表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「運命の人だと言ったのは勘違いだった」と、あっさり婚約破棄されました。  作者: ゆきのひ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/19

19 罰を受ける覚悟です

 クリスティアが公務の合間を見てルシオンの部屋を訪ねると、その扉には鍵がかかっていた。


「ルシオン、開けなさい」


 だが、返事はない。

 そこで警備兵を呼んで、強引に扉を押し開けようとしたが、侍女に持ってこさせた鍵ですでに解錠されているはずなのに、どういうわけか扉が重い。

 兵士が三人がかりで押すと、何かが倒れるような大きな音がして、扉は開いた。そして扉が重かったのは、扉の前にありったけの室内の家具が積み上げられていたからだと判明する。


 部屋の中には、倒れた家具が散乱しているだけで、ルシオンの姿はない。

 代わりにテーブルの上に残されていたのは、皇室騎士の証である徽章と、殴り書きされたような素っ気ない書き置き。


「私の成すべきことを果たして参ります。それが完了しましたら、戻って罰を受ける覚悟です」


 すぐさま皇女宮の使用人と警備兵たちにルシオンの捜索を命じると、同じ階の貴賓室に侵入された痕跡があるとの報告が上がってくる。


「どういうわけか、家具の一部が元の場所から移動しています。しかし、その階の廊下を警備していた者たちからは、貴賓室から出てきた者は確認していないとのことです」


 だとしたら、ベランダ伝いに別の部屋に移動し、そこに潜んでいるものと思われるので、同じ階の部屋を中心に皇女宮のすべての部屋をくまなく捜索すると言った警備兵を、クリスティアは制止した。


「いいえ。その必要はありません。ルシオンはもう、皇女宮の中にはいません。彼のことだから、とっくに皇宮からも抜け出しているはずです」


 確信をもって言うクリスティアに、警備兵や使用人たちは怪訝な表情を見せた。

 それも無理はない。あの貴賓室に隠し通路に通じる扉があることは、クリスティアと、その専属となった護衛騎士しか知らないのだから。


 その後、クリスティアは、バンサン伯爵邸へと向かった。

 数日前にルシオンに急を伝えに来たのは皇室騎士団だ。彼らにルシオンの行く先を問い合わせると、向かうならそこであろうと聞いたからだ。


 バンサン伯爵家と聞いて、あの夜会で一緒にいた令嬢に思い至る。その邸かと思うと、無性にいてもたってもいられなくなった。


 自分以外の者のために、罰を受けるのも厭わずに駆けつけるなんて、到底許せはしない。

 だから今すぐ、彼を取り戻しに行かないと……!

 彼を他の誰にも渡してはいけない。彼に一番愛されるべきは、自分なのだ……。



 ああ、またこの声……。

 

 このところ、何か自分ではない者に、脅迫めいた囁きを四六時中、耳元で囁かれているような気がする。

 あの夜会以来、ずっとそうだ。頭の中にうっすらと靄がかかっているような気分……。


 そして訪れたバンサン伯爵邸で目撃したのは、正気を失って取り乱し、醜く汚らわしい獣のような姿をさらした女。

 その女に襲われたビオレッタ嬢を見るや否や、一閃の躊躇いもなく彼女を救いに行ったルシオン。互いの無事を確認して、安堵の微笑みを交わした二人……。


 そう思った瞬間。


 バリンッ――。


 クリスティアの頭の中に、小さくはじけるような音が響いた。

 途端に、これまで頭の中を埋め尽くすように巣食っていた靄が晴れ、気分爽快となる。

 どんよりとしていた視界が明瞭になると、自分がなぜここにいるかにはっとして、そばに控えていた侍女に命じた。


「帰りましょう……」


 くるりと踵を返し、乗ってきた馬車へと戻る視界の端に捉えたのは、呆けた顔で地面に座り込んだ男の姿。

 皇宮での夜会などで幾度か見かけたことのある彼が誰かを思い出した時、その視線の遠い先にルシオンの隣に立つ令嬢がいるのに気づいた。

 同時に建国神話の一節が頭に浮かび、薄い笑いがこみ上げる。


(ああ、そういうこと、だったの……?)


