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コソ泥は異世界の目を閉じた  作者: 本木蝙蝠
第1章 元素の魔石とプリズン・ブレイク
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第22話 佐沼真は手に入れる

「なん、だ……? 誰だ、おまえ……は?」


 監獄長が、俺にやっと視線を向ける。この部屋にメアリーとジンしかいないと思い込んでいたこの男は、幻覚でも見ている気分だろう。


「ただのコソ泥だよ。そんで、お前はその小汚いクソ野郎のコソ泥に殺されるんだ」


 監獄長の胸に血がにじむ。大剣は胸を深く突き刺している。それを見て、巨漢の顔が青ざめていった。


「クソ、なぜだ、なぜ……お前らのような下民に」


「あんま喋るともたないんじゃないか?」


 俺の言葉に、監獄長は耳を貸さない。ひたすらに「クソ、クソ」とつぶやいている。

 ジンも目を覚ましたのか、こちらに駆け寄ってくる。


「や、やったんですか。本当に? あの監獄長を?」


 ジンの顔には安堵あんどよりも驚きが色濃く出ていた。


「なんとかな。助かったよ、ジン。足は大丈夫か?」


「え、なんですかサヌマさん。気持ちわる……」


 おいこら。


 ジンの足からは木の槍が抜けている。まだ血は出ているが、どうにか持ちこたえたようだ。


「とにかく、あとは逃げるだけだ」


 そう言いながら、俺は監獄長の力ない指から指輪を抜き取る。賢者の石、元素の魔石の強奪成功だ。俺は剣から手を放し、メアリー、ジンと共に獄長室の扉へ向かう。


「まだだ。まだ、だあああああ」


 振り返る。


「は? ちょっと、なんで生きてんの?」


 メアリーが言うのように、監獄長はまだ息絶えていないらしかった。正気を保っているとは思えないが、胸に大剣が突き刺さったまま立ち上がっている。男はそのまま、俺たちに向かって突進してきた。


 ――まずい


 メアリーとジンの反応が遅れていた。散々消耗した後だから仕方のないことだ。だが、このままだと胸から露出している大剣に刺されてしまう。

 俺は、二人の前に出た。


「え? サヌマ?」


 俺はその剣先をつかむ。痛みが走る。そのまま、潜伏を発動させた。俺と剣だけが、消える。――潜伏状態のものは、ダメージを与えない。これで剣が二人に致命傷を与えることはないはずだ。


 監獄長はそのまま突っ走り、その巨体俺たち三人は押されたが、剣がメアリーとジンを切り裂くことはなかった。


 潜伏解除。


 監獄長は、ついに息絶えた様子だった。最後の悪あがきといった所だろう。


「サヌマ! 手!」


「だ、大丈夫ですかそれ! なんで僕らをかばうような」


 手からは当然のように血が流れていた。幸い指が切断、なんてことにはなっていない。


「問題ない。さっさと逃げるぞ」


「でもサヌマ、ここまで騒ぎを大きくしてしまったら、さすがにそろそろ看守たちが」


 そうだ、来てしまうかもしれない。しかし。


「大丈夫だ。なあ、ジン?」


 ジンが微笑する。


 ――ジンがもしも協力してくれるなら、万全を期すこともできるけどな。


 倉庫で脱獄はどうするのか、という話が出た時だ。俺はジンにそう言った。俺はあらかじめ、ジンにあることを頼んでいたのだ。


「うおおおおおおおおおおおお」


 怒号がここまで聞こえてくる。これは、そう、ジンの取り巻きたちの怒号だ。


「これって」


「そうです、バーンさん。僕があの人たちに頼んで、暴動を起こしてもらってます。看守さん達はそっちの対処でこっちには気付いていないはずです」


「や、やるじゃんジン君!」


「あはは、まあサヌマさんに頼まれて」


「いやー、俺の先見の明が怖いわ。天才だわ」


「……はいはい。とにかく、それでも急いだ方が良いわ」


「もちろんだ。で、バーン。これ」


 俺はメアリーに元素の魔石を手渡す。


「使ってくれ。それで、退路を開け」


「……言われなくても!」


 獄長室の扉を通って、振り返る。シルビアの死体を見る。俺は自分のポケットに入っていた、彼女から預かっていたアクセサリーを強く握りしめた。


「    」


 その声は小さすぎて、きっと声にはなっていない。




 監獄は大騒ぎになっていた。できるだけ隠れながら逃走を図りつつ、看守と出くわしてしまったらメアリーが元素の魔石を用いてぎ払った。いくつかの門も、同じく元素の魔石でぶち破る。結果を言ってしまえば、脱獄は成功だった。


