第7話 逃走
今回も少し展開が早いと思います
「な、なんなんだよ!?あの蜘蛛は!」
「私にも分かりませんわ。ただ……」
「ただ?」
「背中についているダイス……おそらく、あのダイスが原因ですわね」
「ダイス?」
蜘蛛の背中をよく見ると、確かに小さい銀色の八面ダイスが乗っていた。
強力な接着剤でも使ったのか、蜘蛛が動いても全く落ちる気配がない。
それに、そのダイスから何か黒いモヤみたいなのが見える。
あれは、心?
俺にもついに心が見えるようになったのか?
確信は持てなかったが、なんとなくそんな気がした。
「あのダイスには、復讐の心しかありません。一体、私たちと何か関係があるのでしょうか?まさか………ううん、あれは金色だから……」
ユリアが何か一人で呟いているが、今は蜘蛛から逃げることに集中しよう。
靴は、俺たちがさっき通った歯車があるところへと差し掛かった。
占めた!歯車を掴めばフェンスが閉まって通れないようにできる。
そうすれば、あの蜘蛛ともおさらばだ!
「左側に少し寄ってくれ!歯車を外す」
靴は、俺の言葉に反論することなく左側に寄った。
そして……タイミングを見極め、すかさず手を出し掴む!
「痛っ!?」
歯車を掴むことはできなかった。
けど、外すことはできた。
後ろの方で歯車の音が止まり、フェンスは一気に蜘蛛の前で閉まった。
しかし、蜘蛛はひるむことなく、フェンスをその巨体で突き破った。
さらに、全然痛みを感じていないのか、追いかけるスピードは落ちるどころか速くなっていた。
フェンスはかなり頑丈に作られているはずなのに……
だけど、もう一つ手はある!
「ユリア!大量の水が出てくるフェンスのレバーを引いてくれ!蜘蛛を流せるかもしれない!」
「分かりました!」
さすがのあの大きい蜘蛛でも水の流れには逆らえないだろう。
ユリアがレバーを引き、フェンスが開いた。
それと同時に、大量の水が蜘蛛に襲いかかった。
……流されたのか分からないが蜘蛛の姿は見当たらなかった。
とうとう、追いかけるのを諦めたか?
だが、違った。
天井に光る赤い目。
蜘蛛は、流されたわけではなかった。
壁を登り、天井に貼りついたまま何事もなかったかのように追いかけてきた。
どうすればいい!?
蜘蛛は、俺たちの行動を理解しているようだ。
もう何をしても無駄だ。ひたすら逃げるしかない!
「ねえ、私たちが入った井戸から脱出できるんじゃない?」
「それが、できればよかったけどな」
井戸の道は落盤によって塞がれていた。
井戸からの脱出はできなくなったが、きっとどこかに脱出できる道はあるはずだ。
だが、このまま蜘蛛に追いかけられてばかりでは脱出ルートを探す余裕がない。
靴はレバーで開いたフェンスのところへ向きを変えた。
蜘蛛も当たり前のようにフェンスを壊し、追いかける。
この蜘蛛をどうにかできれば……
……待てよ?
そもそも、蜘蛛って目が悪いはずだよな?
なんで、俺たちの居場所が分かられるんだ?
蜘蛛は目の代わりに糸を頼りにしている。
その糸の揺れを敏感に感じて、どこに獲物がいるかを正確に割り出す。
糸なんてないのに、どうやって?
いや、もしかしたらもうあるのかもしれない。
周りを糸がないかじっと探してみる。
よく見ると、空中に水滴がついているように見えた。
前、後ろ、左右のいたるところにあった。
そうか、やっぱり糸はあったんだ!
水滴の数だけ糸があると考えてもおかしくない。
だから、俺たちが逃げても蜘蛛は正確に追いかけることができるのか!
だったら、話は簡単だ。動かなければいいんだ。
前方に左右の分かれ道がある。
靴はとっさに左の道へと進んだ。
そして、また左右の分かれ道が出てきた!
