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境への旅  作者: 火吹き石
20/21

20.別れ

 市門から出て少し歩いたところで、フチの歩みが遅くなった。三人は道の脇に逸れ、足を止めた。氏族の若い戦士は、静かな笑みを浮かべていた。一つ頭を下げる。


「名残惜しいが、私がついて行けるのはここまでだ。」


 あたりには早朝のひんやりした空気が漂っていた。フチの背後の道には、近郊の農地で働く人々をはじめとして、大勢が歩いているところだった。人々は、足を止めている三人の旅人にちらと目を向けるが、それきりそっぽを向くと、ただ歩くことに気を向ける。これから仕事がはじまるのだ。余所者三人が何をしていようと、気にすることもないのだろう。


 コダマは何かを言おうとして、口を開きかけた。だが言葉は出てこなかった。ただ一歩進むと、フチの肩を抱いた。フチも、コダマの肩を抱き返し、とんとんと背を叩いた。


 その様子を見て、ハヤテはくっくと喉を鳴らして笑った。


「まったく、別に今生の別れってわけでもないだろうになあ。」


 そう言って、フチの肩を軽く叩いた。


「おれはまた会いに来るよ。たぶんな。約束はしないけど。」


「それはきっと誠実さの表れだろう。」


 フチはコダマから腕を離すと、ハヤテに微笑みかけた。


「確実ではない約束はしないということだ。私もそれに倣うべきだな。」


 そう言って、フチはコダマに顔を向けた。


「私も再会を約束することはできない。だが、二人のことを忘れたりはしないだろう。」


「おれも忘れない。」


 コダマは言った。秘術師はいまにも泣きそうな顔をしていた。ハヤテは、また喉を鳴らすように笑った。


「昨日、さんざん泣いたくせになあ。また泣くのか。」


「うるせえな。」


 コダマは毒づいて、ハヤテに蹴りを喰らわせた。それから、手の甲で目を拭うと、コダマはフチの肩をまた抱いた。


「じゃあな。きっと――きっと、また会いに来る。」


 コダマは言うと、身を離した。だが、歩き出そうとはしなかった。ハヤテは苦笑しつつ、コダマの肩を叩いて、先に歩き出した。コダマはハヤテについて歩いた。


 町から去る間、コダマは何度も何度もフチを振り返った。そのたびに、フチは手を上げて別れの挨拶をした。幾度も振り返って、やがて道の起伏に隠れて、フチのすがたは見えなくなった。

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