 顔を歪めたクリスティアに気づき、怪訝そうに侍女が問う。


「殿下、どうされました?」

「いいえ、何でもありません。さあ、急いで戻りましょう……」


 ◆◆◆


 ニリア嬢の恐ろしい死は、公式には焼身自殺を謀ったということで処理されました。


 火の気のない人体から突然発火するなど、到底誰にも信じられなかったからです。その場で実際に目にしていた者たちも、何かからくりがあるのだろうと議論し、何とか一定の結論に至ったと聞きました。

 ニリア嬢は牢を抜け出した後にどこかで、自然発火を可能にする錬金道具を受け取り、それを隠し持っていて発動させたのだろう、と。


 しかし、あの警備の中、誰にも気づかれずに牢を抜け出すのは、簡単ではありません。それは協力者がいなければ不可能なこと。しかも、不可能を可能にするような。


 さすれば当てはまる人物像は一つに絞られます。それは日々、不思議な道具の研究と発明に勤しんでいる錬金術師。そして、この錬金術師と占い師の男は、同一人物なのか否か。


 おそらく彼女は、錬金術師に法外な金貨を積んで、私に復讐をした後、楽に死ねるように錬金道具を受け取ったのだろうというのが、皇宮の識者たちの見解です。

 なにせニリア嬢は、裁判の判決を待つまでもなく、禁制の毒草を用いて大勢の貴族家の令息たちを惑わし、彼らを社会的に抹殺したも同然としました。ですから、その罪に下されるのは、死よりも辛く苦しい罰であることは明白です。現にニリア嬢の実家であるヘルガ男爵家は、爵位の剥奪と滅門が言い渡され、一族の者は皆、国外への追放が決まっています。

 しかし、彼女に協力したであろう人物はいまだ捕まってはいませんし、それどころか手掛かりの気配すらないそうです。すべては闇の中――。



 あの後、現場を収集すると、すぐにルシオンは皇女宮に戻っていきました。クリスティア殿下に、主君の命に背いた自分に罰を下してほしいと願い出るためだそうです。

 しかし、ルシオンからそう願い出られた殿下は、即座に首を大きく横に振りました。


「ロンウィ卿。その必要はありません。あなたは騎士として帝国のために正しい判断をしたのです。そして、謝罪すべきはむしろ私のほうです。ここに、皇女クリスティアとして、あなたの騎士としての矜持を傷つけたことを謝罪しなければなりません。今回の私の愚行を恥じ、心より謝罪いたします」


 そうして深々とルシオンに向かって頭を下げた殿下は、続けて彼の専属護衛としての任務を解き、元の皇室騎士団への復帰を命じたのです。


「……そんなことがあったのね」


 あれから数日後、我が邸を訪ねてきたルシオンと庭園を歩きながら、ここしばらくルシオンの身に起きていた話を聞きました。


 そして今日、ルシオンが訪ねてきたのは、私のお父様へ先日の一件の事後報告をするためです。

 バンサン伯爵邸で起こったことでしたので、事後処理に奔走した皇室騎士団の一員であるルシオンが、その一連の報告書を携えてきました。


 いくら帝国の一大事だからとはいえ、大事な娘である私を巻き込んだ騎士団にひどく憤慨していたお父様ですが、当事者の私も顛末を聞いておくべきだろうと、私を執務室に呼んでくれました。

 そこで私もルシオンの口から一連の報告を受けた訳ですが、どうやら私が執務室に入る前に、お父様はルシオンを激しい口調で叱責し、それに対してルシオンは、跪かんばかりに真摯に謝罪したようなのです。それでお父様も何とか怒りを収めたようでした。


「伯爵様は、俺が皇女殿下の命令を破ってまで駆けつけたことだけは評価してくれたようだよ。それがなかったら、皇室騎士団の団長とキリアン副団長、そして俺の罷免を陛下に訴え出るつもりだったらしい……」

「ええっ? お父様ったら、そこまでしなくても……でも、お父様がそんなことをするようなら、私が止めていましたから大丈夫てすよ。だって、私が好きで手伝ったところもあるのですから」

「いや、俺や騎士団は、そうされても仕方ないことをしたよな……」

「ううん……それに、あなたがくれた革のグローブのおかげで、私は傷一つ負わなかったのですから、あなたに救われたのと同じよ。……だから、気にしないで」

「そんなこと……。お前が無事だったからよかったものの、何かあったら俺は自分が許せなかったし、俺が団長に決闘を申し出ていたかもしれないと思ってる」

「もう、本当にいいのよ。終わったことですからね。……それより皇女殿下が許してくださって、本当によかったですね。やはり聡明だというお噂は本当でしたね」

「ああ。それはそうなんだが、殿下には訳があったようなんだ……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