俺は小声で靴に言った。
「右に行ったら、その後止まってくれ」
靴は、右の道を通った後に、動きを止めた。
バレてる可能性もあるが、これしか蜘蛛を回避する方法がない。
頼む、来ないでくれ!
みんな音を出さず、声も出さず、ただ静かにしていた。
蜘蛛の足音がわずかに聞こえる。
俺たちは足音が聞こえなくなるまで黙ったままでいた。
「…………」
足音は聞こえなくなった。
蜘蛛がいなくなった安心感から、思わず深呼吸してしまった。
「どうする?出口を探すにしても迂闊に動けないぞ」
「私に考えがありましてよ」
「ほんと!?」
「ええ。あの蜘蛛の背中についているダイスを取ればいいのですわ。そのためには………」
本当に大丈夫なのだろうか。
作戦はこうだ。
ユリアとティーナで、あの蜘蛛の囮になる。
左右に分かれてる道へ誘い込み、ユリアとティーナは左に行く。
蜘蛛が左の道へ行ったら、俺たちは右の道の出口の近くで待つ。
蜘蛛が左の道を通り過ぎたら、すかさずこの『大翼の靴』で一気に後ろへと近づく。
そこで、あの銀色の八面ダイスを取るというわけだ。
この作戦がうまくいけばいいけど……
ユリアとティーナは蜘蛛に居場所を教えるために動き回る。
そして、蜘蛛の足音が徐々に近づいてきた。
「ユリア、行きますわよ!」
「はい!」
蜘蛛はユリアとティーナの居場所を突き止め、二人を追いかける。
ユリアとティーナは、作戦通りに分かれ道で左の道へと入る。
蜘蛛も、二人を追いかけて左の道へと入る。
チャンスは一瞬!
失敗は許されない!
ユリアとティーナが出てきた。
そして、蜘蛛も道から出てくる。
今だ!!
靴は蜘蛛の背中にあるダイスにめがけて、一直線に近づいた。
しかし、蜘蛛がこちらに気づいてしまい、振り返ろうとする!
しまった、間に合わない!
俺は、ダイスを取ろうと手を出すが、人差し指がかする程度で、振り向かれてしまった。
作戦失敗だ……
俺はやられると思い、目を瞑ってしまった。
「あれ、動かなくなったよ?」
巡の言葉で目を開ける。
確かに蜘蛛は襲ってこない。
石になったみたいに全然動かなくなってしまった。
そして、蜘蛛の色がだんだんと黒くなり、消滅してしまった。
ど、どうして?
「サグル、やりましたね!」
「いや、俺は取ってない。かすっただけで」
「でも、ダイス落ちてるよ?」
巡がダイスを拾ったが、先程の蜘蛛と同じように黒くなって消えてしまった。
かすっただけで、ダイスが落ちるのか?
疑問に思ったが、蜘蛛の魔の手から逃れられたのは事実。
これで、安全に出口を探せる……と、同時に悪寒がした。
前の方から大きな音が近づいてくる。
そして、止まることを知らないくらい水が、急速に向かってきた!
「うわああああ!!」
「きゃああああ!!羽が濡れて飛べない!」
「ま、まずい……!」
靴を掴む暇もなく、俺たちは全員流されている。
息が………できない。
このままどこかに流されてしまうのか……
俺の意識は遠のいてしまった。
「…る!探!しっかりしろ!」
「はっ!こ、ここは?」
「公園だよ。巡もお前もなんでびしょ濡れになって……って、く、靴が勝手に動いたー!!!」
「し、しかも妖精?も二人いるわよ!!」
「お、おい探に巡!これはどういうことだよ!」
健吾、龍矢、咲にバレてしまった。
あとでいろいろ問いただされるんだろうな……
だけど、今はゆっくり休みたい。
「明日話すから……とりあえず帰ろう」
「あ、ああ」
健吾はティーナ。龍矢は大翼の靴。咲は巡を抱えた。
そして、まだ起きてないユリアを俺は抱え、家へ帰った。
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