ー第5項 バッカスとエリスの語らい、飲み干すべき命と未来への展望、終わらない宴と続く幸福な日々
第5項 バッカスとエリスの語らい、飲み干すべき命と未来への展望、終わらない宴と続く幸福な日々
夜が更け、VIPたちが帰った後。
俺はバルコニーに出て、夜風に当たっていた。
眼下には、眠らない街の灯りが広がっている。赤提灯の光、魔法のネオンサイン、そして酔客たちの笑い声。
それは星空よりも美しく、何よりも温かい光景だった。
「……世界、変わっちゃいましたね」
エリスが隣に立ち、俺に新しいグラスを手渡した。
中身はただの水だ。飲みすぎた夜の締めくくり。
「ああ。随分と騒がしくなったもんだ」
「後悔していますか?」
「まさか。こんなに美味い酒が飲める世界になったんだ。後悔なんてあるわけがない」
俺は断言した。
転生してきた当初の、あの灰色で陰気な世界はもうない。
人々は欲望を解放し、本能のままに生きている。それは一見すると堕落に見えるかもしれない。だが、その瞳には確かに「生気」が宿っている。
彼らは自分の足で立ち、自分の手でグラスを掴み、自分の口で人生を味わっているのだ。
「ねえ、バッカスさん。次はどんなお酒を作るんですか?」
「そうだな……。今度は『星の輝き』を漬け込んだリキュールなんてどうだ? 宇宙まで飛べるようなやつを」
「ふふっ、また無茶苦茶なことを。でも、貴方なら本当に作ってしまいそうですね」
エリスが楽しそうに笑う。
俺の肩には、小型化した(分身した)『おつまみ』が戻ってきていた。
こいつは俺の感情――「達成感」と「これからのワクワク」を吸い取り、心地よい振動で応えている。
「さあ、エリス。夜はまだ長い。明日の仕込みもあるが……その前に」
俺は水が入ったグラスを置き、再び酒瓶を手に取った。
「最後の一杯を付き合ってくれるか?」
「もう、しょうがないですね。……付き合いますよ、どこまでも」
俺たちはグラスを合わせた。
カチン、という澄んだ音が、新しい時代の幕開けを告げる鐘のように響いた。
「さあ、今日も命を飲み干そう」
それが俺たちの合言葉だ。
苦しみも、悲しみも、喜びも、すべてをブレンドして、極上の人生という名のカクテルにする。
地上楽園『ネオ・ゴクラク』。
ここでは誰もが主役で、誰もが酔っ払いだ。
俺の、そして俺たちの宴は、まだまだ終わらない。世界中の涙が枯れ果て、すべてのグラスが笑顔で満たされるその日まで。
(完)