 適当な空き家に身を潜ませる。もう追手も見えなかった。


「これから、どうするつもりですか?」


 落ち着いてから、ジンが訊ねる。

 それはまあ、決まっている。


「俺は他の賢者の石を探しに行く」


「私も付き合うわ」


 俺の言葉に、メアリーが続けた。


「……本気か?」


 メアリーは元素の魔石さえ手に入ればいいのだと、勝手に思っていたが。


「私の目的のためにも、他の賢者の石は必要よ。それに君だって、この元素の魔石は必要でしょ? なら、一緒に行動するのが理にかなってるわ」


 若干早口になるメアリーを見る。すでに意志は固いようだし、俺にとってもあり

がたい話だ。ジンの方に視線を向ける。


「ジン、お前はどうしたい?」


「うーん、どうせ僕はこのまま脱獄囚の凶悪犯ですからね。逃げ続けるしかないで

すよ」


「そうか……」


 少しだけ考える。自分自身の感情を理解する。


「もし、もしも良かったら、ついてこないか? ジン」


「……はい?」


「いや、なんだ。お前のことは巻き込んで悪かったと思ってると言うか。その、責

任? としてお前を匿うのはどうかなとか。そう言う話だ」


 ジンは少し押し黙る。


「ああいや、勘違いしてほしくないんだが、これは脅しでは全くないし、そもそもお前を脅す材料なんて脱獄した今はもうなくなったわけで、これは純粋な提案なんだけどな?」


「サヌマ、それは照れ隠しなの?」


「ち、違う! 違うぞメアリー」


「ん?」


 あ、しまった。いつも心の中でそう呼んでいるからつい。


「すまん、言い間違えた。バーン」


 メアリーは少し頬を赤くして、顔をそむけた。結んだ青い髪がかすかに揺れる。


「……ま、まあ? 最期は私の事かばってくれたみたいだし? そのお礼に、メアリーって呼ぶのを許してあげないこともないけどね?」


 ……。


「そ、そうか。じゃあ、まあ改めてよろしく、メアリー」


「え、ええ。よろしく、サヌマ」


「あ、そっちはサヌマ呼びなんだ」


「え? ああ、そりゃあ、まあね。別に心を許したわけではないしね?」


「ひどい」


「と言うか、そっちが人を呼び捨てにし過ぎなのよ。軽薄よ、軽薄」


「そう言えば僕もいつの間にか呼び捨てでしたね?」


 ジンがニヤリと笑いながら会話に参加する。


「う……、そっちの方が慣れてると言うか、ずっと裏の世界の奴らとしか関わってこなかったからつい、な。嫌なら呼び方は変えるよ」


「いやいや、良いですよ別に。サヌマさんにどう呼ばれても構いません。そんな気

兼ねしていたら、今後不都合でしょうし」


 ……今後?


 顔に疑問が出ていたのだろう。ジンはクスクスと笑う。


「良いですよ。僕もついていきます。

 まあ脅された時は正直、なんてひどい男だと思いましたけどね。どうせあのまま続けていても、あそこで死んでただけですし。自由になれた、とは言い難いかもですけど、あそこから出るきっかけをくれたのも、サヌマさんですから。

 それに、お互い秘密を暴露しあった仲ですし? 案外サヌマさんのことは悪く思ってなかったりします。助けられちゃいましたしね」


 ジンはただ悪運の強い男だと告白し、俺はこの世界の住人ではないことを告白した。確かに言われてみれば、俺たちはお互いの秘密を暴露しあったと言えるかもしれない。


「そう、か。じゃあ、よろしく頼むよ、ジン」


「はい、サヌマさん」


 俺は息をついて、壁にもたれかかった。いまだにわからないこともある。どうして監獄長は俺たちの脱獄を知っていたのか。あの監獄には、まだ何かあるのかもしれない。しかし今日までいろいろなことがありすぎた。少し先のことを考えるのは休憩にしよう。


 あの手紙を受け取ってから、ろくなことがなかったのだ。死んだし、転生したと思えば速攻で捕まるし、檻には恐ろしい女がいるし、プリン争奪戦とか言う訳の分からないものに巻き込まれるし、脱獄はバレバレだったし。

 それでも今隣にいるこの二人を見ると、まあこの世界に来たのも悪くはないのかなと、そう思えた。




第1章「元素の魔石とプリズン・ブレイク」――end

活動報告を更新しました。

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