砂の王国
照りつける日の光をつい手を掲げて遮る。
あまりに強い日差しが皮膚をヒリヒリと焼いていく独特の感覚は、灼熱の溶岩がそこら中に湧く火竜の洞窟を通った時を思い出す。
でもあの時と違い、日の光自体にそこまで熱があるわけじゃない。
「確かこのままだと皮膚が黒くなるんだっけ」
「そうです。強すぎる日差しは体にも害になります」
「ああ、だからこの国の人は暑いなか白い布で顔まで覆っているのか」
「ですので会長、早く室内へとお戻りください」
王宮のテラスから白い土煉瓦造りの街並みを眺めていたオレは部下にたしなめられて、室内に備え付けられたフカフカのソファーへと腰を沈めた。
今、オレたちのいるこの場所は砂の王国、パラティッシ王国。
水産資源は見込めないが、豊富な魔石資源が経済基盤の小国だ。
だが広大な砂漠に埋もれる豊富な魔石は、この国にとっての諸刃の剣でもある。
強大な魔物から取れる魔石は、魔物自身が死んでも失われず地層に蓄積する。
魔国の魔鉱資源と違い、魔物が存在する限り資源が尽きることはない。
反面、その強大な魔物がこの国を民を脅かすというなかなかに厳しい環境に立つ場所、それがこのパラティッシだ。
魔石の採掘は容易ではなく、豊富な資源の採掘には命の危険が隣り合わせなこの国では、採掘コストに日々頭を悩ませている。
地下水脈の水源をめぐり過去は幾度も内紛を繰り返したようだが、ヨルムンガンドの登場によって戦争は休戦。
魔王の討伐後の今は紛争が起こる気配はなく、平和が維持されているようだ。
政情の安定は経済活動の基礎。
今、ここには多くの冒険家が魔石採掘による一攫千金を求め集う夢の国となっていた。
そしてそんな夢の国の実現を手助けしているのは他でもない神竜教だ。
今年で800年に及ぶ歴史を持つ神竜教。
本拠地をこのパラティッシに構えたことで、この地に安定をもたらした。
彼らが独占する豊富な回復薬の知識と製法は、世界が平和になった今、この国と最も相性がいい。
「国王とねえ」
「光の賢者と神竜教の教皇。そして、インスタシアのアメリ長官。流石に無視は得策ではないかと」
「ま、仕方ないか」
転移でやってきたオレたちを迎えたのはバラティッシの近衛兵たちだ。
無論、敵対的歓迎ではなく、まずは国王への御目通りを要望されたのだ。
「白を基調とした白亜の神殿か……」
「会長?」
彼女と出会った場所を思い出し、少し複雑な気持ちになる。
今、オレたちがいるのはバラティッシ宮殿内部の客室だ。
この国の王族が住む場所は、城に住む他の多くの王族と違い神殿のような建築だった。
東方の国主も変わった建築の城に住んでいたが、神殿に住む王族というのは珍しい。
「この国の王族は元からこの場所に住んでたのかな?」
「ええ。この地が神竜教の本部になったことにも関係がありますが、昔からこの神殿は王族の住む城ですね」
「神竜教の影響じゃないのか?」
てっきり神竜教がここを本拠地に構えた影響で、この国もそうなったのかと思ったが。
世界に名だたる神竜教だ。
小国程度なら自分たちに都合よく変えてしまう程の影響力はあるだろう。
「この国は昔、竜神が住まう場所だったとされているんですよ」
「そうなのか?」
驚きの事実だ。
竜神の伝説は数多く世界に残っているが、ここにも竜神の影があるとは。
あの時、あの場所で見た書物によれば竜神の住処は彼女のいた場所だったはずだが。
まあ、竜の好みそうな気候なのでもしかしたらバカンスにでも訪れていたのかもしれないな。
「それで神竜教の本部もここにあるのか」
「そういうことです。まあ最近ですけどね、彼らがここを本拠地にしたのは」
ロンの言う通りだ。
神竜教の本部はむしろ大王のマケドニアにあったような気がしていた。
どうやら気の所為ではなく、何やら事情がありそうだな。
「シースたちは?」
「もう本山に戻っているかと。」
「オレたちはここに足止めだって言うのに」
「それも狙いでしょうよ」
「準備のいいことで。リビアでもシースたちには転移が決まってからは身支度があると言って1時間は待たされたけど」
「その間にバラティッシにも連絡をとっていたようですね」
「時間稼ぎか?」
「……」
「ロン?」
「あ、すみません。その可能性もありますが、そうじゃないかもしれません。本当に身支度に時間がかかっただけかもしれませんしね」
ぼうっとしているロンなんて珍しい。
やはり、この場所は彼にとって複雑な場所のようだ。
「まあ、確かにな」
相手が相手なので疑るのは仕方ないが、疑ったところでどうしようもないのも事実だ。
一応、神竜教は大所帯だったので理由はそれなりに真実性がある。
それに目的はあくまで神竜教のポーションを見せてもらうこと。
贋作でも作り始めているのだろうか?
アイテム開発で世界に名を轟かせたオレ相手にそんな無謀なことをするなら、むしろこちらに好都合。
そもそも一時間程度、時間を稼いだところでどうなるものでもないと思うが。
「そういえば、ここの王様は裁判にはきてなかったのか?」
「──ええ。来てません」
ここに来てからロンの表情は強張っている。
いつもオレを小馬鹿にするような、呆れ顔ではない、ピリッとしてるその表情。
これがロンの素なのかもしれないな。
「大丈夫か? ここは確かお前の出身だったっけ?」
「私にはもう関係ないことです」
「……そうか」
突き放したように、冷たく告げる。
この子がそう言うのなら、オレもこれ以上は深入りするべきではないだろう。
口調も本人は気づいてないだろうが、少しだけ昔に戻っているようだ。
「国王への御目通り、お前も来るか?」
「──そうですね、いきましょう」
「いいのか?」
「構いません」
てっきり断ると思っていたが意外にもロンは同行すると申し出た。
まあ、彼がいいと言うのならこちらが気にすることもないだろう。
「お、どうやら呼びに来たようだな」
迎えにきたのは礼服を来た騎士たち。
この国の騎士は鎧ではなく、白を基調として赤い竜の紋様が真ん中に入った宗教服を着ているようだ。
「カルエル様。シン陛下がお待ちです」
「了解。行くぞ、ロン」
「……」
返事もせず、ロンは黙ってオレに追従する素振りを見せた。
その表情は真剣なようにも、どこか物憂げのようにも見える。
(やれやれ)
コトがオレとシースだけの問題から外れそうな予感を覚えながら、オレたちは白一色の宮殿の中にそびえる紅い大扉へと歩いて行った。




