるじゃろ?」
みんなが、頷いたり「そうだな」と声を出していた。
「だからじゃ、ずっとこのロシマにいてもらう、というのはどうじゃ?」
今度はみんな、まったく動かず、言葉も出さない。
「どうじゃ。セイ?」
もう何の音も聞こえなかった。小さな子どもたちの声も聞こえない。
「僕は、ロシマをもっと良くするために」
「がははははは」
急に笑い出したグレトは、セイにこっちへ来いと手を動かした。
「はぁー。まったく」
頭を抱えたまま、セイを連れにいくブリテは、微笑んでいた。セイの腕を掴み、グレトが立つ日の火の横に連れて行くとグレトがブリテの耳元で何かを言っていた。そのまま、ブリテまたどこかに行ったと思ったらグレトがセイの手を取った。
「みんな。セイはこれから、ロシマを他の片と結ぶため、軸層というところにいくのじゃ。しかし、セイはこのロシマを素晴らしいといってくれたのじゃ。わしらも、このセイという男を素晴らしいと言って送り出してやらんかの」
静かだったみんなが、急に手を挙げて叫んだり、子どもたちが走り回ったり、もう日の火の周りでは声が聞こえない状態だった。
「セイ。ロシマ片は、これからもお前の仲間じゃ。またこのロシマに来れる事があるなら、その時はお前の家をつくってやるからの」
両手で、高く持ち上げたセイにグレトは叫んでいた。その近くに、エスに抱かれたルイとリベラとアーツが来ていた。ルイの背中には糸の光がしっかり浮かんでいた。
「ルイ。セイに抱っこしてもらうかい?」
ルイは動かなかった。セイの顔を見てもいない。セイに背中を見せたままだった。セイには、ルイが糸の光に触りやすいように向けてくれていると思えた。
「ルイ。もしかして糸の光が見えるとね?」
全く動かないルイを見ながら、みんなが笑っていた。セイはルイの頭を左手で軽く触り、そのまま糸の光に手をのせた。身体が温かくなってきた。左手から頭の方が光っていた。ルイが顔をこちらに向けて、目を光らしているように見えた。
「セイちゃん。これから命を、もっともっと、わかってあげるですの」
「セイ、次は、迷わず来いよ」
「これ、忘れないで持って行けよ。この袋はエスさんとオンが造ってくれたからさ」
「がははははは」
みんなが、大きな声で笑っていた。足先が光ってきた位にやっと、ルイが笑ってくれていた。
「あまみちゃん、会いたかよー」
叫びながら、セイの身体が糸の光に吸い込まれていた。
ロシマのみんなの笑い声が小さくなっていった。
「さ、行こうかの」
「私たちは、生きる命、育つ命、培う命のことをもっとわかれるようになるですの」
「よし、見てろよ。凄いのを造って待ってるからよ」
「エスさーん。石の刃の使いかたをー」
「がははははは」
新しいロシマは、動き出した。
次もよろしくおねがいします。




